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30歳童貞は魔法使いとなって異世界で無双する~10年元の世界に帰れないと言われたのでひっそりと生きて行くつもりが何故かいける伝説に~  作者: まんじ(榊与一)
建国編

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30/61

第30童 潜入?

「神様ー!神様ー!」


兵士に連れられた俺を見つけ、妖精達が鉄で出来た鳥籠の様な物の中から神様コールを始める。

こいつらのせいでこっちはメンドクサイ目に遭ってると言うのに、まったくのんきな奴らだ。


「お前ら大丈夫か?」


「大丈夫ではありません!こいつ等食事も与えてくれないんですよ!!悪魔です!八つ裂きにしてやってください!」


里長の物騒な言葉に、他の妖精達も同調する。

随分と口が悪い。

まあ飯抜きにされているならしょうがないっちゃしょうがないか。


「人聞きの悪い事を言わないでもらいたいね。食事ならちゃんと与えているだろう」


ちょび髭の、くたびれた感じの軍服男が此方へと近づいて来る。

男は俺の正面に立つと籠の一部を指さした。

そこには小さな餌籠の様な物が取り付けられており、中にはよく分からん穀物っぽいものが詰められていた。


「こんな物食えるか!我々は魔力か植物の生命エネルギーしか食べないんだぞ!!」


「そうだ!そうだ!植物の惨殺死体なんて出すな!そんなもの食えるか!」


惨殺死体では無いだろう。

たぶん死んでないだろうし。

ああ、でも芋とかは根っこごといかれてるから死んでるのか。

まあどうでもいいわ。


「そういう事はもっと早く言ってくれ」


男は小さく溜息を吐く。

どうやら妖精達(このあほども)は自分達が何を食べるのか伝えていなかった様だ。


「君達は神様が天罰を下すとしか口を開いてくれないから、食べないのはてっきり抵抗の意思表示だとばかり思っていたよ。土ごと植物を持ってくるよう部下に命じるから、もう少しだけ辛抱しててくれ」


「彼らが神と呼んでいるのは俺です。もう彼らは開放してやってくれませんか?」


これからここの司令官を法螺話で煙に巻かなくてはならないのだ。

こいつらが居たら絶対に邪魔になりそうなので、とっとと開放する様頼んでみる。


「悪いねぇ。そうしてやりたいのは山々なんだが。その決定権は私には無いんだよ。そう言うのはここの指揮官、ユーリ様に頼んで貰えるかい。ああ、そうそう。名乗り遅れたが、私の名はチョビー。一応ユーリ様の副官という事になっている」


すぐ横で妖精達が死ね死ねコールしているが、男――チョビーはまったく気にした様子も見せず自己紹介をする。

うだつの上がらない風貌ではあるが、流石軍で副官を務めるだけあって少々の事では動じない様だ。


「不躾な質問で悪いが、君は本当に神様なのかね?」


「まさか!?妖精達が勘違いして勝手にそう言ってるだけですよ。あのデカい樹だって、別に俺の力って訳じゃありませんから」


「そうなのかい?」


「ええ、勘違いしているだけですよ」


チョビーは俺をじっくり眺め「そりゃ神様なんて居る訳無いか」とつぶやいて苦笑いする。

まあ、これが普通の反応だろう。

この分ならすぐに誤解は解けそうだ。


「さて、彼は私が連れて行くので、君達は妖精への食事を用意してやってくれ」


「はっ!」


チョビーに命じられ、俺を連れて来た兵士2名は下がっていく。

その場を離れる兵士の表情が、まるで安堵しているかの様に見えたが気のせいだろうか?


「さて。ユーリ様の所に連れて行くに当たり、君に一つ頼みごとがある」


それまで締まりのない顔だったチョビーが、急に真剣な表情に変わる。


「此処の指揮官様は、性格に難があってね。横柄な態度に腹が立つかもしれないが、ぐっと堪えて欲しいんだ」


その一言で、去って行った兵士達の表情の意味を理解する。

ここの指揮官は部下からかなり嫌われているのだろう。


「これは君の為でもある。ユーリ様の逆鱗に触れた場合、どんな目に遭わされるか分かった物じゃないからね」


軍人が罪のない民間人に暴力を振るう。

平和な日本なら考えられない話だが、ここは異世界。

しかも文化水準は低い。


そう考えると十分にあり得る事だ。

チョビーの表情もそれが真実だと物語っている。


「気を付けます」


「すまないね。因みに何かあっても我々じゃ助けられないから。冗談抜きで気を付けてくれ」


チョビーがとんでもない事を口にする。

どうやら助けてくれる気は無い様だ。


「そんな目で見ないでくれ」


俺の非難気な眼差しに気づき、チョビーは大きく溜息を吐く。


「助けようにも、我々の実力じゃ指揮官様は止めようがないんだよ」


「止めようがない?」


「ああ、研究者を除けばここには40人の兵士が駐留しているが。その40人全員でかかっても返り討ちに合うのがおちだ」


「えぇ、そんな強いんですか!?」


正直目の前の男は弱そうだが、見張りや俺を連れて来た兵士達は屈強に見えた。

それが束になってかかっても返り討ちに合うとか、どんなバケモンだよ。


しかもそいつが理不尽な性格をしてるとか……


はぁー、やだやだ。

こんな事なら別の手を用意すりゃ良かった。

後悔先に立たずとは正にこの事だ。


「まあね、化け物だよ。だから怒らせない様に一つ頼むよ」


そう言うとチョビーは「こっちだ。付いて来てくれ」と言って、さっさと歩きだす。

その後ろ姿は隙だらけだ

。一瞬、魔法をぶちかましてこの場から逃げ出したくなるが、グッと堪えた。


下手に動いて国なんかを敵に回したくはないからな。

どうか指揮官がいちゃもんをつけて来ません様に……


そう願いながら俺はチョビーの後を付いて行く。

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