ソロは次の目的を考える
予想した通り街まで戻ると日が明け、商人達が営業の準備を始めていた。
とりあえず一旦宿まで戻ってから今日の予定を考えるとしよう。
宿の前まで行くと数人ほど宿から出入りしているのが見えた。
近づくにつれこちらに気づいて動きを少し止め、話しかけて来た。
「ヘルメースの伝手で来た十兵衛だ、あんたが本物の災害王でいいのか?」
「…ああ、そう呼ばれているようだ、俺はエインだ。
まあ、呼び名はどちらでも良い」
「それじゃあエインと呼ぶとする、作業の方だが昨日の昼から着手しているが、床板以外もボロが来てるからそれらの補強と階段の方の建て付けも悪くなっていたからそこの修繕をしているところだ」
「なるほど、階段の方は気がつかなかったが、それについて宿主から許可は得ているのか?」
「もちろんだ、まあ、最近新人プレイヤーが入って来たからその練習も兼ねているからこっちとしてもありがたい頼みだ」
「そうか」
「棟梁ー、見てもらっても良いですかー」
「おう!待ってろ!
…まあ、そういうことだから、今日中には終わるだろうからすまんがこれで失礼する」
「ああ、頼んだ」
十兵衛が作業に戻ったので、少し作業を覗いて見たが階段は他の床板とは見違えるほどに綺麗になっていた。
さて、これからどうしたものかと考えていると、いつも通り少年が新聞を持って来てくれたので時間もいい頃合いだし、喫茶店にでも向かうとしよう。
喫茶店で3杯目のコーヒーを飲もうとカップに手を伸ばそうとした時に入り口のベルが鳴り、開けた本人であろう足音がこちらに近づいてくる。
新聞から目を離してそちらを見ると、ヘルメースがさも当然かのようにやって来て向かい側に座る。
「いや〜まさかこんなに早く攻略するとは、やはり我が王はこの世界でも力は健在ですなぁ!
あ、店員さーん、ブロウマウント1つお願いします」
「あ、はい、かしこまりましたー」
「そういえば、宿の件ですがまだ時間が掛かるそうですがよろしいでしょうか?」
「構わん、手さえ抜かねばそれで良い」
「それは良かった、ところで何ですが私の方に幾つか我が王に会いたいなどと言う者がおりまして、もちろん殆ど断りましたが、ヘッジザラゲストで特に王に良く関わった方は私の独断では決めかねないので指示を頂ければと」
「………態々、そんなつまらん事でお前に苦労が降りかかるとはな……」
呆れながら新聞をしまい、コーヒーを飲んで考えたが、
「まあ、会っても話すことは無いし、さらに言えば、聞きたい情報は自分で探す…つまり勝手にやってろ、とでも言っとけ」
「なるほど」
「お待たせいたしました、ブロウマウントです。
ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます、それではその方々にはそう通達しておきましょう」
「…苦労をかけるな」
「いえいえ、このくらい日常茶飯ですので」
そう言って手慣れた手つきでインターフェイスを弄りながらブロウマウントを飲む。
…どのゲームでもそうだが、態々会いたいだけでここまで順序を踏む奴は結構いる。
別にそれを悪とは言わないが、そういう奴に限って会うと碌な奴じゃない。
こちらが許可したから自分の意見は全て通ると思い込み、こちらの意見をねじ曲げさせてくる…全く持って許せん。
コーヒーを飲んで落ち着いてまた新聞を読み始める。
…最近は大きな事件がなく、どうやら森の異変調査の方も難色でこれといって大きな記事はなく、所々に聖典の1節や他のプレイヤーの功績が載っているくらいだ。
「あ、そう言えばですが、ソロでの狩りはどうでしたか?」
「…そうだな……南北はそこそこ楽しめたが、東西は雑魚すぎてつまらん」
「ああ…西は確かにボス自体の体力はそこら辺の動物や魔物と変わりませんからねぇ…南北方向はそれぞれ国に繋がる道を真っ直ぐ行けば問題なく国の中枢へ行けますし、道中でボスも見かけるでしょう、東側は海に繋がっていて、西は放牧民が住む地帯の向こう側に荒野が広がってましたね」
「そうか」
「ただ、西の攻略は難航しており情報も少ないですね」
「なるほどな」
コーヒーを飲み干して、どこに向かうか考える。
無難に行けば南北方向に行き、適当に観光していつも通り辺りをふらつけば良いが、欲を言えば拠点となる家が欲しいところだ。
となると物件が元からありそうな都市部に行くのが良いか。
いや、都市部になればゴタゴタが多く厄介事が出てくるだろうし、何より自然が少ない。
だが、都市部を離れた村などに住むというのも難しい。
家を基礎から作るというのも大変だが、何より村人との信用が無ければ建てることすら危うい。
「そういえば、一つ小耳に挟んで欲しい事が」
「?なんだ」
「また我が王を騙る不届き者が出まして」
「ほぉ…」
「私どもで対処しようかと考えましたが、ここは一つ我が王の威光を示し、2度と出ないようにして頂ければと思いまして…いかがでしょうか?」
「なるほどな…して、その詐欺師はどこに?」
「それがまた大胆にもプレイヤーが多く集まったスーディス王国の都市、王都ヘストグにて活動しており、
情報によりますと、かの者は自らを災害王と名乗り、挑戦してくるプレイヤーを次々と倒し、負けたプレイヤーから金品を掻っ攫い、更にはギルドまで発足しており、メンバー数はゲーム内でも屈指の多さでざっとですが80人はいる模様」
「…貴様から観てどう感じた?」
「そうですねぇ…先ず第一陣なのは装備と戦い方を観ても明らかです。
ですが、まあ、はっきり言って嘘だと言うのは明白ですね」
「ほぉ…理由は?」
「第一、覇気が全くないですね。
そりゃ、他のプレイヤーより腕は良いですが、本物の災害王様の比べるのも烏滸がましい。
第二に、まだヘッジザラゲストを満喫している時期に他のゲームをするはずがないという点ですかね」
そう言って少し息を整えるようにブロウマウントを飲み、話を続ける。
「実際、ヘッジザラゲストをしていたプレイヤーの2、3割ほどは気づいていたでしょが、それでも我が王が不在な事を良いことに、まあ、好き勝手して災害王という名を落としてましたね、これについては我々の対処不足でしたが…」
「良い、別段その名が落とされようと知ったことではない…が、やはりそう言った阿呆は根性を叩き壊さねばならん」
「でしたら、わたくしが王都までご案内いたします。
できればさっさと不愉快者を蹴落と…消し去りたいですからね」
「…………そうだな、では頼むとしよう」
「かしこまりました、いつ向かわれますか?」
「日帰りだ、今すぐヤル」
「流石は我が王……店員さん、お会計を」
「はーい」
「ここは私がお出しします」
「いや、自分の分は出す、何度も世話になる訳にはいかんからな」
「そうですか…では」
「ありがとうございましたー、またお越しをー」
「ああ、今日も美味しかった」
そう言って外に出ると、ヘルメースが右手に魔石のような物を持って待っていた。
「丁度、今王都の冒険家組合にて詐欺師が活動しているようです」
「なるほど、でそれはなんだ?」
「ああ、これは転移石と言って名前の通り遠くの行ったことのある場所まで飛べる物です。
ダンジョンの宝箱や一応課金でも買えますね」
「なるほど、やはりそう言う物もあるわけだな」
「ええ、それでは我が王、お手を」
「ああ」
空いている方の手を取り、ヘルメースの持っている転移石が輝き出すと目の前がどんどん歪んで暗転する。
次回『粛清』




