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5※

 思った以上に良い人材を発掘したと思った。

 従者として雇った(正確には買ったのだが…)少女は家の仕事が得意らしい。特に料理に関しては、問題なさすぎて逆に他所で食べるよりも家に帰って食べたいと思うほど口に合っていた。

 少年のふりをしているが女性のため、男性の自分と二人ではまずかろうと思い侍女を探してみたが、あまりにも露骨に誘ってくる女性ばかりで探すのをやめてしまった。男性を探しても良かったが、少女だとバレた時に何かあっては困る。魔法がいつ切れるか分からないし、常に自分が近くに居てやることは出来ないからだ。

 そう誰に言うわけでもなく言い訳をしているが、料理も含めて少女との生活が居心地が良いのである。快適すぎるくらいである。


(このままずっと居てほしい)


 しかし、奴隷になっていたほどだ。少女の身に起きたショックな出来事は、簡単には癒えないだろう。少女には自由になってもらいたいという願いと相まって、複雑な気分だ。契約の期限が切れる頃に再度考えるとしよう。


 朝の身支度を終え、食堂に行くとちょうど朝食の支度が整っている。


「おはようございます」

「おはよう」


 朝の何気ない挨拶は一人では出来ないことだ。

 食事は二人で取ることにしている。一人で食べるのは味気ないし、少女がきちんと食べるか心配ということもある。ただ、食事中に何を話して良いのか分からないので、いつも静かに食事を取る。自分から見れば相手は女性なのだ。女性と食事をする時に、何の会話をすれば良いのか。

そうやって、いつももやもやと考えているうちに食事が終わる。考えながら食べているが、料理は美味しい。本当に口に合いすぎる。弁当でも作ってもらいたいくらいだ。


 そうこうしているうちに出勤の時間である。


「行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」


 こんな会話も一人では出来ない。たった一言挨拶を交わすだけなのに、もう一人で暮らす生活には戻れないかもしれない。それくらい、少女との生活は心地が良かった。


**********

「団長殿、おはよーさん」

「おはよう、副団長殿」


 軽い調子で声をかけて来たのは、騎士団に入団してからの友人オットー。聖騎士団の副団長である。ちゃらちゃらしているように見えるが、やはり副団長にまで上り詰めた男だ。俺とほぼ互角に戦えるし、なかなかに女性にモテる。

 明るい茶のふんわりとした短い髪に意志の強そうだけど蜂蜜色の優しい瞳。俺と同じくらいの背格好だが、やや垂れ目な点で俺よりも声がかけられやすいようだ。優しそうに見えるんだと。

 そして、身分。俺は元々平民だったが、騎士団での成績を見染められてクラムス伯爵家の養子となった。オットーはバンズ侯爵家の三男だ。きちんとした貴族なのだが、口が悪い。教育はきちんとされていたはずなのに。それだけがこいつの難点だ。


「ここ最近機嫌が良いよな、お前」

「そうか?いつも通りだと思っているが…」

「いや、テオがむっすーとしたしかめっ面を一度もしない日があるなんて、俺は驚いてるんだ!」

「………」


 悪友とも言える友の戯言は無視してさっさと団長室へ向かう。


「何で逃げるんだよ。だって、みんな噂してるんだぜ。お前に女が出来たんじゃないかって。面白いよなぁ、お前に女だぜ」


 ぷぷぷ、と悪い顔をして笑うオットー。


「…悪いのか」

「え?…マジなのか?」


 思わず呟いてしまうと、オットーが驚き目を見開いてこちらをマジマジと見てくる。瞬きもしないなんて目が乾かないだろうか。


「いや、違う。断じて違うが、俺に女が居たとしたらおかしいのか?」


 エリックは女性ではあるが本人は隠しているし、俺自身何か変わったようにも思えない。ただ、料理が好みで家に帰りたくなる気持ちがあるだけだ。その気持ちを何と表現して良いのか分からないのだが。


「いや、悪くはないが…。ふぅん、そーかそーか…」


 ふむ、と顎に手を当てて何やら考え出したようだが、顔はにやついている。何か悪だくみを考えているに違いない。それが分かるくらいには付き合いは長いのだ。


「しかし、お前と朝から出会うなんて何かあったのか?」

「あ、そうだった。近々、街の巡回をしてくれるか?団長殿」

「…分かった」


 騎士団長になってから、毎日の街の巡回は無くなってしまった。今までは非番の日も街に出ていたが、さすがに団長になると周囲の目が気になる。あまり頻繁に団長が巡回するとなると、何か危険なことが起こっていると思われてしまうのだ。だから、残念ながら月に数回、巡回を行うくらいである。それが固定の巡回である。ちなみにエリックを見つけたのは久々の固定巡回の時だ。

 副団長がわざわざ俺に話をしてきたので、今回は臨時の巡回だ。これには意味があり、街に危険がある場合と街の人から情報を得たい場合だ。オットーから二人の時に話をするということは、どこからか要請があったわけではないので、危険が差し迫っているのではなく、情報収集をして来いということだろう。


 団長に就任するまで毎日街を巡回していたせいか、街の人々はとても気軽に接してくれる。それこそ、他の騎士団員には言えないが俺には話してくれるということもある。団長という身分と貴族という身分となってしまったがために少し敬遠されていたこともあったが、中身が変わるわけではない。すぐに元の関係に戻ることが出来た。そういったこともあって、街からの情報収集はたいてい俺自身が行うことにしている。


「何か分かっているのか?」

「いや、何も上がってきてはいない。だが、少し気になることがあるんだ」


 オットーのこういった勘はとても鋭い。良い悪いはあるが、外れたことはない。オットーが気になるということは何かがあるのだろう。小さなことか大きなことかは分からないのだが。経験からの推察ならば俺も可能だが、勘の鋭さだけは鍛えることが出来ない。こういう点も副団長になった所以のひとつである。


「そうか。明日にでも行こう。何もないと良いが…」

「そうだな。ま、よろしく頼むぜ、テオ」

「分かった」


 二人で騎士団へ向かう。オットーの勘が当たらないことを願って。

誰かの暇つぶしになっていると嬉しいです。

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