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 屋敷を一人で見るため、朝は早い。ただ、屋敷とはいえ、比較的こじんまりとした一軒家のため、そんなに大変ということはない。

 起きてからカーテンを開けても辺りはまだ薄暗い。窓を開けてひんやりとした朝の空気を吸う。

 寝起きでぼうっとした頭が冴えてきたら、顔を洗い、身支度を整えて魔法のかかり具合を確認し、調理場へ向かう。

 朝食の準備を整えた後、屋敷の主人を起こしに行く…と言ってもたいてい起きているし、呼びに行かずとも朝食の準備が出来た頃には食堂へ来ている。


「おはようございます」

「おはよう」


 基本的に食事中は会話をしないため、静かである。

 本来であれば主従は別々に食事を取るのだが、この家の従者は私一人ということもあって、主人から一緒に食事を取るように言われている。雇われる身としては好待遇である。

 一人で食べるのはやはり少し寂しい気がするので、不満はない。もう少し会話が出来ると良いなとは思うが。

そうして、一緒に食事をした後、主人を見送る。


「行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」


 団長なのに、馬車など使わず徒歩で騎士団へ向かう。

 たしか、団長は伯爵家だったはずである。それなりの身分はあるし、ましてや騎士団長という役職もあるのに、一人で住んでいるのだ。

 何というか…本当に不思議な人だ。


「今日のご飯は何にしようかな」


 何だかんだと、一カ月ですっかりとこの生活が身についているのであった。


********************

「今日は良い鶏肉が入ってるぞ」

「あら、いらっしゃい!今日はトマトがたくさん入ったから安くするよ」

「新作のパンを味見していってくれよ」

「ありがとうございます!」


 街に買い物に行くと、次々と声を掛けられる。

 これはテオドール騎士団長のおかげだろう。話を聞く限りでは、団長になる前は毎日街の巡回をしていたらしい。非番の時でも。

そんな人だから必然的に街の人が頼りにするし、信頼しているのだろう。本当に素晴らしい人だと思う。


「あらぁ、騎士団長のお付きの子じゃなぁい。今日の騎士団長様のお帰りはいつ頃かしらぁ?」


 …そんな人だからこんな女の人にも好かれてしまうのだ。

 明らかに媚を売るように体をくねらせながら話しかけてくる女性。私に媚を売っても意味はないと思うけどね。


「僕には分かりかねます。騎士団長はお忙しいようですので、毎日帰宅時間が違います」


 きっぱりと分からないと断って、さっと足早にその場から逃げ出す。捕まると相手をするのが面倒なのだ。私は女性なので、ちっともときめかない。女性に迫られても対応に困るだけだ。

 そんな対応をしているのにも関わらず、毎回違う女性から声がかかる。騎士団長は本当に人気だなと思う。これならば「騎士団の仕事が相手」という名目で逃げるのも仕方ないだろう。毎回大変だっただろうなと少し憐れんでしまうのであった。


「ただいま帰りました」


 誰もいないのだが、つい癖で挨拶をしてしまう。今日の買い物を終えて、荷物を整理したら、今日の出来事を魔法団へ連絡する。街へは買い物に出ているだけではない。奴隷商や奴隷の人たちの様子も見ているのである。


(今日は特に変わったことは無かったわ。…そろそろご飯の支度をしなくちゃ)


 従者の生活が板についてきたようである。日々の献立を考えるのが実は楽しみでもあった。

 公爵家に住んでいる限り、自ら料理をすることはない。シェフを雇っているため、その仕事を奪うことは出来ないからだ。シェフの料理は当然ながら美味しいのだが、たまには自分で作りたいと思うほど料理をすることが好きなのである。

 今日の献立を考えて食材を準備していく。魔法に頼るのではなく、自らの能力を試したいという点では父と似ているのかもしれない。


 料理が一通り落ち着いた頃、コンコンと窓を叩く音がした。紙の鳥がくちばしでコツコツと窓を叩いていた。窓を開けて手を向けてやると、ちょこんと手のひらに乗り、その後は姿を封書に変えた。魔法団からの手紙が届いたようである。直接本人に手渡したい時にはこうやって、手紙魔法を使うことが多い。


「…そろそろ出勤した方が良いかしら。うーん…」


 手紙を見て少し渋い顔になってしまう。魔法団からの手紙と一緒に兄からの手紙も入っていた。

 この生活を始めてから公爵家には帰っていないが、特に問題はない。元々潜入捜査をする予定だったし、魔法団に籠って魔法の研究をしていることもよくある。それは兄も魔法団に所属しているため、目が届いていたからだ。今は毎日報告をしているとは言え、どうやら心配しているようだ。ちなみに両親からは何もない。私を溺愛とまでは言わないが、可愛がりたがる兄が心配しているだけだ。


(兄さんに強硬手段を取られても困るわ)


 強硬手段とは、この家に押しかけてくることである。それだけは何としても避けたい。

 少し考えてからちらりと時計を見て、夕食の時間までまだ余裕があることを確認する。魔法団に出勤するとなると買い物の時間が減ってしまうので、今日のうちに買い出しに行っておこう。本日二度目の街へお出かけだ。


 そして二度目の街で、魔法団への報告が必要な情報を手に入れるのである。

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