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紅葉狩り


今日、僕は彼女とデートに出かける。


相手の名前は紅葉(もみじ)ちゃん。

僕と付き合っているのが信じられないくらい可愛いくて優しい子だ。


彼女が生まれた日、病院の周りの木々が

すごく綺麗に紅葉(こうよう)していたことから名付けられたらしい。


三か月前、ふとしたきっかけで共通の趣味があることがわかり、

それ以来親しくなった。付き合って一か月になる。


人によっては学校一の美少女だという人もいるくらいで、

しかも成績優秀、運動神経も抜群なのだ。

クラスメイトから随分羨ましがられたり、冷やかされた。

本当に僕の恋人なのが夢みたいだ。


彼女の名前にひっかけて、

今日は近くの山に紅葉狩りに出かけることになった。

今がちょうど見ごろだし、学生だから予算は多くないからだ。

それに街中よりも静かで二人っきりになりやすい。


約束の場所に彼女が手をふりながら現れた。

最高に素敵な笑顔だ。秋コーデも似合うな。

そう思いながら僕も手を振り返した。


「お待たせ」

「全然待ってないよ。僕が早く来ただけだから。」


ふたりでバスに乗って目当ての山に着いた。

山といってそんなに険しいものじゃない、ちょっと規模の大きい丘という感じだ。

だからこそデートの場所に選んだ。


見ごろを迎えた紅葉が美しく山肌を染め上げていた。

春とは趣の違う華やかさがある。


手をつないで山道を歩くと体が温まり、涼しい山の空気にちょうど良かった。


「紅葉ちゃん、しんどくない?」

「全然平気だよ」


人の気配を感じた鳥が茂みから飛び立つ。

山の中を風が通り抜けると、木々がそれに応えた。


「綺麗だね」

僕は紅葉ちゃんの横顔を見ながら言った。


「そうだね。春もいいけど秋も素敵だよね。

これ栞にするのもいいかな」

紅葉ちゃんは手のひらに降ってきた落ち葉を見ながら言った。




ガサッ




木陰から二人組のチンピラが出てきた。

そいつらはどこで購入したのかトゲのついた肩パッドをつけている!


なんなんだこいつら!?どこから来たんだ!?


「かわいいじゃねぇかぁ~。紅葉ちゃん、っていうのかい?」


「おめーにゃもったいねえねな!俺らで可愛がってやるよ!

これがほんとの()()()()だぜ~。ギャハハハ!」


品性の欠片もないセリフを吐きながら僕らに近づいてくる。

狙いは彼女か。

僕は紅葉ちゃんの前に立ちふさがった。


「彼女に近づくな!僕が相手になってやる!」


正直勝ち目は全くなかったが、だからと言って黙ってはいられなかった。


「あ~?どけよ」

相手は露骨に僕を侮っている。


「絶対にどくもんか!!」


「和樹君、危ないよ!」

彼女の悲痛な声が聞こえる。


「そうかい。なら少し早いクリスマスプレゼントだぜぇ!」


チンピラが僕に痛烈なボディブローを入れた。


僕は意識を失っていった…。


ごめんよ紅葉ちゃん…。




「グヘヘ。こんな弱っちいヤローより楽しませてやるぜ~」

男は舌なめずりしながらにじり寄ってくる。


「よくも和樹君を…。絶対に許さない!」

紅葉の顔から表情が消えていた。


「あー?なんだこのアマ!」


「名前が紅葉である()()()があんた達を()()の」


次の瞬間チンピラ達の視界から少女は消えた。

紅葉は零距離まで間合いを詰めると、急所に打撃を叩きこむ。

さらに反撃されないうちにもう一人も攻撃。

二人は声をあげることもできずに気絶した。


紅葉は警戒を解かず、男たちの状態を検分した。

生きている。ただ気を失っているだけで重傷ではない。

力の加減に成功したのだ。


紅葉は恋人の方に向き直った。

こちらも問題ない。すぐ目を覚ますだろう。


実は紅葉の実家は先祖代々恐るべき暗殺武術を伝えてきた家系だったのだ。

しかし時代の節目に曽祖父は暗殺技能を封印することを決定。

以降、殺傷を禁じたのだ。


それ以降長子相伝のしきたりに従い、

人を殺めず武術の型を継承してきた。


紅葉も父に「断じて人を殺めてはならん」と固く教えられた。


今回は正当防衛だろう。相手は気絶しただけで生きている。


紅葉は血塗られた歴史をもつ家の娘である自分と、

事情も知らずに付き合ってくれている和樹に、感謝と申し訳なさを感じている。


心優しく一般的な家庭で生まれ育った和樹に打ち明けられないでいるのだ。


「ん…。イテテテ」

和樹は目をシバシバさせながら目覚めた。


「和樹君!大丈夫?」

少女は心配そうな表情で見つめた。


「え…ああ。僕は大丈夫だよ。

アッ、それよりあいつらは!?紅葉ちゃんこそ無事なの!?」


「ええ。私はなんともないの。通りすがりの屈強な男の人が倒してくれたの」


和樹は地面に倒れているチンピラを見た。

「僕が気絶している間にそんなことが…。自分が不甲斐ないよ」


「そんなこと言わないで。あの時庇ってくれて本当に嬉しかったんだから」


チンピラが警察に届け出るとは思えない。

そうすれば自らのチンピラ行為が明るみに出てしまう。

それに少女にやられたなどと言って信用されるかも怪しい。


「今日はもう紅葉狩りどころじゃないね。残念だけど」


「いいんだよ。君が無事なら。

それにこの山の紅葉全部よりも綺麗な君が傍にいるんだからね」



ハッピーエンド

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