パーティはレイドする
ソリに乗って大体3日、いや4日目か。
いくら龍と戦えるとはいえここまで道のりがないと寄り道するべきではなかったと後悔も出てくる。
「それにしても酷い吹雪地帯ですが寒くないでしょうか我が王」
「問題ない、貴様から貰った防寒着がなければ少々面倒だったが、その面倒もない」
「それは良かったです、しかしながら面倒な依頼を寄越されましたね」
「そうだな、本来であれば今頃街でのんびりして帝都だったか?そこに向かう馬車を探している頃だったが、思いの外寄り道が過ぎたと少々後悔していた所だ」
「まあ、そうですが、良いではないですか。
この帝国に恩を売り、我が王の武勇伝にまた1つ追加され、ついでに配下も手に入る一挙両得ですから」
「俺としてはこの世界の龍種がどれほどのものか知りたかったが、最悪の場合ただただ体力だけが多い飛龍であれば拍子抜けもいい所だ」
「そうですね、未だこの世界ではレイドボスも片手で数えれるほどしか経験がなく、体力も異常なほどに多いですが、形態変化はありましたし、もしかすると龍種を操っていると思われる元凶も一緒にいる可能性もありますし、最悪そいつだけ始末すれば良いですから」
「そうは言うが、いくらゲームとは言え元凶を倒して洗脳か呪いかは分からんがそれが綺麗さっぱり無くなるかは行き当たりばったりすぎ…」
言い切ろうとしたその時、正面から殺気を感じたので回避運動と同時に離脱準備をする。
どうやら、ようやく本命が出てきたようだ。
俺の行動を見てかヘルメースも即座に臨戦態勢に入った。
回避がギリギリ間に合い、よく見えなかったが何かを避ける事に成功した。
すぐに殺気を放った奴の場所を特定するために視界が悪いが辺りを見渡しながら、ソリを減速させて降りる。
「近いな、誰か居るぞ」
「ようやくレイドボスですか…少し緊張してきましたよ」
「おんやぁ?こんな所でプレイヤーと出会うなんてアタクシついてるわね」
「そこか」
特定した位置から声がしたので雪が深かったが素早く動いて裏拳を1発入れるがすり抜けたので、すぐさま後ろに蹴りを2発決めて吹き飛ばす。
「っっっ!な、中々、やるじゃないのぉ…」
「そう言った煽りに2度は引っ掛からん、貴様のような変なやつの思考は分かりずらいが行動パターンは予測できる」
「…あ、あらやだわ、アタクシ相当ヤバい奴見つけちゃった」
吹雪でろくに姿は見えないが、瞬間移動系か…遠距離攻撃主体であればこの深雪と相まって少々手間取る…龍の前菜としてはクドイな。
「む、我が王、コイツは魔王幹部のジュラムです、カマ言葉と姿で思い出せました」
「…あんらぁ…誰が、誰がカマですってええええええ!!!」
「魔王幹部、その程度か」
「……ブッ殺スワ!!」
明らかに先程より殺意が上がった。
どうやらヘルメースが地雷を踏んだようだ。
まあ、最初から本気でくるのは一々段階を踏まないから面倒がなくて良い。
「う!?」
「まずは貴方からじg「手早く殺るぞ」!」
完璧に顔を掴んで膝を入れようとした時に、また瞬間移動で消えたので追って深雪に沈める。
「全く、すばしっこいと雪は相性抜群で面倒だな」
「がはっ……」
「おまけに体力も多くて相手にするのが面倒だな……おい、貴様」
「………………」
「起き…っち、逃げ足の速い奴が…」
沈めた穴を見ると既に消えており、近くに気配もなくなっていた。
…しくじったか……。
「逃げ…た?」
「ああ、あれが魔王幹部か…四天王クラスが来るのはまだ先か?」
「いえ、一度だけ大イベントで現れましたが、あれ以上にキャラも強さも桁違いでした…」
「そうか、ならば四天王クラスも楽しみにしておくか」
とりあえず降りたソリにまた乗っ………いや、
「どうやら、メインディッシュがわざわざ出向いて来たな」
「え」
先程感じた幹部の…ジュラムの気配とそれとは違う巨大な気配が近づいてくる。
その度にどんどん吹雪が激しくなって来た。
「おーほっほっ…ゲッホゲホ…先程は良くもやってくれましたわねぇ、お返しに絶望を持ってぶっ殺してあげますわぁ!!!」
「…すげぇな、かなり吹雪いて声が聞こえないくらいだろうに、めっちゃくちゃ聞こえたぞ」
「…まあ、そう言う仕様でしょう、これで聞こえなかったら相手が滑稽すぎますから」
「さあ!!弄んであげなさい!!!」
『特設フィールドが展開されます、暗転が挟まります』
目の前にインターフェイスが出て、音声が頭に流れ終わると5秒くらいして暗転が挟まる。
少しして足場の雪が先程より固くなり、吹雪も少し緩和されてお目当ての龍の姿が見えた。
真っ白ではなく、少し薄灰色がかった体、西洋龍のような背中から大きな翼に、巨大な手と脚、そして龍の厳つい顔は先程の奴に操られているからか、それとも元々そう言う顔なのか憎悪に溢れ殺意剥き出しの一般的に恐ろしい顔をしていた。
そして、少し観察していると龍が深く空気を吸って、空間が震えるほどの咆哮を上げる。
「っち、喧しいな」
「…っ、暗雲集いて我らに仇なす者へ鉄槌を!落雷!」
ヘルメースが天に掲げて何か言うと
丁度、龍の真上に雲がさらに分厚くなり、雷が数本落ちた。
「とりあえず私が龍を落としますので我が王は落ちた後に追撃をお願いします!」
「よかろう、その作戦に乗る…が、そうも流暢なことを言ってもいられんな」
「ええ……ですがやれるだけやりますよ……」
雷が直撃したにもかかわらず、龍は何事もなかったかのように翼をはためかせて攻撃の準備を始める。
龍がまた咆えると次から次へと上空に氷柱が出現し始めしばらくして落ち始める。
「我らを守りし盾の創造!盾展開!!」
頭上に透明なガラスのようなものが現れる。
が、一発氷柱を受けると粉々に砕け消える。
仕方ないので落ちてくる氷柱をいくつか手で取り、ついでにヘルメースの頭上に落ちて来ていた氷柱に投げて防ぐ。
結構大きいが武器としてはまあまあか…。
「!ヘルメース飛べるか?」
「いえ、流石に吹雪が強いので飛ぶにしても数秒も上には居れません」
「それでもいい、跳ぶぞ!」
「?…!」
早めに気づいてその場から跳び上がり、龍の突進を避ける。
結構ギリギリだったが、そのおかげでサイズも大体把握できた。
「助かりました」
「問題ない…にしても攻撃パターンはまだありそうだな…面倒な」
「一気に攻め落としたいですね…」
「……さっきから思ったのだが、落としても良いのか?」
「え?」
俺の言葉が意外だったのか、いつものわざとらしい驚きではなく、素の驚き声と顔でこちらを見る。
「ん?奴の攻撃パターンを把握しておきたいであろう?」
「え…ええ、レイドボスっぽいですし、次戦う時や同じような龍種が出れば少しでも優位に戦えそうですが……落とせるのですか?」「当然だ…まあ、俺の喧嘩に巻き込んだようなもんだからな、その詫びとして情報をやろうと思っていたんだが」
「い、いえいえ、前にも言いましたが、私の我儘でついて来ていますので我が王の為すことに何の異議もありません」
「…そうか、いや…そうだったな、では少し待っていろ翼をもぐのは慣れている」
とりあえず、次は真っ正面から氷柱を発射して来そうなので、それを利用させて…いや、待てよ……。
「ヘルメースアレは魔王幹部に操られていると仮定するが幹部さえ倒せば終わりなのか?」
「…そう、かもしれません、実際の所龍はこの地の守護者のはずなのでこちらを襲う理由は元々はないはずです」
「そうか…ならば先にそちらを試すか」
行動を決めたと同時に龍が咆哮を上げ、また上空から氷柱が何本も落ちてくる。
とりあえずそれらを足場に加速しながら龍に突撃して同じ高度まで上がっていく。
魔王幹部の姿を見つけるが、流石に足場がないので一旦落ち…
「我らを守りし盾の創造!盾展開!!我が王!」
「でかした!捕え殺す!!」
角度は厳しいが、不可能ではない角度。
氷柱も雪も全力で踏み込めなかったが、これならば1度だけの足場であれば全力で詰められる!
「な「遅い、2度は逃さんぞ」ぁ!?」
龍の背に着くと同時に、驚く声を置きざりにして首に勢いを全て込めてへし折り、間髪入れず全身にラッシュで逃す隙も与えずに攻撃する。
いつもであればこのくらいで死んでいるが、このゲームは体力が無駄に多いから更に激しく攻撃を入れる。
が、さすが幹部と言ったところか、30秒もしないうちに距離を取られ、一瞬のうちにヘルメースの近くに居た。
満身創痍っぽいが、それでもヘルメース1人ではキツそうなので幹部の位置まで勢いをつけて落下する。
「我を守りし盾の創造!」
「貴様だけでも道連れに!!」
「盾展開!!」
「邪魔だあああああ!!!!!」
執念でヘルメースの前にあった透明な壁を壊して、ヘルメースに幹部が飛び掛かった……が、
「あああぁぁぁぁ…あ?」
「ようやく心臓…いや、核に攻撃できたか…案外頑丈だったな」
「あ、ああ、あ…………」
ラッシュで摩耗していたのか、それとも体力が丁度無くなったからか、落下の勢いもあって核があるであろう場所を貫いた。
が、特にそれらしいものはなかったが、腕を抜くと力なくその場に落ち、足掻くことなく静かに消えていった………。
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次回もゆっくりお待ちください。




