第39童 奇襲
それは突然の出来事だった。
カレンドとペレイスの国境付近に構えられた帝国要塞、ペイグン。
雪の降りしきる夜半過ぎ、突如そこに奇襲が仕掛けられたのだ。
「て、敵襲だ!!」
正門に巨大な爆炎が起こり、轟音を立てて吹き飛ばされた。
門は魔法に対する高い耐性を持つ設計で有る為、通常の魔法ではびくともしない。
それがたった一発の魔法で吹き飛ばされたのだ。
放たれた魔法の威力は計り知れない。
要塞内で奇襲に対する緊急警報が鳴り響いた。
外壁の物見矢倉に上った兵士達が、マジックアイテムの光で正門前方を照らして相手を確認すると――
「カレンド王国!?しかもあれは……」
正門の前方。
視界の悪い雪の中、そこには黒い鎧を身に纏った軍勢が整列しており、掲げられた軍旗はカレンド王国の物であった。
そしてその先頭には、焔の魔女と恐れられるユーリ・サンダルフォンの姿が……
ペイレスの兵で、焔の魔女の悪名を知らぬ者はいない。
裏切り者であり、また帝国に甚大な被害を及ぼした冷徹な悪魔。
戦場では常に魔法で出来た焔の鎧を身に纏う彼女のその存在は、一目でそれとわかる。
門を吹き飛ばしたのが彼女の魔法であると兵士達は即座に判断した。
「カレンド王国の夜襲だ!敵は千騎程!焔の魔女、ユーリ・サンダルフォンの姿を確認!」
門の周辺に要塞内の歩兵達が集合する。
但しユーリの強力な魔法を警戒してか、それはある程度散会する形であった。
纏めて消し飛ばされたのでは目も当てられないからだ。
同時に城壁上に魔導士と弓兵が押し寄せ配置についた。
彼らは号令を受け、ゆっくりと進軍するカレンド軍に対して一斉に長弓と長距離魔法を斉射する。
だがその全てが、見えない壁の様な物で遮られてしまう。
恐らく魔法による防御なのだろうが、これ程の大規模な防御魔法を見た事のない兵士達は絶句した。
黒衣の軍勢は止まらず進み続ける。
そこへ第二第三の斉射が行われるが、最初と変わらず全て弾かれてしまい、彼らの進軍を阻止するどころかその数を減らす事すら敵わない。
やがて軍勢は正門少し手前へと辿り着く。
周囲は深い堀に囲まれ跳ね橋は既に挙げられていたが、そこに魔法で瞬く間に氷の橋が生み出されてしまう。
それは巨大で、大軍が乗ってもびくともしない程のしっかりした物だった。
城壁の魔導士達は炎の魔法でそれをなんとか崩そうとするが、放った魔法は全て氷の橋に届く前に胡散してしまう。
恐らくこれも防御魔法によるものだろう。
カレンド軍は難なく氷橋の上を渡り、正門へと迫る。
上がった跳ね橋が蓋となり進軍の妨げとなっていたが、ユーリ・サンダルフォンが手にした炎の鞭を振るうと、巨大な跳ね橋は大きく引き裂かれ、崩壊と共に跡形もなく燃え尽きてしまった。
その様子を目の当たりにした兵士達は震えがる。
そして確信した。
この要塞はもう駄目だと。
実際、要塞はその後30分足らずで陥落する事になる。
全身黒で統一されたフルプレートの騎士達の驚異的な強さと、そして焔の魔女の圧倒的な力によって。
カレイド王国による要塞ペイグンの陥落。
その報せはペイレス帝国に衝撃を走らせた。
そしてその突然の奇襲は、休戦を結んでいた2国に致命的な亀裂を走らせる事になる。
それが第3者の策略だとも知らずに……




