ソロは厄介事に反応する
ミレに案内された場所は綺麗で派手な外装の料亭だった。
「まだギルマスは来てないようなので、先に入って待ちましょうか」
そう言って受付に行くと驚いた声を上げて何やら話が長引いている…予約忘れか?
気になったのでタイチョウと一緒に話に混ざる。
「どうした?」
「あ、そ、それがですね」
「お連れのお客様でしょうか?申し訳ございません、本日の予約は全てキャンセルさせて頂いていまして、誠に申し訳ございませんが、後日改めてご来店下さい」
事務的なそれでいて礼節はある態度で深々と頭を下げる受付係を見て、ミレも肩を竦める。
「理由を聞いても教えてくれないので、納得できなくて…」
「はい、申し訳ございませんが理由についてはお話しできません、申し訳ございません」
「そうか、ちなみに今日だけ食事がダメなのか?」
「はい、明日からは通常通り予約制でお食事をご提供できます」
「なるほど…ミレ、ヘルメースに連絡は?」
「一応入れまして今から来るようですが…あ!」
声を上げたミレの見る方向を見るとヘルメースが慌てて駆けつけてくる姿が見えた。
息を少し切らせながらも姿勢を正して話し出す。
「…っは、いやはや、我が王との食事と聞いてすっ飛んできたんですが、まさかこんなことが…」
「ギルマス大丈夫ですか、水飲みますか?」
「ああ、いただこう」
そう言ってタイチョウがバックから水筒を出してコップに注ぎ渡す。
そしてのも終えたタイミングでまた話し出す。
「申し訳ないが、イエウオーナーを呼んでくれないか?ヘルメースが来たと言えば大体分かると思うが」
「オーナーですか?……少々お待ちください」
受付係は少し悩んで仕方なく店の奥へ向かった。
オーナーと関係を持っているとは…ヘルメースは相変わらず世渡りの腕は健在のようだ。
少ししてから少し膨よかな男性が奥から受付係と共にやって来る。
「いやー、久しぶりだねヘルメース元気なようで良かった良かった」
「ええ、イエウさんもお店の方は繁盛しているようで何よりですが、何やら今日の予約が全てキャンセルと聞いたのですが…まさかイエイ料理長に何か?」
「いやいや、イエイ料理長はいつも通り、いや今日はいつも以上に元気だよ…そうだね、ここで立ち話も良いが奥で話すとしようか、積もる話もあるからね」
「そうですね…我が王よ、どうされますか?」
「飯時には微妙ではあったからな、俺も少々聞かせていただきたい…よろしいか?」
「ええ、ええ、ヘルメースの友人であれば問題ありません…オウエ君済まないが」
「はい、かしこまりました」
何か分からないが阿吽の呼吸で伝わると言うことはこの二人…いや、店全体がかなりの信頼で動けているようだ。
と、俺も奥に行くとしよう。
通された部屋はイエウオーナーの執務室のようで、外見とは違いシンプルな色合いと家具が必要な分だけしか置かれていない。
勧められた椅子に腰掛けて、イエウオーナーの話を聞く。
「そうだね、余り詳しくは言えないから簡潔に言ってしまうが、今日は国のお偉いさんが家族で会食する日でね、毎年王都の中から有名な店を秘密裏に選び、その日に予約を入れてくるんだ」
「はー、なんとも…前日とかに予約されないのは?」
「何年か前はそうしていたそうだけど、やっぱりお偉いさんなだけあって危険な輩も狙っていてね、2年前にあったことだけど、お偉いさんの娘さんが巻き込まれてショックで声が出なくなったと言う痛ましい事件があってね」
「なんと酷い…護衛は…」
「もちろん護衛は居たとも、国の中でも選りすぐりのね、それでもやっぱり子どもに見せる光景では無かったのと、たまたま輩の投げた武器が娘さんの方に飛んで怪我はなかったもののそれがきっかけだったのかもね」
「なるほど…痛ましい話を聴いてしまい申し訳ございません」
「いやいや良いのね、こちらこそ折角来てくれたのに食事を提供できなくて申し訳ないね、お詫びと言ってはなんだけど、後で使いの者にお土産持たせてヘルメースのギルドに持っていくね」
「なんと!ありがとうございます、また明日辺りにでも予約して出直して来ますよ…それでは」
「ええ、今日は申し訳ないけど、また明日からいつでも待ってるね」
そう言って席を立とうとした時に廊下の方から足音が聞こえ、扉をノックする音が響く。
「なんね」
「ご談笑のところ申し訳ございません、お客様がお見えになりましたので」
「そうね、すぐ向かうよ…そういう事なので失礼するね、案内してね」
「分かりました、申し訳ございませんが、裏口に案内します、こちらです」
入れ替わり先程案内した人とは雰囲気が違うが顔が同じ男性がお辞儀をして案内する。
後で聴いたが、どうやら受付係と双子で受付係が兄のオウエ、自分が弟のオエオと言うらしく兄弟で働いているようで、違いに気づかれたことに少し驚かれた。
「着きました、先程言った通り裏口から出てすぐ右側が表道の近道ですので足元に注意してお進みください、本日は申し訳ございませんでした」
「いえいえ、それではイエウオーナーによろしく言っておいてください」
「はい、本日はありがとうございました」
そう言ってお辞儀する姿を見て、裏口の扉を出てすぐに右へ向かう。
「それにしてもこれからどうしましょうか?何かご予定ありますでしょうか我が王?」
「俺はゆっくりとハンダロに戻るつもりだが、今日は王都でゆっくりするとしよう」
「でしたら、私どものギルドハウスでご宿泊なされて下さい、今日予約した料亭には劣りますが美味しい料理も出せますよ?」
「………そうだな、お言葉に甘え『……ッ…』…」
「?どうかなされましたか?」
一瞬だが、普通ではない音が先程の道…いや、この感じは料亭の中から…
「ヘルメース、戻るぞ」
「え?わ、分かりました我が王」
「済まないがタイチョウとミレは料亭の表に回って外から様子を見ていてくれ」
「え、あ、は、はい!」
「わわ!分かりました!」
指示を出してすぐに料亭の裏口の前まで行き、扉を開けると先程まで話していたオエオがうつ伏せになって倒れていた。
すぐに駆け寄り、状況を聴く…幸い目立った外傷はないようだ。
「何があった?」
「…………」
「少し失礼……これは魔法で眠らされていますね…解除には時間がかかるかもしれません」
「そうか…仕方ない後でどうにかするとして、原因を探すから少し静かにしてろ」
「かしこまりました」
耳を研ぎ澄ませ、店の中の音を全て拾えるように集中する。
………………奥の方から……何か争う音に、脅し声…。
「怪我……くなか……ら…なし………」
「姫…を……せ!」
「なるほど、どうやらゲームで言うところのフラグを踏んでしまったか?」
「いえ、我が王よ、このゲームにてそう言った事態は少なく、隠しにしては意図が分かりません」
「そうか…まあ、どちらでも良い、表から連絡は?」
「表では、料亭の向かい側で火の手が上がり、民衆はそちらに目がいってしまっていますね。
幸い近くに噴水があり、王都ですので大火事にはならないでしょうが」
「手際がいいな…よし、ではこちらも動くとしよう」
「表から気を引かせるよう指示します」
「頼んだ」
ヘルメースが連絡する間に店の内部を進む。
所々に見張りは居たが全員足をへし折って、適当に眠らせておいた。
目的の場所まで行くと、やはり数人の輩が綺麗な服を着た女の子を人質に脅しているようだ。
「早く100億Zを持って来やがれ!姫さまに傷を付けられたくなかったらさっさとしろ!」
「っく…待ってくれ!金の手配は既にしてすぐにこちらに向かうように指示している!だから!」
ふむ…計画が杜撰なのか周到なのかよく分からないが、争ったようで倒れている数は2:3で悪党どもが優勢のようだ。
まあ、優秀でも守りながら戦うのは面倒だからな。
それにしても残り4人…うち1人は人質に刃物を押し当てているのか……まあ、問題ないか。
とりあえず相手の呼吸と状況がいいタイミングで飛び出し、手前の男の喉を潰してから、蹴り飛ばして隣の男に押し付ける。
咄嗟の出来事に残り2人の男が振り向くので人質を持っている奴に低い姿勢から仕掛け、強引に腕を開き人質を離させる。
落下する人質を片腕で抱き抱えて、空いた右で男の鳩尾を殴り退避する。
が、流石にすぐに無傷の男が剣を片手に突っ込んでくる…しかしながらそれは俺に届くことはない。
「我が王に立ち向かう愚か者に鎖を!」
ヘルメースが裏で待機して、タイミングよく床から出てきた魔法の鎖で男を雁字搦めにして捕縛する。
「流石だな、腕は衰え知らずか」
「いえいえ、我が王には劣ります」
「…さて、お嬢さん、怪我はな「姫様!」っと、降ろすぞ」
女の子をそっと降ろしすぐに引くと騎士と兄妹だろうか?若い男が近づき、抱き寄せる。
…まあ、これにてめでたしか……なんとも呆気ない………。
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次回『報酬…?』




