第36童 謁見
「はぁ……やだなぁ」
「ははは、頑張ってください」
襟元を整えながら愚痴を零すと、いつの間にかやって来ていたカイルに声を掛けられる。
彼は何時もの麻の粗末な服ではなく、エルフ達が身に纏っている植物性の衣服を身に着けていた。
俺も今は同じものを身に着けている。
まあデザインや色は多少違うが。
「おお!流石は神様!とてもお似合いです!」
「確かに、良くお似合いですわ」
妖精の長と、エルフの長であるマーサさんが部屋に入って来てお世辞を言って来る。
鏡で確認する限り、正直余り似合っている様には見えない。
まあお世辞だろう。
つか気づいたんだが。
俺若返ってね?
着替える時は衣服の方ばかり意識して最初は気づかなかったが、よく見ると鏡に映る自分の顔が明らかに30台のそれではなくなっていた。
どう見ても10代後半位にしか見えない。
あのおっかない女が俺の事を坊や呼ばわりしていたが、確かにこれなら納得だ。
しかし何で若返っているのだろうか?
まあ考えても答えは出そうにないし、実害がないなら放っておいても良いだろう。
「さあ、そろそろ謁見室の間へ向かいましょう」
カイルに言われ、大きく溜息を吐いた。
俺の憂鬱の原因は、これから行われる謁見にある。
カレンド王国からの使者がやって来ており。
俺はトップとしてそいつらと対峙する事になっている訳なんだが……正直気が重かった。
唯一の救いは、俺が話す必要がない事ぐらい――マーサさんにそう言われている――だが、それでもやっぱり緊張するので誰か代わってくれない物だろうか?
「トップはやっぱり、マーサさんが勤めた方がいいんじゃ?」
彼女の方を見て、一応提案してみる。
強力な魔法を使えるとは言え、俺は所詮只のおっさん――改め青年――でしかない。
集団のトップは、長年エルフを率いてきたマーサさんの方が相応しい筈だ。
「その様な事!恐れ多いですわ!」
「そうです!神様は神様なのですから!」
駄目だった。
これでもかというぐらいに、力いっぱい否定されてしまう。
まあ聞く前から返事は分かっていたので、別に落胆はしないが。
「神聖勇人神国で、勇人さん以外がトップなんて有り得ませんよ」
カイルも笑いながらそういう。
彼だけは俺の味方だと信じていたのに、バッサリと裏切られた気分だ。
まあ仕方がないか。
「わかったよ」
押し付けるのが無理なら、もう覚悟を決めるしかないだろう。
俺は世界樹に魔力を送って転移ゲートを開いた。
目の前に光の柱が生まれ、そこに入れば目的の場所へ――世界樹内限定だが――一瞬で移動する事が出来る。
こんな風に自由にゲートの開け閉めが出来るのも、俺が世界樹と魔法で繋がっているからだ。
今の俺達は、非常に危うい状態と言える。
やっている事を考えると、いつカレンド王国の軍隊が攻め込んできてもおかしくない。だからその対策として魔法を使って世界樹とリンクし、魔力の供給で世界樹のパワーアップを行っているのだ。
主に防衛力強化の為に。
「おお、流石神様!」
それを見て妖精の長がはしゃぐ。
俺はそれを無視してゲートを潜った。
一々相手にしていてはキリがないからな。
「「神様!」」
ゲートから姿を現した俺を見て、既に待機していたエルフ達が膝を折り、一斉に首を垂れる。
「どうぞおかけ下さい」とマーサさんに言われ、俺は用意されている赤を基調とした金縁の玉座へと腰を下ろした。
うん!
居心地超悪い!
そんな事を考えながら、俺は使者との謁見に臨む。




