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30歳童貞は魔法使いとなって異世界で無双する~10年元の世界に帰れないと言われたのでひっそりと生きて行くつもりが何故かいける伝説に~  作者: まんじ(榊与一)
神国編

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第37童 蘇生

「お初にお目にかかります。我々はカレンド王国陛下の命で参りました」


無駄に豪勢な玉座に腰を下ろすと、4人の人物が謁見の間へと連れて来られる。

4人とも揃いの青い制服を身に着けており、その胸元には抽象的な太陽の意匠が施されていた。

たしかカレンド王国の象徴何だっけか?


「ようこそお越しになられました」


すぐ横に立つマーサさんが彼らの言葉に返事を返す。

俺の玉座の左にはマーサさんとルーリが、右側にはカイルと妖精の長が立って――まあ長は飛んでるけど――いた。

そこに4人を先導してきたリピがどや顔で加わる。


他の妖精やエルフ達は、玉座から一段低い場所で左右に広がる形で歯列している。

タラン村の人間で参加しているのはカイルだけだった。

彼らはこういう場に不慣れ――実際は格好(麻の服)に問題がある――という事で外されているのだ。


俺も不慣れなので、外せてもらえたらどれ程素晴らしかった事か。

まあ代表である俺に会いに来た使者に、俺抜きで話をすると言うのも失礼なのでその選択肢は有り得ないが。


「私目は、代表を務めるガリドと申します」


神経質そうな方眼鏡の男が一歩前に出て、会釈する。

普通こういう場合使者は膝を付くもの――マーサさんから聞いた――だが、彼らにその様子はない。

此方を王とは認めていないからだろう。


まあいきなり自国内で建国宣言した相手をそう簡単に認めるのは有り得ないので、当然と言えば当然の行動であるのだろうが、先程からマーサさんの目元がぴくぴくして――って、ええ!?


急にマーサさんが魔法の詠唱を始める。

詠唱は一瞬の事、次の瞬間彼女の手から光の矢が放たれた。


「が……あぁ……」


その矢は寸分違う事無く、ガリドと名乗った使者の胸の中心を貫いた。

男は信じられないと言う表情のまま、その場に崩れ落ちる。

俺は止める間もなく行われた殺傷に、只々呆然とするしかなかった。


使者をいきなり殺すとか、マジかこの人?


「神である勇人様に対する不遜な態度、万死に値します。カレンドの王に伝えなさい。神聖勇人神国に対する宣戦布告、確かに受け取ったと」


まるで戦争上等みたいな事をマーさんは口にする。

状況次第では最悪相手が国であっても戦うつもりではあったし、その準備もしてはいたが、使者を殺して自分達から戦争を仕掛けるなど流石に有り得ないだろ。


「……」


俺は黙って彼女を見つめる。

それに気づいたのか、彼女は使者に見えない様こっそりウィンクして来た。

その仕草は可愛らしいが、やってる事は滅茶苦茶だ。


「お、お待ちください!我々は話し合いの為にやってまいりました。あなた方と争うためにやって来たのではありません」


代表が殺された事に唖然としていた3人だったが、慌てて膝を付いて口を開く。

その顔色は真っ蒼に染まっていた。

目の前で仲間が無体に殺されたのだ、まあそうなるだろう。


「あのような無礼な態度を働いておいて!話し合いだと!」


今度は妖精の長が大声を上げる。

が、なんだか棒読み臭い。

ひょっとして演技か?


いやでも相手の1人を殺してるし、人を殺しておいて演技も糞も無くないか?


「ガリドの無礼は私が変わって謝罪いたします。どうか彼の非礼はお許しください」


三人は深々と頭を下げる。

もう殆ど土下座状態だ。

その時、マーサさんが3人には見えない様に俺に耳打ちして来た。


「許すと伝えますから。その後にガリドという男の蘇生をどうかお願いします 」


どうやら俺が蘇生させる事前提で、彼女は使者をその手にかけた様だ。

という事はやはり、この一連の流れは最初っから狙ってやった物なのだろう。

最初に何も話さない様言われたのはこの為だった様だ。


つうか先に説明してくれよ。

心臓に悪い。


「こんな事をして、一体何がしたいんですか?」


俺は小声で聞き返す。

交渉術なのかもしれないが、さっぱり意図が分からない。


「此方には相手に屈せず戦う意思がある事を伝える為と、勇人様のお力を彼らに知らしめるためですわ」


相手に見くびられればいい様にされるので、そう彼女は付け加えた。

正直国同士の交渉事など全く分からない俺からすれば「はぁそうなんですか」としか返しようがなかった。


「喜びなさい!我が神はあなた方の愚昧な行動をお許しになられました!」


「あ、有難うございます!」


「本来なら死んだその無礼者は捨て置く所ですが、お優しい我らが神は一度だけチャンスを与えると申されています。神の奇跡に感謝する様に」


「は?え?」


顔を上げた使者達はマーサさんの言葉の意図が分からず、ポカーンとしている。

まあまさか目の前で殺された仲間が生き返るとは、夢にも思わないだろう。

話を聞く限り、蘇生魔法は現代には存在していないらしいからな――古代文明の伝承等には記されているそうだが、事実かどうかは定かではない様だ。


俺は玉座に座ったまま、右手を絶命して倒れているガリドへと向ける。

死んでまだたいして時間は経っていないし、損傷も大きくない。

この条件なら、触媒を必要としない蘇生魔法で問題なく生き返らせる事が出来るだろう。


「リザレクション」


俺の右手から放たれた魔法の光が、倒れている男を包み込んだ。

胸元に大きく開いた傷は見る間に塞がっていき、ガリドの心臓の鼓動が再開する。

本来なら蘇生魔法は相手に触れる不必要があるのだが、今の俺は世界樹と繋がっている為、その内部でなら離れていても問題なく行う事が出来た。


「こ……これは……」


「う……うぅ……」


魔法に驚く使者達の目の前で、死んだはずのガリドが息を吹き返し、呻き声と共に目を開け開ける。

それを見た3人は驚愕に目を見開き固まってしまった。

彼らにとって、よっぽどショッキングな出来事だったのだろう。


「あれ……俺は一体?」


当の本人はなぜ自分が倒れていたのか分からない用で、上半身だけ起こした状態で混乱した様に周囲をキョロキョロと見渡している。


「貴方は死に、そして我が神の慈悲によって蘇ったのです」


マーサさんに声を掛けられ、ガリドがハッとなって自分の胸元を手で触る。

彼女に告げられた事で、自分が殺された事を思い出した様だ。

その手にべったりと付着した血を見て、彼の顔は蒼白に変わって行く。


「さて、ではそちらの用件を伺いましょうか。ああ、言うまでも無いとは思いますが、くれぐれも我が神に粗相の無い様に」


そこからは完全にマーサさんのターンだった。

此方に怯え切った使者達は完全にイエスマンと化す。


これ、交渉じゃなくて只の脅迫なんじゃ?

そう思わなくもないが、トップとしてエルフを率いてきたマーサさんを信じて俺は黙って見守る事にする。


つうかどう考えても、もう今更修正しようがないし。

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