日清戦争-02 貧困の国
貧困の国
行軍完了後の居留民保護部隊 出向第9旅団先遣隊
朝鮮首都 漢城 11日朝
「貧しいな…」
行軍する集落は荒れている。朝鮮人からの視線がひどい。
「朝鮮王朝の腐敗は目を覆いとうなる。と聞くが、それがこれなのか?」
行軍中の仲間がつぶやく。
「だけじゃないと聞いております。」
「なんじゃ?田中一等卒。(出兵に伴い臨時昇進。戦死の前渡しかと冗談で言い、周りを困惑させる。なお、この時期には戦死による特進の風習はなかった。)」
「広島の商店から聞いています。腐敗だけじゃなくて貿易赤字もひどいと。」
「貿易赤字?」
「想像してほしいのですが、日本はいろいろなものを外国から買っています」
「確かに。呉に海軍の鎮守府だっけ?できたけど、海軍の船はみんな外国で作られたもんじゃったな」
「そして日本も外国にモノを売っています。生糸とかね。」
「ほー」
「金額で考えてみて軍艦のほうが生糸より高ければどうなります?」
「金が外国に行ってしまう。」
「金がなくなれば?」
「軍艦を買えなくなる。」
「それが嫌なら?」
「たくさん生糸を売る。」
「まあそうなるでしょう。でも何も売るものがあなければ…食料を売るしかない…」
「ほいじゃあこの国の人は自分たちの食べる分を売っとるということかの?」
「そうです。かれらにとって日本人は食料を奪ってゆく存在に見えるでしょう…」
それを聞いた周りの兵士たちは周りに対して驚きの視線を向ける。
「軍規では略奪を禁じているその理由の一つを知っているならその恐ろしさがわかると思います。」
その発言が彼らの恐怖を増長させる。
「今回の出兵、輜重に関して想定以上に重要ですね。報告書には『朝鮮国内の日本人への嫌悪感情飢餓商売の結果酷し、悪化原因となる物資徴発は避けられたし。』という表題を追加すべきと愚考いたします。通信料を考慮して電報には『嫌日感情飢餓商売の結果酷し』で送りましょう。それだけでわかるはずです。」
田中はその場にいる上官に対して田中は意見する。
「ではここで食料を購入しにくいではないか?」
「商人から購入する分には問題ないでしょう。ですが農村で現地調達は厳しい。戦争が長引けばすぐに冬…住民の冬越えができず、餓死者が出ようものなら今以上に日本は恨まれることになる…それを考えれば国内から海を越えて輸送する手はずを整えなければなりません。幸い敵軍がいる地域は海沿い…艦隊さえなんとかできれば…補給は容易でしょう…」
「それが難しいんだよな…」
待ち構えるは当時極東最大の艦隊と極東最大の巨艦を有する清国艦隊。それを思うとその場にいる陸軍兵はともに来た海兵の顔を思い浮かべる。あの中の何人が生き残るのだろうか…
しかも陸戦隊を出した艦には松島や赤城、千代田が含まれている…史実では黄海海戦に参加した船であり、特に松島・千代田は何も知らない彼らでも多少説明を聞けば主力として戦うことが確定した艦である。
なお、この時気にされていない赤城が最も人員損耗率の高い艦になることは知る由もない。
「大丈夫ですよ。」
この時義三は唯一笑顔を見せる。
「弾込めの遅い砲は当たりません。当たらねばどうということはありませんから。」




