ソロはボスと戯れる その2
西に出ると東と違い木が疎らで平野が広がっている。
馬車がよく通る場所だけ芝が剥げており、それ以外は雑草が生えている。
プレイヤーや動物が所々争っているのが見やすい。
そして東と違い動物が4、5体ほどの集団で動いており、さらに此方を見てもすぐに攻撃して来ず、武器などを構えなければ襲ってこないのが特徴的だ。
動物の種類も草食系が多いのか、馬や鶏…鶏?
「コケー」
鶏だな、
まあ、それはいいか。
とりあえず西側のボスモンスターはその集団を餌に釣り出すようだ。
[プレインハイエナ]
配下である10頭のハイエナとそのボスの計11頭の集団系リーダー型魔物
連携攻撃を主体に攻撃してくるが、餌が残っていればボスと3、4頭ほどそちらに向かう。
ただし、ボスを先に狩ってしまうと、他のハイエナから1頭がプレインハイエナとなるため、雑魚から狩る。
時間経過で2頭ずつ増えていくため短期決戦が望まれる。
ということらしく、周りに他のプレイヤーが居ない事を確認してから、この鶏を狩って放置する。
しばらくすると、血の匂いに釣られてボスモンスターと配下が此方にやってくる。
テレビでよくあるサバンナの日常風景で出てきそうな凶暴そうなハイエナで、ボスは他のハイエナと違い色が赤い。
そして情報通りボスと何頭かが餌を喰っているのでその間にかかってくるハイエナを余裕を持って屠る。
たしかに連携してくるが、正面と背後からくるやつを両手で地面に叩きつけ、さらに左右から襲ってきたやつの片方だけ避けて、もう片方を肘と膝で挟み潰す。
しかしながら、こういった集団戦系は配下のハイエナがさっきほど狩った鶏より体力が少ないのか、顔と腹を10個ほど殴ったら動かなくなる。
襲ってきたハイエナを次々と倒していくと餌に夢中だったボスが此方を見て、低く唸り、そして襲ってきた。
…が、動きは配下のハイエナより速いくらいで、単体だとヤマビコディアーより弱く、顔、首、脚、そして肋骨を折っていったらあっという間に瀕死になり、途中で乱入してきそうなハイエナも何故か走って逃げていった。
まあ、これ以上は折ると可哀想だし、踵落としをサクッと顔面に入れると完全に動かなくなり、アイテムが落ちた。
こう言ってはなんだが
「弱いな…」
やはり群れで行動する動物や魔物は連携が強いだけで個体で強いものと強さのベクトルが違うのがわかる。
ただ、アイテムは配下のハイエナの牙や毛皮が多く、個体のボスが落とすアイテムより追加で手に入るからお得だ。
案の定高く売れる魔石も落とした。
空を見るが今から南に向かえば大体夜にはボスモンスターが居るであろう場所近くまで行けるだろうし、街の南側まで歩いていく。
街に戻りつつ南の森に入った。
東とは密度が低くかと言って西ほど開けた場所が少ない。
動物も蛇や兎、ゴブリンが居るくらいで、それも単体か精々2体でいる程度だ。
何故かゴブリンと兎は俺を見た途端遠ざかって行く。
まあ、わざわざ追いかけて戦うほどではない。
夜もどんどん更けていき月もそろそろ真上に来る頃合いに、ようやくボスモンスターの縄張りを見つけられた。
[チャンピオンゴブリン]
指定の場所で連戦すると出てくるウェーブ系ボス
皮の防具で身を守り、剣と盾を装備している
皮の防具によって打撃が効きづらく、盾で斬撃系を防ぐため防がれていないところ又は、盾を取り除くのがコツ
ただし、盾がなくなると2本目の剣を使い出すので注意
拓けた場所に等間隔に篝火がある。
その周りには複数のゴブリンが囲んでおり、中央ではゴブリン同士が戦っている。
興味深いが、さっさと終わらせて帰りたいので輪を割って入ろうとすると、ゴブリンたちが戦いを止め、道を開けてくれた。
盛り上がっていたところで悪いと思いつつ中央に入ると、ゴブリンたちがざわめき出す。
「ぎゃぎゃぎゃ(おい、あいつって)」
「ぎゃーぎゃがぎゃ(おい、早く誰か行けよ)」
「ぎゃがぎゃが(だったらお前が行けよ)」
「ぎゃーぎゃー(いやだよ、死にたくねーよ)」
何やら揉めているようだが、何故だ?
そう思っていると奥の方から他のゴブリンたちよりデカく皮の防具を着たゴブリンがやってくる。
「ぎゃぎゃ(ボ、ボス!?)」
「ナニヲモメテオル」
ガラガラで聞き取りづらいが言葉を喋るゴブリンのようで、やはり何か揉めていたようだ。
「がぎゃがが(そ、それがアイツが…)」
「…ナルホド、ヤツカ」
話していたゴブリンが俺の方を見て、話し出す。
「スマナイキャクジン、シキタリニハンスルコウイダガ、ワタシガオアイテシヨウ」
「?何でもいいが、やるなら早くやろう…少し眠たくてな」
「…イイダロウ、サイショカラホンキデイカセテモラウ!」
「!来い」
持っていた盾を捨て、その巨体から考えられないほど身軽な動きで2本の剣で斬りかかってくる。
少し驚きはしたが、1回2回と攻撃を避け、胴に回し蹴りを当てて吹き飛ばそうとしたが、流石に踏み込みが甘かったからか、5mほどしか飛ばなかった。
「グ…サスガダナ」
「いい動きだが、まだ遅いな」
「……」
「今度はこっちから行くぞ!」
地面を蹴り、ボスの目の前まで突進する。
ボスがそれに合わせるタイミングで、姿勢をさらに低くして横斬りを避けて、前転しつつ腕の力で体を持ち上げる顔に蹴りを加える。
綺麗に決めたがやはりボスの体力が多いのかまだまだ余裕があり、間合いをすぐに詰めてくる。
が、そこまで早い剣技ではないため防ぎやすく、また2つの剣で攻撃も隙が多いためかなり攻撃しやすかった。
そして何十回と攻撃を当てて行くにつれ、ボスの攻撃のキレが少しずつ落ちてきておるようにも見えた。
だが、それでも意地で自身の間合いで戦う姿はまさにチャンピオンと言うのに相応しいと素直に思った。
だからこそ、それに敬意を表して、全力で攻撃を避け弾き、そして、完全に無防備な腹に正拳突きを完璧に入れる。
後ろにかなり後退し、更に持っていた剣を1本落とし膝をつく。
いくら皮の防具で打撃が効きづらくなったとしても綺麗に決まった正拳突きによってもう立つことも……!
「マ“…マ”タ“…タオレル”ワケ“ニ”ハ!」
ボスの目はまだ闘志が燃えていた。
もう剣を持つのもやっとなのか、1本の剣をギリギリと持っていた。
…素晴らしい。
群れのボスだからこそ、下の者のために…いや、自身のプライドを持って戦っている。
「だからこそ、それに更なる敬意を表して、これで最後にしよう」
「!」
ボスが落とした剣を拾いあげ、剣を構え、刃先をボスに向ける。
それに気づいたボスも荒々しく構える。
先ほどまでざわめいていた周りも静かになって、風が火を揺らす音だけがこの空間に響き渡る。
少し陰っていた月明かりが自分達を照らし出し、そしてその時にボスが駆け出す。
ボスは剣を前に突き出し、更に加速する。
俺は構えから出る最速の技で迎え撃ち、ボスが通り過ぎて行く。
少しの間、静寂があったが、ボスが持っていた剣が地面に突き刺さり、そしてボスは動かなくなった。
俺は俺で少し腕に傷ができたもののほぼ無傷に終わった。
「俺の…勝ちだ…」
「……アァ………オミ……ゴ…ト…」
「…………」
剣をボスの横に置き、合掌する。
やはり礼節ある戦いと言うのは素晴らしいものだ。
余韻に浸っていると、ボスと話していたゴブリンが前に出てきて、ボスの横まで行き一緒に合掌する。
そしてボスの姿が消えると、そこにはボスの装備品が遺されていた。
「コ、レハ、ムレノ、ボス、ノ、アカシ、コレハ、ユズレナイ、ゴメン、ナサイ」
「いや問題ない、そういうもので有るのなら仕方がない…それでは俺はこれで」
「…アリ、ガト、ウ…ツヨキ、モノヨ」
[シークレットクエストクリア]
シークレットクエスト:初期の覇者をクリアしました。
報酬:種族進化
[種族進化について]
これまでの行動に応じて
プレイヤーの種族をより適した種族へ変化します。
なお、進化すると前の種族には戻れません。
[種族進化をしますか?]
〔はい〕〔いいえ〕
【進化】の項目を押すと再度選択できます。
進化…これが奴が言っていた特典だろう。
まあ、今の種族より適するということなら〔はい〕で良いだろう。
〔はい〕を押すと自身の身体が白く光り始める。
周りのゴブリンたちもいきなり眩しくなったせいか顔を隠したりしているのが見えた。
「すまない、進化するときにこんなに輝くとは…」
「イ、イエ、ボス、モ、シンカ、シタ、カガヤイ、テタ」
なるほど、魔物の進化…いや、種族進化は生物共通という事か。
にしてもなんか、耳がやけに重くなるな…。
試しに耳を触ると明らかに太くそして長くなっていた。
そして、少しずつ輝きが収まり、最終的に腰近くまで耳が伸びていた。
良く見ると、足の筋量も競輪選手のようなゴツい足になっていた。
ズボンが少しだけ張っていてそこまでではないがキツい。
「…これが進化か…」
「オメデ、トウ、ツヨキ、モノ」
「ああ、ありがとう…まあ、迷惑をかけたな、今日はこれで帰る」
「ワカタ…タッシャ、デナ」
「ああ、そっちもな」
後ろ手に手を振りながら街へ向かう。
月は傾き始め、街に戻る頃には朝が来そうだ。
という事でボス倒しました。
大体10話間隔で章を分けるか分けないか悩んでいますが、そこら辺はその場の思い付きでやります。
主人公の種族進化について
モデル【兎】からモデル【ロップイヤー】になりました。
特徴としては耳を手足の様に使い、蹴りを主体に戦える種族でヘルメースと同じ特殊種族…ではなく
まだ一般的な種族の範疇です。
だっていくらボスが(主人公的に)弱いとは言え、一般的には強い訳ですし、かと言ってこれで特殊種族になるゲームってヌルゲーですもの
そういう事なので、主人公が特殊種族になるのはいつになるかはわかりませんし、なれないかもしれません。
そんなわけで次回もゆっくり楽しみに