第30童 潜入?
「神様ー!神様ー!」
兵士に連れられた俺を見つけ、妖精達が鉄で出来た鳥籠の様な物の中から神様コールを始める。
こいつらのせいでこっちはメンドクサイ目に遭ってると言うのに、まったくのんきな奴らだ。
「お前ら大丈夫か?」
「大丈夫ではありません!こいつ等食事も与えてくれないんですよ!!悪魔です!八つ裂きにしてやってください!」
里長の物騒な言葉に、他の妖精達も同調する。
随分と口が悪い。
まあ飯抜きにされているならしょうがないっちゃしょうがないか。
「人聞きの悪い事を言わないでもらいたいね。食事ならちゃんと与えているだろう」
ちょび髭の、くたびれた感じの軍服男が此方へと近づいて来る。
男は俺の正面に立つと籠の一部を指さした。
そこには小さな餌籠の様な物が取り付けられており、中にはよく分からん穀物っぽいものが詰められていた。
「こんな物食えるか!我々は魔力か植物の生命エネルギーしか食べないんだぞ!!」
「そうだ!そうだ!植物の惨殺死体なんて出すな!そんなもの食えるか!」
惨殺死体では無いだろう。
たぶん死んでないだろうし。
ああ、でも芋とかは根っこごといかれてるから死んでるのか。
まあどうでもいいわ。
「そういう事はもっと早く言ってくれ」
男は小さく溜息を吐く。
どうやら妖精達は自分達が何を食べるのか伝えていなかった様だ。
「君達は神様が天罰を下すとしか口を開いてくれないから、食べないのはてっきり抵抗の意思表示だとばかり思っていたよ。土ごと植物を持ってくるよう部下に命じるから、もう少しだけ辛抱しててくれ」
「彼らが神と呼んでいるのは俺です。もう彼らは開放してやってくれませんか?」
これからここの司令官を法螺話で煙に巻かなくてはならないのだ。
こいつらが居たら絶対に邪魔になりそうなので、とっとと開放する様頼んでみる。
「悪いねぇ。そうしてやりたいのは山々なんだが。その決定権は私には無いんだよ。そう言うのはここの指揮官、ユーリ様に頼んで貰えるかい。ああ、そうそう。名乗り遅れたが、私の名はチョビー。一応ユーリ様の副官という事になっている」
すぐ横で妖精達が死ね死ねコールしているが、男――チョビーはまったく気にした様子も見せず自己紹介をする。
うだつの上がらない風貌ではあるが、流石軍で副官を務めるだけあって少々の事では動じない様だ。
「不躾な質問で悪いが、君は本当に神様なのかね?」
「まさか!?妖精達が勘違いして勝手にそう言ってるだけですよ。あのデカい樹だって、別に俺の力って訳じゃありませんから」
「そうなのかい?」
「ええ、勘違いしているだけですよ」
チョビーは俺をじっくり眺め「そりゃ神様なんて居る訳無いか」とつぶやいて苦笑いする。
まあ、これが普通の反応だろう。
この分ならすぐに誤解は解けそうだ。
「さて、彼は私が連れて行くので、君達は妖精への食事を用意してやってくれ」
「はっ!」
チョビーに命じられ、俺を連れて来た兵士2名は下がっていく。
その場を離れる兵士の表情が、まるで安堵しているかの様に見えたが気のせいだろうか?
「さて。ユーリ様の所に連れて行くに当たり、君に一つ頼みごとがある」
それまで締まりのない顔だったチョビーが、急に真剣な表情に変わる。
「此処の指揮官様は、性格に難があってね。横柄な態度に腹が立つかもしれないが、ぐっと堪えて欲しいんだ」
その一言で、去って行った兵士達の表情の意味を理解する。
ここの指揮官は部下からかなり嫌われているのだろう。
「これは君の為でもある。ユーリ様の逆鱗に触れた場合、どんな目に遭わされるか分かった物じゃないからね」
軍人が罪のない民間人に暴力を振るう。
平和な日本なら考えられない話だが、ここは異世界。
しかも文化水準は低い。
そう考えると十分にあり得る事だ。
チョビーの表情もそれが真実だと物語っている。
「気を付けます」
「すまないね。因みに何かあっても我々じゃ助けられないから。冗談抜きで気を付けてくれ」
チョビーがとんでもない事を口にする。
どうやら助けてくれる気は無い様だ。
「そんな目で見ないでくれ」
俺の非難気な眼差しに気づき、チョビーは大きく溜息を吐く。
「助けようにも、我々の実力じゃ指揮官様は止めようがないんだよ」
「止めようがない?」
「ああ、研究者を除けばここには40人の兵士が駐留しているが。その40人全員でかかっても返り討ちに合うのがおちだ」
「えぇ、そんな強いんですか!?」
正直目の前の男は弱そうだが、見張りや俺を連れて来た兵士達は屈強に見えた。
それが束になってかかっても返り討ちに合うとか、どんなバケモンだよ。
しかもそいつが理不尽な性格をしてるとか……
はぁー、やだやだ。
こんな事なら別の手を用意すりゃ良かった。
後悔先に立たずとは正にこの事だ。
「まあね、化け物だよ。だから怒らせない様に一つ頼むよ」
そう言うとチョビーは「こっちだ。付いて来てくれ」と言って、さっさと歩きだす。
その後ろ姿は隙だらけだ
。一瞬、魔法をぶちかましてこの場から逃げ出したくなるが、グッと堪えた。
下手に動いて国なんかを敵に回したくはないからな。
どうか指揮官がいちゃもんをつけて来ません様に……
そう願いながら俺はチョビーの後を付いて行く。




