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また騒動

(どうも変だ。お袋はどうしてなんも言ってこねえんだ?)


 同胞達がカラオケで楽しんでいる間、銀杏は隙間の時間で身内のことについて考えていた。


 銀杏と紫が学園に通うことになったのは、未来視の能力を持つ銀杏の母がそうしなければ二人が死ぬ可能性が高いと判断したからだ。


 しかしペルセウスが打ち倒されたことで彼女達の危機は去ったはずであり、なんらかの接触があってもいい筈だ。


(昔っから変な人だとは思ってるが……)


 銀杏にとって問題なのは未来視のせいか母親がかなりの変人なことで、直接の子供である銀杏でもいまいち把握できていない感性の持ち主であることだ。


(まあ、未来視って言っても完全なものじゃねえしな)


 とは言え未来視も完全な予言の類という訳ではなく、あくまで見える範囲でのみ分かると言ったものであるし、なによりこの街には予言や予知を超えてしまう墨也がいるので、かなりあやふやなものになってしまう。


(こっちも気楽でいいんだけどよ)


 そんな変わり者の母親だが古くから続く戸鎖家の一員であり、孫は見せなさいと念押ししてくるので、紫と付き合っている銀杏としても連絡があれば面倒になるから助かっていた。


 銀杏にすれば優秀なだけで他は考慮されていない男の子を産むなど、断じて許容できない事態なのである。


「……この曲聞いたことあるな」


「今流行ってるんじゃない?」


 考え事を止めた銀杏は紫に視線を向け、心白と真黄が歌っているラブソングに耳を傾ける。


 リズムのいい真黄に心白が抑揚がない声で合わせる歌は、悪く言えば俗な曲と隔離されて育った紫と銀杏でも聞いたことのあるものだ。


(やっぱキズナマキナがカラオケに来たらラブソングになるんだな)


 銀杏は心白と真黄は恋人同士なのだから、恋人の歌になるのは当然かと納得する。


「俺らもこれ歌うか?」


「そうしようか」


 そして銀杏が恋人の紫を誘うと照れたような笑みが返ってきた。


 ◆


「ふーい歌った歌ったー」


「ねー!」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、満足ですという感情が溢れた顔の真黄と桜を先頭に、キズナマキナ達は商店街を歩く。


 が。


 ぴたりと六人全員の足が止まった。


 強敵の出現ではない。危機的状況に遭遇した訳でもない。


 彼女達の視線の先には……。


 トレーニング機器とプロテインや栄養剤を専門とする地味な店があった。


(マッサージ店の閉店時間はそろそろだから今は……)


 無意識に赤奈は上品な腕時計で時間を確認して、思い浮かべた人物である墨也はいないと判断した。


 それは赤奈だけではなく桜、真黄、心白。そして銀杏と紫も同じで、一条マッサージ店の営業時間について考えていた。


『ギューン! ギューン! ギューン!』


「え!?」


 突然端末から鳴り響いた緊急事態を知らせる不快な音に、キズナマキナ達は心底驚愕した。


 学生時代に一度も招集されたことがないキズナマキナの方が多いのに、これで彼女達は三度目になる。まだ夏に入る前であることを考えると異常な頻度だ。


「行きましょう!」


「はい!」


 年長である赤奈が仕切ると、空域が確保されていることを確認した六人は商店街を抜け出し空へと飛び立った。


 ◆


(さて、晩飯はどうするか)


 閉店した店を後にした墨也が夕飯のことを考えながら歩く。


 基本的には鶏の胸肉、ブロッコリー、パスタなど筋肉のための食品。そしてプロテイン、追加のプロテインに締めのプロテインという食事である墨也だが、学生時代からこのようなスタイルだったため女性からドン引きされていた。


 このストイックすぎる生活が普通の女性から恋愛対象と見られなかった原因で、刺激を求める女には面白みに欠ける男と認識されていた。


 それが学生時代の同年の女子生徒達なら尚更で、墨也は独特な立ち位置の学生だった。


 尤もいくら異端を排除しやすい学校という環境でも、明らかにヤバい肉体を持っている墨也に突っかかってくる者はおらず、人によっては裏番長のように認識されていた。


 それがここ最近では、そのストイックなスタイルを求める女達に連続で出会っており、人生とは何が起こるか分からないものである。


「わんわん!」


「あ、ちょっと待ってよポチ!」


(可愛らしい……は止めておくか。犬の方は気にしてるかもしれん)


 尤も人間としての感情が麻痺しているのではなく、通りすがりの豆柴が可愛らしいと思うような感性はちゃんとある。


「またか……世紀末でもないのに最近どうなってんだ?」


 ふと墨也が空を見上げると、六色が輝きながら飛翔していた。


「様子を見に行くとするか」


 関わりのあるキズナマキナの緊急出動を見た墨也も予定を変える。


 話は変わりこじつけになるがペルセウスとメドゥーサの戦い、そして関係者の筆頭であるアテナとアラクネの逸話まで伸ばすと妙な点で一致をする存在がいる。


 蛇の系譜にして鏡のような水面の己を嫌い、伝説となる武具と神々より賜ったもの()を用いた英雄に騙し討ちされ、土蜘蛛と並ぶ戦果となった存在。


 違う点があるとすれば現時点では……。


 鬼だということだろう。


 場所は京の都。


 丹波と丹後の境。


 平安を中心とした世界の敵。


 日本最強の一柱。


 酒呑童子の住処だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひい爺さんは白面金毛九尾(の力を継いだ存在)と遭遇(するだけじゃない)して、 ひ孫は酒呑童子か……後は鈴鹿の悪鬼でコンプリートですね! まぁ白面金毛九尾の事を考えるとこいつも下手すると世鬼ク…
[一言] >刺激を求める女には面白みに欠ける男と認識されていた。 ??? ぱっと見でも刺激しか無いんじゃないかこの筋肉は…? 鬼といえば筋肉、もうお分かりですね。つまりこれから行われるのはマッスルバト…
[気になる点] 全身筋肉が面白みに欠ける?きっと命の危険のない平和な学校生活だったんやろなぁ [一言] 可愛いと言われることを気にしててもいざ戦闘になればその姿で相手を油断させて不意打ちすることに躊躇…
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