ユーリ・サンダルフォン②
「ぐぅぅ……ユーリ・サンダルフォン……貴様……」
片手と片足を失った軍服の男が血溜まりの中に這いつくばる。
血反吐の中から男は恨めし気に私を睨みつけた。
その様子を見て溜息を吐く。
私が仕向けた事ではあるが、それに乗ったのは彼本人だ。
その事で此方を恨むのはお門違いも良い所だった。
全ては身から出た錆でしかない。
私は視線を辺りに這わせる。
周囲には男と同じ制服を身に着けた兵士達が転がっていた。
彼らはピクリとも動かず、既に全員こと切れている。
「貴方がいけないのですよ、少佐。敵を逃がす様な真似をするから」
息も絶え絶えに私を睨みつけてくる男。
彼は私の上官、サンダース少佐。
私の所属する大隊で長を務めている男だった。
そんな男があろう事か、捕虜を逃がそうとしていたのだ。
私はそれを見つけ彼を……彼らを処断した。
敵兵を逃がす行為は謀反に当たる。
お陰で私は大手を振って上官を始末する事が出来た。
上手く行けば現場特進で私が大隊長の座に収まれるかもしれない。
そう思うと自然と笑みがこぼれ出る。
「おのれ……魔女め……」
「さようなら。中佐」
鞭を振るい、その首を跳ね飛ばす。
無慈悲に。
いや、苦しみが長引かない様殺してやったのだ。
ある意味慈悲と言っていいだろう。
これは上の席を一つ開けてくれた細やかなお礼だ。
「さて……彼等も始末しておきましょう」
私は視線の先にいる6人の捕虜に向けて死刑宣告を下す。
捕虜は泣き叫び、命乞いを口にする。
「ユーリ大尉。何も処刑せずとも……」
部下の一人が私を止めようとする。
「彼らは只の農民なのですから……」
そう、目の前で跪き命乞いをしているのは全員只の農民だった。
“本来は”の話ではあるが。
戦場となった村の農民。
それが彼らだ。
では何故彼らが捕虜として捕らえられているのか?
その答えは簡単である。
彼らは守ろうとしてしまったのだ。
自分たちの村を。
彼らは武器を取り、此方へと抵抗してしまった。
その結果がこの様だというのに、今更命乞いなど笑わせてくれる。
そんなに命が惜しかったのなら、少佐の勧告に従いとっとと村から逃げれば良かったのだ。
後悔先に断たずとは正にこの事だった。
私は部下の言葉など無視して鞭を振るい、6人全員の首を刎ねた。
どうせ情報も持っていない“元農民”だ、こいつらに労力をかけるなど無駄でしかない。
「どうせ大した情報も期待できない捕虜の為に、物資や人員を割くのは無駄でしょ?それとも、拷問でも楽しむ為に生かしておくべきだとでも?」
「……」
返事はない。
どうやら納得した様だ。
私は捕虜の遺体の埋葬と、謀反者達の片付けを命じ。
彼らの裏切りとその処分を自ら伝える為に、私は上機嫌で本拠地へと向かう。




