エピローグ
その日はいつもより激しい吹雪が何度も襲う珍しい日だった。
帝都へまで行く行商人に護衛として雇われたがこれだけ大吹雪だと魔物すら出てこないとぼやきながらトナカイを操る。
「ったく、リアルでも寒いの嫌なのに…」
「仕方ないじゃない、って言うかそれだけ着込んでもまだ寒いの?」
「顔が寒いんだよ、ていうか初めて見るわこんな大吹雪、ホワイトアウトってやつ?」
「かもね」
「おう、傭兵さんこのくらいで堪えていたら、アンタらが聞いてた四獣様のお膝元になんか比べ物になんねぇくらい寒いらしいぞ」
「うげぇ…」
「ここよりも!?」
寒がっていた体が考えただけでも震え出す…いや、元から震えていたが…。
空を見上げてもどんよりとした雲すら微かに見え隠れしてこの荷台に乗ってなかったら確実に彷徨う事になっていただろう。
「にしても良くわかりますね」
「ん?何がだ?」
「だってこれだけ視界が悪いとトナカイだって道もわからないでしょ?」
「…ああ、そりゃあそうだ…が、俺はと言うより俺の親父が店主をしてる店は昔からやっていてな、確か…先祖が四獣の眷属を手当てしたのがキッカケでこのトナカイ…まあ、今のは4代目だが、トナカイに加護を与えて吹雪の中でも視界が見通せるようになったそうだ」
「へー」
「…ねぇ、この話ってクエストのヒントじゃない?」
行商人の昔話を聞いて感心して居ると小声でそう聞いてきた。
…確かにそう思えばそうとしか考えられない。
「その四獣の眷属ってどんなのだったんですか?」
「ん?そうだなぁ…確か少し大きいヒョウロウだったて聞いたが、詳しい事は親父にでも聞くと良い、ザラール商店って言って帝都の南大通りに構えて居るから俺の名を出したら聞けるだろうからよ」
「良いんですか!?」
「なーに、この大吹雪だからそうそう動物も魔物も出てこないがそれがいつまで続くかわかんねぇし、帝都まではまだまだ掛かるからな、その分しっかり護衛してくれると助かる」
「それはもちろんですよ!」
「これ以上寒くならないなら大丈夫…」
「あっはっはっは、それなら残念だが夜はもっと冷えるから無理だな!」
「ええ…」
「はぁ…なら夜はあったかい物でも作ろうかねぇ」
「「それは」それはやめておいた方が良い」
先程までピクリとも動かずじっとしていた甲冑を身につけ、その上にローブを着た男が行商人より早くそして簡潔に話す。
「火があろうともこの辺りの獣は遠慮なしに襲ってくる、大人しく携帯食で我慢しろ…勿論追い返せるのであれば構わんがな」
「「…………」」
その言葉に問題ないと返したかったが、慣れていない土地、パーティーメンバーも全員揃っていないことも考えると黙って従うしかなかった。
荷馬車に揺られて2日が経ち、何度かヒョウロウやフローズンベアに襲われたが甲冑男と共に撃退していき、天候は悪いが順調に進んでいき、もう少しで帝都という時にそれは起こった。
『[災害王と自称右腕]が、[ワールドクエスト:帝国の危機]をクリアしました』
『以降、ノーディシス帝国領での天候に稀に晴れが出現するようになりました』
「え!?」「ワールドクエスト!?」
「…やはりこちらに…」
ワールドアナウンスが言った事にそれぞれが驚き、俺は攻略掲示板を覗いたが、それらしき情報もなければ、どこも自分達と同じような反応や災害王について書かれていた。
災害王…有名なプレイヤーだったが、少し前に拠点ごと潰れ、情報屋のヘルメースが本物が来た事を公表した得体の知れないプレイヤー…。
偽物と言われているプレイヤーもイベントで上位5名に必ずと言って良いほど出てくるプレイヤーだったが、それを超えるプレイヤーか……一体どういったプレイヤーなんだ?
「…何か来るぞ、構え……!」
「…!っとと、どうしちまったんだ?」
甲冑のプレイヤーが何かに反応すると共に荷馬車を引いていたトナカイが脚を止めて森?の方を見ている。
考え事をしていたせいで体勢が崩れたがその弾みに外を見ると何時の間にか吹雪は止み、曇天だった空は嘘のように幻想的な姿が空を覆う……。
何が起こっているのか分からないが戦闘準…備……を?
「吹雪が……」
「フィールドボスか!?」
「いや、この辺りにそんなものは居ない、ボス格は自ら動くことはないし、そんな場所の近くに行くはずがない!」
だが、どう見てもイベントの前触れ、あんなに激しかった吹雪が一瞬にして静まり、辺りを静けさがそれを醸し出している…。
俺達は外に出て全方向をカバーし合う。
…そして、それは現れた。
森の奥底から熊…いや一般的に見る大きさの熊を超えた獣がゆっくり、ゆっくりとこちらに近づいてきている。
姿からして自分達よりも大きく、荷馬車くらいの大きさに見えたのがどんどんと近づいてくる。
「あ…あれは…あの大きなヒョウロウ…いやオオヒョウロウよりも……」
「何か知っているんですか!?フィビリスさん!」
「し…四獣…四獣様だ…」
「あ、あれが!?」
正直言って驚きよりもその大きさに腰を抜かすほどだった。
巨体に見合わない静かな足音、まっすぐと此方を見据える視線。
この世界で、いや…ゲームの中で初めて感じた空気に少し固まってしまった。
『我が加護を受けたモノの子よ、かの者は息災か』
『…そうか、であればこの時をもって子に再び加護を授けん』
トナカイが四獣の言葉に何度か鳴くとそれに応えて四獣が前脚をトナカイの頭にかざしトナカイが光に包まれ、収まる頃には額に光る文字が刻印されていた。
『我が加護を受けたモノを授かった人の子よ、其方らの働き今しがた子から聞き、良きものと判断した、今後も変わらぬ働きを期待する』
「…め、滅相もございません、こ、こ、今後もしょ、精進します!」
驚きすぎて口を挟むことすら出来ない。
他にもデカいモンスターは居たし、片言ではあったがミソパエスベアとか喋るモンスターは居たが流暢で存在感だけで圧倒されるほどのモンスターは見たことが無かった。
口が閉じる間もなく硬直していると甲冑のプレイヤーが前に歩み出し四獣の前で声を上げた。
「そこにいらっしゃるのは!我が恩師災害王なるお方と思われる!お姿を一目拝み、できるならば申請をしたい!」
そう言って、まるで騎士のように綺麗な動作で片膝を着き、顔を下げた。
……え、もしかしてこの四獣の上にさっきのプレイヤーが!?
そんな馬鹿なと思っていると、見たことある姿が見えた!
「おや、そこに居るのはジェイクさんじゃないですか、そう言えば貴方はこっちをメインで活動していましたか」
「その声、ヘルメースか…王は居るのか!」
丁寧で特徴的な口調で情報ギルドとして有名な【調査団体】のギルドマスターであり、敵に回したくないプレイヤーの1人でもあるヘルメース。
だが、そんな事よりもジェイク!
帝国領土をメインで活動しているプレイヤーで最前線を行っていると言われ、前回の大イベントの優勝したあの!?
もう、驚くことが多すぎて理解が追いついてこないが、その有名なプレイヤーが慕っている災害王と呼ばれるプレイヤーって一体誰なんだ……。
「ええ、居ますとも…我が王彼ですよ、何度か彼がピンチに陥った時に偶々我が王が救った形になったクレイガンさんですよ。
名前は変わりましたが覚えていらっしゃいますでしょう?」
「…はぁ、易々と応えるな……覚えている。
久しいな、イベントへ行く途中か?」
「はい、王はどのような用で…いえ、何でもありません」
「構わん、ただの観光だ。今は帝都へ向かう途中でな………いや、依頼の途中だったか、邪魔したな」
「いえ、問題ありません」
「そうか、では此方の用は済んだな?」
『うむ、では達者でな』
「ジェイクさん後で色々聞きたいことがあったら聞いて下さいねぇぇ………」
長いようにも思えた時間が過ぎ、彼らの姿はあっという間に遠くに消えていった。
そして少しして雪が降り始めた。
「すまない、時間を割いてしまったな」
「い、いえいえ、全然問題ないって言うか、まさかあの有名なジェイクさんだったなんて思いませんでした!」
「ああ、普段の装備では流石に邪魔になるからな…ふむ、曇り空だったから分からなかったがもう既に日が暮れていたのだな」
「あ、そう言えばそうですね……いや〜この土地でこんな晴天に恵まれる日なんて数年ぶりですかねぇ…」
「そうなのか……まあ、それも何は何度も見れるようになるだろう…」
「……不躾な質問なんですけど…その災害王ってプレイヤーは何なんですか?あれってRPなんですか?」
「いや、違う…と思う」
「?」
「俺は王とは両手で数えられるほどしか会話をしたことが無い、もっと言えば戦った姿は片手ぐらいだ。
だが、どんな時も災害王は誰に何を言われても自分を突き通したからああ言った言動になるのだと俺は思った」
そう言ったジェイクの風貌はまるで主君に忠義を持った騎士そのもののように見えた。
その日、ゲーム内で初めて帝都の夜空には雲はなくと煌々と輝く星々が見えた日となった。
いつも評価、感想、誤字訂正などありがとうございます。
次回もゆっくりお待ちください。




