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30歳童貞は魔法使いとなって異世界で無双する~10年元の世界に帰れないと言われたのでひっそりと生きて行くつもりが何故かいける伝説に~  作者: まんじ(榊与一)
神国編

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第40童 目的

「ふぅん。こいつら中々使えるじゃない」


ユーリは黒煙を上げるペイレス要塞を背景に呟いた。

要塞から煙が上がっているのは、彼女がそこら中に火を放ったからだ。


「当然だ。我々が用意した兵だぞ」


彼女の直ぐ傍に立つ、全身黒のフルプレートを身に纏った騎士がその言葉に抑揚なく応える。


「兵士ねぇ」


ユーリの目が楽し気に細まった。

その視線の先には、横に立っている男と同じ黒一色のフルプレートの集団が整列している。


「中身がまさか凶悪なミノタウロスだなんて、殺されたこの砦の奴らも夢にも思わなかったでしょうね」


兵士達の背格好はほぼ同じ、2メートル前後だ。

そしてその鎧の中にはミノタウロスが入っていた。

但し大人ではなく幼体――子供――ではあるが。


「大人は凶暴性が強すぎてコントロールできないが、角のない小さな幼体ならば支配は容易い。子供であっても、人間の数倍の能力を有しているから戦力としては十分だ」


「強さ的には成体の方が良いんでしょうけど、コントロールできないんじゃしょうがないわね」


「ああ。勿体ないが、成体は全て始末している」


ミノタウロスは親が子を育てる習性を持つ魔物だ。

当然子供を奪われるとなれば激しく抵抗するため、成体は基本的に全て組織によって駆逐されている


だが極稀に運よく生き残る者もおり、そう言った個体は人間に強い恨みと憎しみを持つようになってしまう。

タラン村を襲ったミノタウロスが正にこれに該当し。

かつて子を奪われ始末されそうになった人間への恨み辛みから村を壊滅させ、執拗なまでにサラや勇人を追跡したのだ。


「それで?次はどうするの?」


「暫く様子を見る」


「あら、詰まらないわね。もっと派手に暴れる事を期待していたんだけど?」


思うさま暴れられると思っていたユーリは、拍子抜けな返答に毒気を抜かれる。


「目的はあくまでもカレンド・ペイレス間で戦争を起こし、標的(ターゲット)をあの樹の中から戦場へ引きずり出す事だ。あまりやり過ぎると逆効果になりかねない」


「一々噛んで来るかしら?」


戦争になれば五大竜の力をカレンド王国が上手く利用しようと動くのは目に見えてはいたが、相手がそれに答えるかは別の問題だ。

如何にカレンド側がごねても、無視して世界樹に閉じこもられたら手出しは出来無いだろう。


「それ位、カレンドも上手く立ち回るだろう。まあ出てこなければ他の手を打つだけだ」


上手く行けば御の字。

駄目な時用の副案は、当然複数用意されいた。


「全部失敗したら?」


ユーリは冷たい眼差しを黒い騎士に投げかける。

最初の案自体が大雑把であるため、残りも余り期待できないと考えたからだ。


「その時は監視をつけて後回しにするだけだ。此方の邪魔をして来ないのなら、最終段階の時点で始末すればいい」


強大な力を持つ危険な相手であるため早めに始末するのが理想ではあったが、計画の邪魔にならないのなら、最悪放置でも構わないと彼らの組織は判断している。

ユーリを蘇らせ事に当たらせているのも、失敗して失っても痛くない捨て駒として使うためだった。


「随分と呑気な物ね」


彼女の元々の目的はカレンドとペイレスを潰す事であるが、自分を殺した男への復讐も新たに其処に加わっている。

その為、ユーリは早く勇人を殺したくてうずうずしていた。


「我らは神の目を盗み、数百年の時をかけて準備してきた。今更焦りはしない」


「……ま、いいわ。戦争は間違いなく再開させられそうだし、今はそれで良しとしましょう」


ユーリも思う所はあったが、素直に従う事を選ぶ。

折角生き返り自らの目的を果たすチャンスを得たのに、組織に逆らえばそれを棒に振る可能性が出て来るからだ。


いつまでも従い続けるつもりはなかったが、今は素直に従おう。

そう腹の中で彼女は算段するのだった。

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