ソロは何者にも縛られない
出てきた飲み物を飲んで少し頭を冷やす。
このままでも良いが、相手に殺気を気取られるのであれば礼をかく行為だからだ。
半分ほど飲んでグラスを置いて、話を聞く体勢に入る。
「それで、何のようだ?」
「まあ、そうだな…まどろっこしい事なしで率直に聞くが、エインは冒険者か傭兵になる気はないか?」「ない」
変に拗れない様に率直に聞いてくれたのは良いが、正直、これほどどうでもいい質問をされると思わなかった。
「…そうか…いや、申し訳ないつまらん質問だったか」
「そうだな、聞き飽きる質問だ」
「そう…だったか……」
「お待たせ致しました、本日のおすすめのウサギスープになります」
落胆するユガンを置いて運ばれてきた料理を受け取る。
…夕飯、いや夜食としてはあっさりとしていて食べやすいが、俺としては夕飯用のガッツリした味が欲しかった……まあ、美味しいから良いが…。
「…なら、聞き飽きてると思うが、理由を聞いて良いか?」
「ん…ふぅ…別の良いが、俺はこの世界で自由に旅がしたいだけだ、別に冒険者のような危険と隣り合わせの冒険とか、傭兵のような人のために働く気概なんてさらさら無い。
勿論、生きてく上で必要な金のためならある程度仕事を探す。
幸いなことに今は旅の資金も支度も済んだし、キリのいいところでこの街を出る。
まあ、あとは…」
「あ、あとは?」
「俺が冒険者とか傭兵とかそういう人種が嫌いってのもある」
「な!」
驚いた顔でこちらをみるユガン、そして盗み聞きをしていた奴らが一斉にぬるい殺気を飛ばしてくる。
とりあえず言い終えたので食事に戻るが、ユガンは驚いたまま固まっていた。
「ふぅ…ごちそうさまでした」
「お、おま、エインなぁ…」
「どうした、今更奢らないって言っても許さんぞ?」
「ちげぇよ、ったく…あまり挑発しないでくれ…酒が入ってる奴らも多いし、それ抜きでも血気盛んな奴ばっかなんだ…」
「そうか、まあ、酒は飲んでも飲まれるなと言うし、絡まれても1度は笑ってやるから安心しておけ…っともうそろそろ寝る時間だ…ではな」
「…できれば穏便に笑ってくれよ…」
「気分次第だ」
それを聞いて小さくため息を吐いたユガンを置いて店を出る。
ここからなら宿もそこまで時間はかからないが、店主は起きているだろうか?
とりあえずこれでしばらく絡まれないだろう………。
「ユガンさん!なんですかあの人は!!」
「あんなに馬鹿にされて!腹たってないんすか!!」
エインが離れて数分して盗み聞きしていた奴らがこぞってユガンに詰め寄る。
「とりあえず全員座れ、言いたいことがあるなら後にしろ」
「あんな奴いm「座れ!!!」!?」
力の篭った拳を机に叩きつけ、ヒビがさらに深くなり、机が陥没した。
流石にそこまでされてか、大人しく席に戻る。
「ここに居る全員、傭兵の奴らもだが、エインにこれ以上ちょっかいを出すな、いいか?わかったら今日はさっさと寝ろ」
「ちょっと待ってくださいよ、アイツは確かにワイより強いけど、そんなんユガン組合長みたいな人からしたら他のプレイヤーと同じひよっこですやん、そない警戒せんでもええやないですか」
「…はぁ…お前それを本気で言ってんなら、その考えだけは改めておけよ」
「いや、だってそうでしょ?あんな半獣人で装備もろくなもの着てなかったじゃなですか」
「…だからお前は上に上がれねぇんだよ、アイツは俺以上…いや、比べるのもアホらしくなるくらいの化け物だ」
「またまた〜、そんな…あほな……」
エインの強さを語ったユガンの表情は冗談を言うほどの余裕のない真面目な表情だった。
「とにかく、お前ら生きてるドラゴンの逆鱗に触れる行為なんてすんじゃねぇぞ、こっちでも庇いきれない相手だからな…」
そう言い残して少しぬるい酒を飲み干して店を出る。
雲から顔を出した月を見て、深くため息を吐き
「一応本部に連絡入れるが…信じねぇよなぁ。
あんな規格外の化け物がプレイヤーで出てくるなんて話…」
再び深くため息を吐いて、自室へ戻る。
夜は静かに過ぎていくのだった………。
次回もゆっくりお待ち下さい




