私は百合の炎に油を注ぐ
「……そんなに改まって、一体どうしたの? 薪ちゃん」
私は油水薪。空の宮市という地方都市に住まう大学生だ。今日は大事な話をするために、私の幼馴染みの府合野揺楽戯の家へやってきた。小さい頃から幾度となく遊びにきていて見慣れたはずのリビングが、今日は少し違って見える。
「揺楽戯のお母さん、お父さん、そして揺楽戯…………って隣でライター弄ってないで真面目に聞いて!」
「えぇ!? いつもはそんなこと言わないのに!」
「もう……。……今日は、折り入ってお話したいことがあります。揺楽戯を…………娘さんを私にください」
「えっ……」
「…………???」
当の本人だけはまだ思考が追いついていないらしい。
「……薪ちゃん、本気かい? それがどういうことか、分かって……」
「もちろん、全てを理解した上で言っています」
揺楽戯のお父さんが、私の意志を汲み始めてくれた。
「薪ちゃんも揺楽戯も、女の子だからね?」
「それでも、です」
「今の発言は、娘と結婚したいと……」
「そう言っています」
「現代の法律では結婚は……」
「できませんが、私は『ふうふ』として、揺楽戯と添い遂げていくつもりです」
「私それ初耳だけどね!?」
「揺楽戯にはずっと内緒にしてた。……人が真剣に御両親と向き合ってるのにマッチの箱で遊ばないで!」
「うわぁ今日の薪は強火だぁ……」
「……申し訳ないけど、娘を薪ちゃんに渡すことはできない」
「……どうして、ですか」
「……薪ちゃんは知っているでしょうけど、私達家族は普通じゃないの。放火魔の一家なの」
「……」
「揺楽戯による死者こそまだ0人だけど、僕ら夫婦は……たくさんの人達の命を奪ってきた。薪ちゃんが通報すれば、二人とも捕まる。君を巻き込む訳にはいかない」
「それでもっ! 私は……揺楽戯のことが好きなの……好きになっちゃったんです……」
「薪……」
「今まで黙っていてごめん」
「……娘は将来、たくさんの人を殺して、そして死刑になるんだ。そんな人間のパートナーに、薪ちゃんはふさわしくない」
「薪ちゃんには、もっと素敵な人がいると思うわ」
「そうだよ。犯罪者の妻なんてらしくないよ! なんなら昨日も空き家に火を点けたばかりだからね!?」
「わかってます。だから……それまで。彼女が捕まるまででも構いません。私をそばに置かせてください」
「……決意は固いようだね。分かった。娘を君に任せよう」
「お父さん!?」
「その代わりに、一つ約束して欲しい」
「はい」
「娘が捕まっても、君は『知らなかった』と言うんだ。これを守れないなら、駄目だ」
「あっ…… 。……はい。約束します」
「薪 …… 」
府合野揺楽戯が …… 彼女が、最期まで自分らしく生きられるように。
私は、彼女を支えると誓った。




