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クラスで地味な俺の彼女が人気モデルであることはまだ誰も知らない

作者: 天川希望

 俺の名前は佐伯(さえき)春斗(はると)

 これといった取り柄のない平凡な高校生である。


 ただ、唯一平凡ではない事があるとすれば、俺には彼女がいると言うことだ。


 彼女の名前は南野(みなみの)結衣(ゆい)

 おさげにした長い黒髪と、眼鏡が特徴的な、いかにもな文学少女風の見た目で、性格も静かでおとなしいため、クラスではあまり目立たない女の子である。


 身長は低めで、細身ながらも、出るところはそれなりに出ていて、引っ込むところはかなり引き締まっているかなり女性らしいスタイルなので、女子の中ではかなり羨ましがられている。


 しかし、それも当然である。

 学校ではあまり目立たない彼女だが、世間では超有名なのだから。


 何といっても、彼女は雑誌モデルの仕事をしている、活動名YUIの超人気モデルなのだ。

 中高生向けのファッション雑誌を軸として、今は幅広い雑誌のモデルとして引っ張りだこなのである。


 今現在も、クラスの連中の会話の中で名前があがっているほどだ。


 しかしまぁ、そんな彼女も学校では目立たない。

 今もこうして、俺と二人で机をくっつけて弁当を食べているのだが、全く相手にされない。


 いや、俺と結衣が付き合っていることは知れ渡っているので、単純にちょっかいを出さないようにしてくれているだけなのかもしれないが。


「春斗君、お弁当、おいしい?」

 

 そんな風に俺が考え込んでいると、その彼女が不安そうな表情で俺を見つめていた。


「うん、美味しいよ。ありがとう、結衣」

「えへへ」


 俺が素直に感想を言うと、不安そうだった表情が嘘のようにだらしない笑顔へと移り変わった。

 そんな彼女を見て、俺も思わずニヤケそうになるのだが、グッとこらえて彼女の頭をなでる。


 こんな感じで、結衣は、別に正体を隠すために静かに過ごしているわけではなく、元々内気な性格なのである。

 俺も付き合う前までは彼女がYUIだなんて微塵も感じたことは無かった。


「春斗君、ちょっといい?」

「ん?どうした?」


 俺が彼女の可愛さを改めて感じていると、その彼女が辺りをきょろきょろと見回してから俺の耳元で呟いた。


「今日もちょっとお仕事が入っちゃって、一緒に来てほしくて……」


 そう言い切ると、サッと俺の耳元から顔を離して、「ダメ?」と懇願するように首を傾げた。


 そんな姿を見て、断れるはずもなく、というか元々断る理由もないので、俺は素直に了承の返事をした。


 すると、ホッとしたのか、安心した表情を浮かべる結衣が愛おしくて思わずギュッとしたくなったが、さすがに公衆の面前でイチャイチャできるほど肝の座った男ではないので、頭をなでるだけにする。


「それじゃ、仕事終わったら一緒に飯でも食って帰るか」

「うん!」


 そう言って返事した彼女は、いつも通り可愛すぎた。




「お疲れ様、結衣」

「ありがとう、春斗君」


 撮影が無事終わり、服を着替えてきた結衣と合流すると、早速近くにあるいつも行くファミレスへと向かった。


 もう毎回のように撮影に同行している俺だが、未だに他のモデルさんと会ったり話したりするのは慣れず、結衣のマネージャーさんの近くでひっそりと彼女の姿を眺めることしかできなかった。


 しかしまぁ、さすがにこう何度も同行しているため、関係者の人たちには、俺と結衣が付き合っていることは知れ渡っていて、基本的には好意的に接してもらっていた。


 たまに男のモデルにじーっと見られることはあるが、俺と彼女の仲を見ると、どこか納得したような表情を浮かべるやつもいるが、一体全体どういう心境なのかよく分からない。


 とまぁこんな感じで俺は仕事中の生き生きとしたYUIも、今俺の目の前でハンバーグを頬張って幸せそうにしている可愛い結衣も、どっちも好きなんだなと改めて感じた。


 そんな俺に、口元に着いたソースをティッシュで拭いながら結衣が話しかけてきた。


「春斗君、今週の日曜日って空いてる?」

「あぁ、空いてるよ」

「良かった……。実は一緒に行きたいところがあって」

「分かった。じゃぁ日曜日は予定空けとくから、時間とか決まったら教えて」

「うん、分かった。ありがとう」


 俺の返事を聞いた結衣は、サッとスマホに何かを打ち込んで、すぐに食事を再開した。


 俺はどこに行くのかと少し期待を膨らませながら、同じようにハンバーグを口に運んだ。




 時は流れ日曜日になった。

 待ち合わせ時間の10時より三十分も早く来てしまった俺は、携帯を開いて今日の予定を確認した。


「遊園地、ね」


 俺はそう呟くと、結衣からの提案としては意外なチョイスだなと思った。


 もっと静かなところを好む彼女は、普段は映画館や公園ちょっと広くてショッピングモールだったので、やはり今回のはしゃぐ様な場所はイメージとは合わなかった。


 だからこそ、今回のデートには何かしら意味があるのかなと思ってしまう。


「別れ話だったら嫌だな……」


 俺は少しの不安を抱きつつも、それに勝る楽しみな気持ちで心を満たした。


「お待たせ、春斗君」

「全然まってないよ。俺も今来たところだから」


 そんなことを考えながら待っていると、待ち合わせの十五分前に結衣が小走りで現れた。


 俺たちは待ち合わせのテンプレイベントをいつも通り終えると、早速目的地へと足を運んだ。



「すごーい!」


 入園するや否や、あまりに壮大な光景に、結衣が目を輝かせていた。


 俺はそんな彼女を横目に、改めて園内を見回した。


 いくつかのジェットコースターのレールが交差し、あちらこちらでマスコットキャラクターが子どもと戯れている。

 そして何より、一際目立つ大きな観覧車だ。


 この遊園地はこの観覧車を売りにしているほど大きなもので日本でもかなり大きな部類に入るらしい。


 俺がそんな感じであっけに取られていると、そっと結衣が俺の手を握って、俺を引っ張るように歩き出した。


「春斗君!早く行こ!」

「分かった分かった」


 まるで子供の様にはしゃぐ彼女は、普段とも仕事とも違う、真新しい一面だった。


 俺はそんな彼女に微笑みかけながら、様々なアトラクションに連れまわされることにした。



 ジェットコースターやメリーゴーランド、コーヒーカップにお化け屋敷と、一通りアトラクションを楽しんだ俺たちは、一度休憩をとるために近くのベンチに座った。


「悪い、ちょっと飲み物買ってくる」

「うん、分かった。ここで待ってるね」


 結衣の返事を聞いた俺は、そう言ってすぐに自販機へと向かった。


 そして、飲み物を買って帰ってくると、結衣の周りに数人の男が群がっていた。


 俺はその光景を見て、すぐにしまったと思った。

 こんな場所なのだから、ナンパしてくる輩がいることなんて分かっていたはずなのに、と。


 俺はそんなことを考えると、すぐに結衣の元へと向かった。


「ねぇ、いいだろ?別に悪いようにはしないからさ」

「あの、えっと、私彼氏と来ていて、その……」

「そう言って、ほんとはいないんでしょ?ほら、一緒に行こうぜ」


 そう言って、ナンパ野郎が結衣の手を掴もうとしたその時、俺はギリギリ間に合い、その男の手を捻りあげた。


「おい、そんな汚い手で俺の彼女に触れるな」

「な!」


 俺が力を強めると、男は顔を歪めて、俺を睨んできた。


「彼女は俺の恋人だ。分かったらさっさと失せろ」

「くそ、ほんとに男連れだったのかよ」


 そんなことを吐き捨てながら、男は俺の手を払い除け、取り巻きの連中を連れてさっさと履けていった。


 その様子を見た俺は、すぐに結衣に声をかける。


「ごめん、大丈夫だった?」

「う、うん何とか」


 そう言った彼女の額には、少し冷や汗が見て取れた。

 俺はそんな様子を見て、「帰ろうか」と提案したのだが、「それなら最後に観覧車に乗りたい」と言われ、俺たちは観覧車に乗ることにした。


「綺麗だね…」

「そうだな」


 観覧車に隣り合わせで座った俺たちは、窓の外に見える景色を眺めながらそう言い合った。


 実際、セールスポイントにしているだけあって、かなり高くまで上るし、夕日に照らされた景色も抜群だった。


 そして、そんなゆったりとした時間が流れる中、もうすぐ頂上に差し掛かろうかという時に、結衣が話しかけてきた。


「春斗君、ちょっとこっち見て」

「ん?どうした━━」


 結衣に呼ばれ、返事をしながら振り返った俺は、物理的(・・・)に続きを発することができなくなった。


 一瞬何が起こったのか分からなかった俺は、彼女が目をつぶって俺の目の前にいる光景を見て、ようやく理解した。


 唇に感じるぬくもり、触れ合いそうなほど近い鼻。

 間違いなく、俺たちは今キスをしていた。


 俺たちは付き合ってから半年ほどたつ。


 しかし、手を繋いだり、時折ハグをしたりする程度で、それ以上の関係にはなっていなかった。

 別に俺も急ぐ気持ちは無かったので、特に気にはしていなかったが、それでもやはりそういうモノに憧れが無いわけではなかった。


 だからこそ、驚いた。

 まさか結衣から、俺の唇にそっと口づけをしてくれるとは思っていなかったから。


 ほんの一瞬だけの軽いキスだったのに、体感時間はその何十倍にも感じられた。


 そっと顔を離した結衣は、夕日のせいか、それとも羞恥のせいか、顔を真っ赤にして目線を下に向けていた。


「こ、この観覧車の頂上で、キ、キスをした恋人は、永遠に結ばれるって、そう言われてるらしくて、だから、その……」


 よっぽど緊張していたであろうことが伝わる程、彼女はてんぱりながらそう話してくれた。


 俺はその話を聞いて、そっと彼女を抱きしめた。


「は、春斗君?」

「そんなことしなくたって、俺は絶対結衣を離したりなんかしないよ」


 俺がそうささやくと、結衣は少しだけ気の抜けた笑顔になって、腕の力を少し強めた。


「私も、春斗君とずっと一緒に居たい」

「当たり前だ。この先、何があっても離さない」

「ありがとう、春斗君」


 そう言って、俺たちはもう一度口づけをした。

 今度は少し長めに、しかしあくまでも軽い口づけを。




 しばらくすると観覧車は一周を終え、俺たちはゴンドラから出た。


 そして、だいぶ暗くなってきた辺りを見渡して、今日はもう帰ることにした。


「今日は楽しかったね」

「そうだな。連れてきてくれてありがとな、結衣」


 俺がそういうと、彼女もニコリと微笑み返してくれる。


「また、一緒に行こうね、春斗君」

「あぁ、そうだな」


 帰り道、今日一番の笑顔でそう言った彼女のすがたを見て、俺はこの可愛くて健気な彼女を、これからも大切にしていこうと思うのであった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


・感想等々頂けると幸いです

・一つでもいいので☆を頂けると喜びます

・人気があれば、連載しようと思います

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