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30歳童貞は魔法使いとなって異世界で無双する~10年元の世界に帰れないと言われたのでひっそりと生きて行くつもりが何故かいける伝説に~  作者: まんじ(榊与一)
神国編

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第48童 遅刻

春、それは雪解けの季節。

それまで息を殺し眠りについていた生き物達が地表へと顔を出し、生命の躍動を謳歌する季節だ。


……まあ世界樹の周囲は俺の魔法で常に夏状態な訳だが。


ウェザーコントロールの魔法は、結果的に一冬丸々維持する事になった。

余りころころ環境を激変させると、それこそ生態系に大打撃を与えるとマーサさんに言われたからだ。


まあそれはさておき、俺達は今からカレンド王国の南東部へと向かう事になっている。

どうやら遂に戦争が始まってしまう様だ。


その報が届いたのが一昨日の事で、開戦は今日の午後になるらしい。

ワイバーン型のゴーレムは機動力があるとはいえ、流石に今から出発しても到着は明日になるので開戦には間に合わないだろう。


因みに、間に合わないタイミングでの出発は態とだった。

その気になれば昨日の時点で向かう事も出来たが、急かす使者に色々と理由を付けて一日遅れる様に俺達は出発する。


理由はゴッドポーションのデモンストレーションの為だ。

俺達が参加する事で戦況が圧倒的有利になってしまうと、実戦下におけるポーションの有用性をさり気無く示す事が――此方から売り込みに行くと足元を見らる――出来なくなってしまう。


正直あくどい行動だとは思うが、これも国の為だから仕方ない。


「では、行きましょう」


ルーリに促され、俺はゴーレムの背中に上る。

ワイバーンの背中には開閉口があり、そこから乗り込む形となっている。

中はそこそこ広く、人間が2人程座れる様に出来ていた。


戦闘機を思い浮かべて貰えば分かり易いだろう。

あんな感じ。


因みに外の様子は、胸元にある開閉式の窓から確認する事になる。

窓は案外大きく開くので、視界はそれ程悪くはなかった。


「それじゃあ出発します」


周囲のワイバーンが次々と飛び立っていく。

俺の乗ったワイバーンも飛び立ち、その陣形の中央に位置して飛行する。

操主はルーリが勤め、俺は後ろの席だ。


「おおう!中々いいスピードが出るじゃないですか!!」


俺の頭の上でルピがはしゃぐ。

付いてこなくていいと言ったのに、神様係だからと言って彼女は無理やり付いて来てしまった。

まあ実際彼女の防御能力は優秀だったが、灰になってしまった以前の事を思い出すと、正直余り無理はさせたくない所だ。

あんな思いはもう2度としたくはないからな。


「本当に便利ですよね、この乗り物。魔力を送るだけで自由に空を飛べるんですから。流石は勇人さんです」


「いやまあ、どちらかというと世界樹のお陰ですけどね」


世界樹から生まれる素材でなければ、空飛ぶゴーレムは無理があっただろう。


「そんな事無いですよ。やっぱり勇人さんは凄いです」


「いやぁ……そうかな」


美人にべた惚れされるとやはりむず痒い。

まあ努力の成果でもあるので、此処は素直に賞賛を受け取るとしよう。


ここ数か月、俺は色々な魔法の使い方を覚るため頻繁に頭の中の図書館と睨めっこしていた。

行き当たりばったりでは、この先不味いと思ったからだ。


ゴーレムの改良はその成果の最たる例だった。


最初は人型の物しか作れなかったが、それは俺が単純にゴーレム=人型とイメージしていた為そうなっていただけだった。

色々試してみると、魔力の流れやイメージを変える事で多くの形や機能を付加できる様になり、ワイバーンの背中の開閉出口や熱源センサー等はまさにその集大成と言ってもいいだろう。


まあ原理自体はよく分かってないんだけどな。


改良はあくまでも感覚によるものでしかないので、何故そうなるのかは実は全く分かってはいなかった。

まあ結果オーライと言う奴だ。


「世界樹は凄い!神様も凄い!そんな神様に仕える私も凄いんです!」


「ああ、はいはい」


アホの子の言葉は、残念ながら俺の心には響かない。

よってリピの言葉は適当に流した。


俺達は何度か休憩を挟み、翌日の早朝辺りに戦線へと到着する。

戦況はどうやら芳しくない用で、昨日の初戦ではかなりの死傷者が出ていた様だった。


「絶好のチャンスです」


そう俺に耳打ちし、報告を行ってくれた指揮官にマーサさんがゴッドポーションの無償提供を持ちかける。

まあ此処までは概ね狙い通りだ。


後は……俺の仕事をするとしよう。


俺達の国、神聖勇人神国――このフルネームは恥ずかしいのでどうにかならないだろうか?――の力を帝国・王国に見せつける。

その為の強烈な一撃を、今日の戦場で俺は放つ積もりだった。


その結果大量の命を奪う事になる。

正直、出来ればやりたくはないが、それが外敵から皆を守る事に繋がるのなら俺は迷わない。


覚悟を決めて、大量虐殺を行なうとしよう。

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