エピローグ
灰色の雲が無くなったのを聞いて、久しぶりにノーディシス帝国にやってきたが、何処となく人の気配が前より沈んでいる。
「夜になって星が見えるほど空が晴れているなんて…そう言うイベントはユウマがやらかすものだと思っていたが」
「やらかすってなんだよ!」
「おっと、ごめんごめん、それより今日はこれからどうする?その様子だとなんか気づいたようだが」
「…まあね、いつもより人の気配が薄くてよく分からないだけど一つ言えるのは城に何か居る」
「…ほんとそう言う事に関しては敏感だね」
「?何か他にあったのか?」
「…まあ、いいかとりあえず城に行ってみよう」
「おうよ!」
走り出しながらもう少し周りを探ってみた所、視界にチラリと倒れている人を揺すっている人が見えた。
思わず足を止めそうになったが、何故だかその時…城に行かないといけない気がした。
「どうした?」
「あ、いや……何でもないとりあえず城に行こう」
再び城に向けて走り出す。
…こういう時あの人ならどうしたんだろうか…。
城門にたどり着くと門兵のイースさんが居た。
が、しかしそれはいつもとは違う、何かに怯えて縮こまっていた
「!イースさん!大丈夫ですか!」
「ヒッ!………あ、ああ、ユウマ君か…」
「何があったんですか!?」
「へ、変な男達がやって来て、お、王に会わせろと。
と、止めようと武器を構え……ううう」
「イ、イースさん?」
「……ユウマ、ダメだどうやら恐怖がぶり返したようだ…これ以上は聞けそうにない」
ロイが魔眼を使った状態でそう言った。
一体ここで何が起きて……!
強烈な殺気に気付いて、そちらを向くと城の上から感じる。
無差別かつ冷徹で気を強く持たなくては正直崩れ落ちたくなるが、踏みとどまっているといつの間にか収まっていた。
久々にあれ程の殺気を受けたせいで正直まいりそうだが、深く呼吸をして仕切り直す…が
「ロイ…」
「はあはあっはあっはぁ」
「……」
呼吸が荒くなって汗が所々見える。
少し迷ったが僕一人でも向かわなくては状況は変わらないかもしれない。
ロイをそこら辺に座らせて城内に向かう。
…だが、何故かあの人の姿が脳裏に浮かんでくる…いや、あの人の気配に似ているだけだ。
考えを振り払うもモヤモヤと残ったままだ…。
行く先々で倒れていたり、項垂れている人が多かった。
何度か介抱したが多すぎて今はとりあえず殺気の元凶を確かめなければ状況は変わらないだろうと考え、謁見の間まで階段を上がる。
登り終えると謁見の間扉は開いており、その前には衛兵が倒れて気絶していた…分厚そうな鎧が見事にへこんでいる。
謁見の間には3人…2人はプレイヤー…もう1人はNPCのようだ。
…ん、あの姿は!
「ヘルメースさん!?」
「おや、こんな所にこのようなタイミングで来ましたか勇者君…いや、ここでは真面目に言いましょう…ユウマ君」
「ヘルメースさん何があったか教えて下さい!」
「……ユウマ君、今は大事なお話をしているのでいつもの大声を出さないように願いたいですね」
「何をっ」
いつもとは雰囲気の違うヘルメースさんに問い返そうとしたが、もう1人のプレイヤーから途轍もない気配を察して言葉を止め、すぐに剣を抜けるように手を掛ける…が。
「…ほぉ、このゲーム世界で俺の殺気を事前に察して構える奴が居たとはな」
そのプレイヤーは今まで相手して来た特殊な種族ではなく良く見かける獣人種の一般的なロップイヤー種だったが、今までで1番強い気配を感じた。
目があった時に一瞬で実力では何が起こっても敵わないと感じる程圧倒的な差が分かる。
「ふむ、やはりユウマ君は気配が感じ取れる、ガン◯ムで言う所のニュー◯イプ説は正しかったようですね」
「だ、誰なんですか、貴方は…」
ヘルメースさんの茶化すような言葉を無視し、声を絞り出してそのプレイヤーに問いかける。
それを聞くとそのプレイヤーはあの言葉を口にする。
「俺の名前を知ってどうする、自己紹介を抜かして質問するな阿保」
「!」
呆れたように、しかし殺気を向け、そう言われ気付いた。
姿も名前も全く違うが、この物言いと似た気配。
直感的な考えが漏れ出る…。
「Rick…さん…?Rickさんなんですか…?」
そう言うとそのプレイヤーは少し眉を下ろし、耳をもさらに下がる。
「…昔の名前を知っている奴が居たか……まあいい、愚帝!」
「ッヒ!はい!」
「さっき言ったことを忘れず働け、さもなくば次は国はないと思え…いいか」
「な、う…っっっ……わ、わかった…ノーディシス5世の名において誓おう」
「…っち、最後まで自分の名を出さん愚か者が何粋がってんだ…ヘルメース!」
「は、はい!」
「とりあえず俺は外で用事を済ませてログアウトする、2日後には行くぞ」
「かしこまりました、席は暖めておきましょう」
「勝手にしろ、腹立たしいが貴様への借りはさっさと処理したほうが今後のためだからな」
「不快にさせてしまった事、誠に申し訳ございません」
「全くだ…ではな」
「ははは、やはり良いものが見れた、殿にいい土産ができたよ…そうだ、ほっ」
呆気に取られていると着物を着た和風のNPCが刀をRickさんに投げ、それをRickさんは振り返って受け取った。
「なんの真似だ」
「何って、まあ、一種の報酬さ。
私を打ち負かした事を含めて、次はそれを使った君に正面から堂々と挑ませて貰うよ」
「………面倒だが、まあ、良い物は貰うとする…時と場所さえ配慮すれば受けん事もない」
「ああ、それで構わないよ」
刀を少し抜いて確認し、目を細め、その刀を腰に差してそう言うとこちらに向かって、通り過ぎていく。
って、
「Rickさんですよね!僕です!ユウマです!覚えt
「成長したようだが貴様との縁は既に切ったと言っただろうが未熟者。」
っ、でも、僕はRickさんがあの時師事してくれたおかげd
「ああ、そうだ、だからこそ貴様の力の使い方を正しく教えるべきだったのだろうな」」
再び強烈な殺気と共に振り返り、
「俺は俺の自由を通すためにこの力を持った。
だからこそ、貴様にもこの力を教え、自身の自由を通す様に促した。
だが、それを貴様は皆の自由を守るなどとほざき、途中で投げ出しあの状況で最悪の手前の行動を起こした」
「ですが!あのままでは!」
「ああそうだ、あのまま状況を動かさなければ貴様の考えた皆の自由が奪われるだろう。
それがどうと言うのだ、しっかりと時を待ち、策を練ればあのような阿鼻叫喚の事態にならず、俺の自由も奪われなかっただろう」
「それは…………」
「…っち、この程度で言い淀むのも貴様の悪い癖だ、元師として言うが、貴様のその真っ直ぐ進むだけの行いは楽だろうが、貴様の考えと共に進む行いではない。
俺が教えた力はそれを行う貴様の心には重い枷になるからだ。
考えを共感する者は多いだろうが、その力は異端視され怖れられる」
「っ………」
言い返そうにもそれもすぐに反論されるだろうし、何より口から声がでてこない。
息詰まっているとRickさんは背を向けて足をすすめる。
「だが、それは貴様の望んだ自由なのだ。
貴様の描いた夢であり目標だ、それを俺のような他人に口を出して咎められ、貶されようと決して離すな。
あの時の貴様を支えたモノの一つなのだからな……精々その力を自分なりに活かせ、所詮貴様に教えたのは基礎だけだ。
投げ出した貴様には二度と師事はせん……既に道は違えたのだからな」
「っ……っはい!…ありがとうっございます!!」
「それとここでは俺はエインであり、貴様の事は知らんし興味ない…が、精々これからも精進していけ未熟者」
最後まで気の緩めない再会だった…が、今日会えた事で肩の荷が少し軽くなったように感じた………。
いつも読んでいただきありがとうございます。
遅くなりましたが次章も引き続き書きますのでお楽しみに




