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30歳童貞は魔法使いとなって異世界で無双する~10年元の世界に帰れないと言われたのでひっそりと生きて行くつもりが何故かいける伝説に~  作者: まんじ(榊与一)
神国編

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第55童 完全なる蘇生魔法

「く……タレスさん……」


ユーリは帝国側に立っていた為、王国を巻き込まずに魔法を放つ事が出来た。

最後にあの杖を持っていた奴を盾にしようとしていた様だが、奴らは跡形も無く消滅している。


他の敵も全て制圧済みだった。

俺達の勝ちだ。

だけど……


「勇人様を守れたのですから、タレスもきっと本望です」


「マーサさん……」


守るって決めたのに……無力な自分が情けなくて仕方がない。


「せめて……体さえ残っていてくれれば……」


タレスさんは自爆してしまっている。

その為、肉体は跡形も無く消滅してしまっていた。

せめてリピの時の様に、灰だけでも残ってくれていれば蘇生する道もあっただろう。

だが肉体が完全に消えてなくなってしまったのでは、もうどうする事も出来ない。


「体ならありますよ!」


そう言うと、ルーリは急に走って行く。

そして何かを拾って戻って来た。


その手には――


「まさか!タレスさんの腕!?」


そうだ!

彼女はユーリに腕を吹き飛ばされていた!


ゴッドポーションによっての再生は生え変えであって、切られた物がくっついた訳ではない。

その為、腕が残っていいてくれたのだ。


「これなら!」


蘇らせる事が出来る!


だが……腕しか残っていない状態では、破損が大きすぎて通常の蘇生は無理だ。


高魔力の持ち主を生贄にする悪魔の代償蘇生デモンズリザレクションか、種族や姿形が変わってしまう変異蘇生トランスリザレクションで蘇生させるしかない。

理想は悪魔の代償蘇生デモンズリザレクションでの蘇生だが、ユーリ達を殺してしまっているので生贄は用意できそうもなかった。


必然的に変異蘇生トランスリザレクションで蘇生させる事になる。

だがエルフというのは誇り高い種族だ。

果たしてタレスさんは姿形や種族が変わって迄蘇りたいと思うだろうか?


希望が見えて思わず喜んだが、冷静に考えると……


「勇人様。どうか私の魂をお使いください」


「マーサさん、何を……」


「私はもう十分生きました。若い彼女に後を託したいと思います」


マーサさんには俺の使える魔法を一通り説明してある。

彼女もきっと、俺と同じ結論に達したのだろう。


「ですから」


確かにマーサさんの魔力量ならば、生贄として不足はないだろう。

だがタレスさんの為に、彼女を犠牲にするのでは意味がない。

俺は誰一人欠けて欲しくなどないのだ。


俯いて歯軋りする。

神から力を貰い、強力な魔法を使えるようになってはいるが、それでも出来ない事が多い。

多すぎる。


もっと便利な蘇生魔法があれば…………いや、まてよ?

その時、パット頭の中で閃いた。


魔法は変異進化する。

それはエアーや、クリエイトゴーレムの件で証明されていた。

ならば蘇生魔法も、魔力を限界まで籠めれば進化するのではないだろうか?


進化したより強力な蘇生魔法でなら、変異を起こさずタレスさんを蘇生できるかもしれない。

そう思いつき、顔を上げた。


「他に方法があるかもしれません」


「勇人様?」


「ミノタウロスの死体を使って魔法を試します」


変異した魔法は自動で発動してしまう。

いきなりタレスさんの腕で試したのでは、取り返しのつかない事になりかねない。

だから先にミノタウロスの死体を使って試す事にする。


「すいません、ミノタウロスの腕を切り落として貰っていいですか?」


「え、ええ……」


俺の頼みに応えて、マーサさんは手にした剣を手近なミノタウロスの鎧の節の部分に差し込んで腕を切り落としてくれた。

残った体の方は、俺が炎の魔法で燃やし尽くす。


「一体何を?」


「兎に角試したい事があるんです」


腕だけになったミノタウロス。

地面に転がっているその腕を掴み、俺は蘇生魔法を発動させる。


通常なら、破損が大きすぎるため魔法は不発に終わってしまう。

だがそんな事などお構いなしに、俺はありったけの魔力を魔法に籠めた。


≪魔法の進化に成功しました。新たに誕生した魔法は神の英知(アーカイブ)に記録されます≫


頭の中にアナウンスが流れる。

変化には成功した。

まずは第一関門クリア。

だが問題は効果だ。


頭の中に概要が浮かぶ。

それを見て、俺は心の中でガッツポーズする。

それは俺が望んだ形の魔法だった。


完全なる(パーフェクト)蘇生(リザレクション)!」


掴んでいた腕が強く光り、それを起点に消滅していた体が一瞬で修復される。

俺がその手を離すと、閉じていた瞼が開き、その場に手をついてミノタウロスが上半身を起こした。


「勇人さん!」


ルーリとマーサさんが俺とミノタウロスとの間に割り込み、蘇ったミノタウロスに剣を向ける。

俺が襲われない様、ガードしてくれた様だ。


「怯えてる?なんで?」


急に剣を向けられたミノタウロスは頭を押さえ、小さく丸まった。

その体は小刻みに増えている。

先程迄の戦いぶりは、死をも恐れない狂戦士のそれだった。


それが急に怯え出したので、思わず疑問が口を吐く。


「ミノタウロスの幼体。恐らく魔法か何かで操られていた様ですね。とは言え、危険なので処理をします」


「え!?ちょ、ちょっと待ってください!」


丸まって怯えるミノタウロスの背にマーサさんが剣を振り下ろそうとするが、俺は咄嗟にそれを止める。


「操られてたんですよね?しかも子供が?だったら」


「確かに子供の間は大人しい魔物ですが、大人になれば凶暴性が増し危険な魔物に変わります」


マーサさんはミノタウロスから視線を外さず、俺に答えた。

大人のミノタウロスの危険性は俺も良く知っている。

タラン村が一匹のミノタウロスに壊滅させられた事を知っているし、俺自身ミノタウロスに執念深く追いかけられていたから。


「でも、怯えて丸まってる相手を殺すと言うのは……」


戦う意思を持つ者ならば兎も角、怯えて震える相手を殺すのはやはりどうにも気が引ける。

何より、此方の実験で生き返らせたのだ。

危険だからまた殺すと言うのは、流石にどうかと……


「わかりました。ではとりあえず拘束しておきましょう。殺すにせよ、野に逃がすにせよ、それは後回しにして、今はタレスの事をお願いします」


何の為にミノタウロスに蘇生魔法をかけたのか、マーサさんは気づいた様だ。

彼女は魔法で光の縄の様な物を生み出し、怯えるミノタウロスを素早く拘束した。


「ルーリ。腕を」


「あ、はい」


俺はタレスさんの腕を受け取り、先程新しく生みだした蘇生魔法をかける。


完全なる(パーフェクト)蘇生(リザレクション)!」


彼女の腕が光り、その肉体が瞬く間に修復される。

流石に身に着けている物迄は再生されないので、俺は羽織っていたマントを脱いで素早く彼女にかけた。


「ぅ……ん……勇人様?私は……あ!」


タレスさんは跳ねる様に起き上がり、周囲を見渡す。

その際マントが跳ね飛ばされたしまったので大事な所が丸見えになってしまう。

俺は急いで拾って彼女に渡した。


「終わったのですね。流石は勇人様です」


「タレスさんのお陰ですよ。でも、もうあんまり無茶はしないでくださいね。ほんと、いきなり自爆されてどうしようかと思いましたよ」


「勇人様の為なら喜んで命を捧げると言ったではないですか」


そう言うと、タレスさんはにっこりと笑う。

綺麗な笑顔だった。

まるで太陽の様に曇り一つない柔らかな笑顔に、俺は思わずドキッとしてしまう。


「と、兎に角……蘇生出来たから良かった物の、次からはポンポン死ぬような真似は止めて下さいよ。俺は誰にも死んでほしくないんですから」


「善処します」


善処するは日本だと「取り敢えず頑張ってみるわ」程度のイメージがある。

そして彼女の言葉は、間違いなくそのイメージ通りの物で間違いないだろう。

多分同じような事があれば、またタレスさんは迷わず自爆する筈だ。


「やれやれ」


タレスさんに言っても無駄なら、彼女にそれをさせずに済む様にした方が早いだろう。


つまり俺自身が強くなればいい。


まあ言う程簡単な事ではないが、取り敢えず出来る事は全てやっておこう。

世界樹に帰ったら、魔法の進化を一通り試す。

特に今回みたいな乱戦時に仕える魔法が欲しい。


「し、失礼します!」


カレンド王国の兵士が、恐る恐る此方へと近づいて来てマーサさんに声を掛けた。


そういやいたな……彼ら。

空気過ぎて完全に忘れていた。


「じょ……状況を確認させて頂いて宜しいでしょうか」


「いいでしょう。私の方から向かいますので、将軍にはそのようにお伝えください」


「りょ、了解しました!」


伝令はまるで熊からでも逃げる様に、引き攣った顔で走り去っていく。

何だってんだ、一体?


「ふふ。彼らにも勇人様の偉大さが、ちゃんと伝わったようですね」


ああ、そういやペイレス帝国軍を吹っ飛ばしたんだったな。

我ながらとんでもない行動だったが、今の戦いのショックでそっちも完全に頭から飛んでいた。

まああんなの見せられたら、そりゃ怯えるか。


「さて、私はカレンド軍に説明に参ります。皆は襲撃者の死体……いえ、ミノタウロスが身に着けていた鎧を回収しておいて」


「鎧を回収、ですか?」


「ええ、あれは使えそうですので。何もしていないカレンド軍に渡してあげるいわれは有りませんから。では」


確かに、エルフの魔法を跳ね返していたその防御力は魅力的だ。

だが見るからに重そうな鎧であるため、素早い身のこなしが売りのエルフ達にはあまり会わない気もする。


……まあ上手く鋳なおせば盾として位なら使えるか。


「では行ってまいります」


マーさんはお付き数名を連れて、カレンド軍へと向かう。

もはや戦う相手もいないので、鎧を回収した俺達はこの後世界樹へと帰った。


「しかしあいつら何者だったんだ?」


ユーリを蘇らせ、襲って来た謎の襲撃者達。

彼らが何者で、一体何の目的で此方を襲って来たのか。

その答えを知るのは今から5年後の事であった。

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