第一話
ウェールズの風
第一話
シャーロックホームズの本場である、イギリスではこの季節だともう夏休み、だ。
6月初旬くらいのこと。
大西洋特有の温暖でありながら涼しい風が吹きすさぶいていた。
風。
何かを運ぶようにして流れる。
「隣の子、今日引越しみたいね。」
ジョーンズ・アンドロ・アーロン。
彼の名だ。
ジェームズ一家は今日ロンドンから越してきた、一家に挨拶に行く予定であった。
「ok。
でもちょっとな。」
自殺もしたくなるほどこの世は怖いところだ。
日常会話位ならどうにかなるけど。
彼はそう思いながら部屋から出てきた。
ロンドン。
イギリスの首府で一昔前なら世界の首都、だった訳だ。
今はアメリカが強い影響力を持っているが。
そこの民がこんな、ど田舎に住むことはあまり有り得ないことではあった。
だけど挨拶するしかない。
人付き合いは昔からかなり苦手、だ。
苦手、というレベルでは無いけど。
ベルが鳴った。
「あ、今開けます。」
ジョーンズの母親が扉を開ける。
三つ編みの髪に、ブロンド。
ライトブラウンの瞳に端正な顔立ち。
現れたのは美しい少女。
「初めまして、アーロンさん。
私はシャーロット。
ロンドンから越してきました。
よろしくお願いします。」
「どうも、シャーロットさん。
こちらこそよろしく。」
(かなり可愛いけどあまり態度が、な。)
美しいと言えば美しいが。
あまり態度が良くない、とジョーンズは後年回想するだろう。
舌打ちを飲み込んでいる。
そんな感じの少女だった。