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【一般】現代恋愛短編集

借りもの競争で『好きな人』を引かされたから揶揄い目的で仕掛けた幼馴染のところに行ったら付き合うことになった

作者: マノイ

了爾りょうじ、頑張んなさいよ」

「いって、叩くなよ」


 体育祭のとある種目で自分の番を待っていると、幼馴染の越谷こしがや あかねがやってきて背中を思いっきり叩いて来やがった。


「気合入れてやったのよ」

「限度があるだろうが限度が」

「何よ、男がグチグチみっともない。そんなんじゃ山百合やまゆり先輩に嫌われるわよ」

「なんでそこで山百合先輩が出て来るんだよ」

「さぁ~どうしてかしらね~」


 山百合先輩は俺が所属しているサイエンス部の先輩の女性で、聡明で博識で美人で男連中から絶大な人気を集めている人だ。


「せっかくのチャンスなんだから男を見せなさいよ」

「どういう意味だ?」

「さぁね、ほら、そろそろ順番だよ」

「だから叩くなって、いてぇよ」


 茜は一体何を言ってるんだろうか。


 男を見せるも何も、俺がこれから参加するのは『借りもの競争』だぞ。

 コメディ要素の強いお遊び的な種目だから格好良いシーンとかは無いと思うのだが。


 そもそも疲れなくて楽そうだからこの種目を選んだんだ。

 適当に終わらせるつもりだぞ。


 おっと俺の番が来たか。


『ヨーイ!ドン!』


 スタートしてから二十メートル程離れたところに『借りもの』の内容が書かれた紙が置かれている。

 俺は急がずに小走りで向かったが、先に紙を拾った連中の様子がどうもおかしい。

 借りものの内容を確認した彼らは皆、動きが止まって硬直している。


 嫌な予感がするが、スタートしたからには後には退けない。

 俺は余りものの紙を拾って中身を確認した。


『好きな人』


 なんつーお題を出すんだよ。

 まてよ、まさか今回は全部同じお題じゃないだろうな。


 いや、きっとそうだ。

 だからみんな動きが止まったんだ。


 俺はこんなあくどいことをする奴に一人だけ心当たりがあった。

 茜だ。


 あいつは体育祭委員だから『借りもの』の内容を決めることが出来るはず。

 それにほら、チラリとあいつの方を見るとこっちをみてニヤニヤしてやがる。

 黒だな。真っ黒だ。


 だからあいつ、さっき山百合先輩がどうとか言ってたのか。


 う~んどうしようか。

 このままあいつの思い通りに動くのも癪だよな。


 お、面白い事思いついたぞ。

 くっくっくっ、あいつを慌てさせてやるぜ。

 あいつ日頃から俺にだけ態度が悪いからな、少し懲らしめてやる。


 気付いたら俺以外の人も動き出していた。

 頑張れ、お前らのかたきは俺がとってやる。


 俺が向かうべきところはもちろん決まっている。


「茜、行くぞ」

「え?」


 茜を借りて戸惑わせる。

 こいつはお題を知っているはずだから驚いて狼狽えるだろう。


「ま、まって、え、私、なんで、え?」

「ほらいいから行くぞ」


 俺は有無を言わさず茜の腕を取って歩き出した。

 基本的に借りもの競争は借りる側はお断り厳禁だから茜はついてくるしかない。


「了爾、違うでしょ、間違ってるよ、私じゃないでしょ」

「ほーん、お前はこの『借りもの』の内容を知ってるんだ。誰がどれを引くかなんて分からないはずなのに」

「う゛……いや、それは、その」


 馬鹿め、その反応は白状したようなものだろ。

 こいつマジで全部同じのを用意しやがったな。


「さぁほら行くぞ、早くしないと最下位になっちまう」

「はうう、なんで、どうして……」


 ようやく観念したか。

 流石に圧倒的最下位で全校生徒にジロジロと見られるのは恥ずかしいから少し急ごう。


 茜の様子は……くっくっくっ、狙い通りにめっちゃ照れてるな。

 顔を真っ赤にしてやがる。

 いつもいつも俺を叩いたり罵倒してきやがって、いい気味だ。


 何勘違いしてるんだバーカって後で揶揄ってやる。




 …………しかし、こいつこんなに可愛かったっけ?




 いつもとは違って大人しいだけなのに、別人みたいに見える。


 クソ、昔こいつを好きだった時の気持ちが蘇って来ちまったじゃねーか。


 俺の初恋相手は茜だ。

 幼い頃はそうとは思わなかったが、中学生になって思春期を迎えると可愛く成長した茜の事を普通に好きになった。

 だがこいつはいつからか俺にだけキツいことを言ったり暴力を振うようになってきたから、いつしかその恋心は消えてしまっていた。


 今の茜は昔の大人しい頃の茜だ。

 しかも可愛さはぐっと増している。


 やべぇ、なんかドキドキしてきやがった。

 こいつを揶揄うつもりだったのに、どうしてこんなことに。


 まぁいいや、これは一時の気の迷い。

 ゴールしてこいつを揶揄ったら怒られて元通りだ。


 俺と茜は微妙な空気のままギリギリ最下位でゴールした。




 茜、真っ赤になってどうしたんだ?

 バーカ、お前の考えなんてお見通しなんだよ。

 ねぇ恥ずかしかった?恥ずかしかった?


 普段なら茜を揶揄う言葉がすぐに出て来るのに、何故かそれが出てこない。

 茜も俺の体操服の裾をちょこんと掴んでもじもじしてやがる。


 これじゃあまるで茜が本当に……


「ねぇ、どうして山百合先輩のとこに行かなかったの?」


 俺が逡巡していたら茜に先を越されてしまった。

 そういやこいつ、ずっと勘違いしてたな。


「え、ああ、前から言ってただろ。山百合先輩はそういうんじゃないって」

「あれ本気だったの?」

「お前、いつも嘘だって断言してたよな」

「だって了爾、山百合先輩の前で照れてたじゃん」

「そりゃああんな綺麗な人の前だったら誰だって照れるだろ」


 俺は山百合先輩を尊敬しているが、別に恋しているわけではないぞ。

 恋していたとしても山百合先輩が相手なのはダメだろう。


「それに山百合先輩、大学生の超イケメン彼氏がいるんだぜ。あの人見たら争う気すら起きないよ」


 サイエンス部の連中はみんな知ってる。

 というか、山百合先輩が敢えてあの人を学校に連れて来て男連中を諦めさせたんだろうな。


「そ、そっか、勘違いだったんだ……………………えへへ」


 こいつ本当に誰だよ!?

 可愛すぎる。


 早く……早くネタバラシをしないと。


「それで、その、そういう、こと、なん……だよ……………………ね?」


 ね?のとこだけ上目遣いとか、狙ってやってるんだよな!

 逆に俺が揶揄われてるんだよな!


 冗談でしたー

 本気に思った?

 ってこれから言うんだよな!


 そうだよな!そうだと言って!


「嬉しい……私も……了爾のこと……好き」


 こいつが。


 俺の事を。


 好き?


 そんな馬鹿な。

 こいつは俺の事を何とも思ってなかったはずだろ。

 むしろ嫌いのはずだろ。


 だってあんなに邪険にしてきたじゃん!


「でも、お前、そんなそぶり……」


 辛うじてそれだけ言えた。


 こいつのこれまでの俺に対する態度。


 それが俺の心の最後の防波堤だった。


「恥ずかしくってつい……きゃあっ!」


 防波堤は崩壊し、茜に抱き着いてしまった。


 まさかこれまでのこいつの態度が全部照れ隠しだなんて思わなかった。


 もしそれを知っていたら、俺はとっくに告白していたのに。


 体操服越しに伝わる茜の熱と柔らかな感触が俺の鼓動を早めて行く。

 仄かな汗の香りが鼻孔をくすぐり、くらくらとする。


 どちらからともなく俺達は見つめ合い、そして……




『はーい、それじゃあ皆さんご一緒に』


『爆発しろ!』


『皆様、節度あるお付き合いをお願いしますね。それでは次の組に……』




 体育祭の途中であることを完全に忘れていた。


 茜とのラブラブシーンを全生徒に見られていただと!


 実況が煽ってくれなかったら俺は衆人環視の元で……


 うおおおお!恥ずかしくて死ねるうううう!


 俺達は体育祭委員に背中を押されて強引に解散させられた。

 周りを見渡すと男連中の殺意に満ちた視線と、女子達の恋に恋するような視線が俺達に集められていた。

 これから俺は袋叩きに合うんだろうな。


 後で聞いた話だが、あの時にイチャついてたのは俺達だけじゃなかったらしい。

 どうやら俺と同じ組の走者は、彼女がいる男子やどう見ても両想いなのに踏み出せない男子などが集められていたらしい。

 茜いわく、恋の応援をする組だった、とのこと。


「でも茜、どうして俺と山百合先輩の応援をしようと思ったんだ?」


 茜が俺の事を好きならば、恋のライバルとくっつけようとするのは変な話だ。


「だって好きな人には幸せになって貰いたいから……」

「俺絶対茜を幸せにする」

「ふぇ!?」


 自分が身を引いてでも俺の幸せを願うなんて健気なことを言われたから、反射的にそう答えてしまった。


 あの体育祭の日から、茜の照れ隠しは鳴りを潜め、代わりに素直に俺への恋心を態度に示してくれるようになった。


 その姿があまりにも可愛すぎて、俺は初恋の時以上に茜に夢中になっていた。


 ごめんなさい、体育祭の時の実況さん。


 俺は『節度のあるお付き合い』が出来る気がしません。

イチオシキャラは実況の人です。


※以下は後で消す予定ですが、消し忘れていたら無視してください※


6/8

次回の現実世界恋愛の短編投稿は来週になります。

その間に長編投稿と異世界恋愛短編を一本だけ投稿予定です。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 片思いしてる幼馴染の幸せを願ったら、自分が幸せになれた事 お互いの想定とは違う結果に辿り着いた事が面白くもあり幸せな気分にもなれました。 [気になる点] 万が一他の男子のお題で茜が選ばれて…
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