第49童 危険なのは
「勇人様は私達が命をかけてお守りします」
緊張した面持ちで帝国の陣容を眺めていると、マーサさんが優しく声を掛けてくれる。
彼女の気づかいが有難い。
「ありがとう、頼むよ皆」
「お任せください!」
俺の言葉に、周囲のエルフ達が膝を付いて大仰に答えた。
それを近くのレンドの兵が何事かと凝視する。
此処にいるのはエルフ60名と俺の計61人だ。
万単位で行われる国境での大規模戦と考えると、エルフが優秀な種族とはいえその数は極端に少ないと言えるだろう。
ドラゴンを期待していたであろうカレンドの将校達からは、遠回しに嫌味っぽい事を言われた位だ――まあそれは開幕の一撃で俺が敵を黙らせると宣言したマーサさんの強気の発言と、無償提供のポーションで数百人からいた手当ての間に会っていない重症兵が復帰できた事で相手を黙らせている。
だが実際の役割を考えると、実は多いくらだった。
何故なら、彼女達の仕事は戦争ではなく俺の護衛だからだ。
それも俺の魔法の空白期間である、5秒を埋める為だけの。
そう考えると、半分の30人でも多いといえるだろう。
どう考えても60人は過剰だった。
「リピも神様を守って見せますよ!カレンドの攻撃だろうとなんだろうと――もがっ!?」
リピが馬鹿な事を口走ったので、俺は咄嗟に掴んで黙らせる。
多少離れているとはいえ、大声で叫べば直ぐ近くにいるカレンド兵に聞こえてしまう。
本当にこの馬鹿だけは……
「次馬鹿なこと言ったら、簀巻きにして鞄に放り込むぞ」
「ぇー」
「えー、じゃねぇよ」
この一戦で俺は強力な魔法を放つ事になる。
圧倒的な力を見せつけ、他国がうちに戦争を仕掛けるのを躊躇うレベルの破壊魔法――フルパワーの死の破壊を。
森を壊滅させた時ですらフルパワーでなかった事を考えれば、全力で放てばペイレス軍に壊滅的なダメージを与えるのは間違いないだろう。
そしてその状態からの反撃は限りなく0に近い。
問題は俺の力を見せた時、カレンド王国の軍がどう動くのかだ。
場合によっては、その場で俺を始末しようとする可能性も十分考えられた。
何せ彼らは俺の直ぐ近くに陣取っているのだ。
いずれ自国の脅威となるかもしれない魔導士が強力な魔法を放って消耗しているその隙を――実際はさほど消耗しないのだが――見逃してくれる保証はない。
その為、俺達が最も注意しなければならないのは距離があり反撃の可能性が低いペイレスの軍ではなく、近くに陣取っているカレイド軍の方だった。
何せこの距離だと、素早く弓を射かけられただけでイチコロだからな。
少なくとも俺は。
因みにカレンドが攻撃してきた場合、俺達の周りに強力な円筒状の結界を張って相手の侵入や攻撃を塞ぎ、エアフライで全員上空――上は穴が開いている――に上がって飛んで離脱する予定だ。
ゴーレムは遠隔である程度動かす事も出来るので、置いて行っても問題はないだろう。
まあ何事もないのが一番なんだが……




