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第3童 懲役10年?

鳥の羽を毟り、石の上に置いてファイアでこんがり焼きあげる。

手で触ると熱くて火傷しそうになったので、フーフーして少し冷ましてから一口齧った。うん、焼き加減は完璧だ。


だが――


「今一」


臭みやえぐみの類は感じないが、調味料の類がないため余り味がしない。

空腹は最高の調味料と言うが、個人的には塩の圧勝だ。


「それに思ったより、量も少ないなぁ」


内臓を避けると殆ど食べる所がなかった。

その為すぐに食べ終わってしまう。


まあ無いよりましではあるのだが、少々侘しい。

一瞬内臓も食べようかと考えたが止めておこう。

毒とか寄生虫がいたら怖いし。


「食った事ないけど、カラスもこんな味なんかな? 」


今俺が食べたのはカラスっぽい鳥だった。

たまたま空を飛んでいた所を見つけ、空気の刃を生み出すエアの魔法を狂ったように乱射して仕留めたのだ。下手な鉄砲数打ちゃ当たるとは正にこの事。

因みにぽいと付けたのは、カラスの様でそうじゃない生き物だったから。


通常カラスは黒い。

だがこいつは見た目こそカラスだったが、その色は鮮やかな紫色をしていた。

正直色合い的にあまり食いたくない感じだったが、昨日の夜から何も口にしておらず、空腹が限界だったので手を出さざるを得なかった。


腹を壊さなければいいのだが……

内臓を避けてしっかり火を通してあるので、大丈夫だと思いたい。


さもしい食事を終え、空を見上げると薄っすらと闇色に染まり始めていた。

此処が何処だか分からないが、暗闇の中うろつくのはあまり賢い選択肢ではない。肉食の獣が出ても魔法で追い払う事はできるだろうが、暗闇から不意に動脈などを噛み切られたらジ・エンドだ。


とりあえず今日はここで野営する事にしよう。

野営するにあたって俺はシェルター作りを試みる。

勿論動画のサバイバル物で見たようなやり方ではなく、法を使っての作成だ。

何せ俺は魔法が使えるからな。


手始めに土魔法で地面を抉ってみた。


「マッドマニピ」


これは土や鉱物を自在に操る魔法だ。

これで草原の土を大きく抉り取る。

それと同時に、抉った土をドーム状に被せ強く固めてみた。


うん、上手く行った。

さっきの魔力コントロールをしたのが活きたのか、目の前に土で出来た釜倉の様な物が綺麗に出来上がる。これで簡易シェルターの完成だ。


俺は入り口から中に入り、再び土魔法を使い入り口を塞ぐ。

獣が勝手に入って来ない様にする為だ。

その際、忘れずに小さな空気穴を何箇所か開けておいた。

完全に閉ざすと窒息してしまうからな。


「なんかもう疲れた。寝よう」


シェルターに寝転ぶと、土の香りに包まれる。

……いい風に捉えようとしたが、はっきり言って土臭いとしか言いようがない。

勿論寝心地も最悪だ。

まあ我儘を言える状況などでは無いので、我慢するとしよう。


目を閉じると直ぐに意識が遠のいていくのが分かる。

思っていた以上に疲れていたのだろう、そのまま俺の意識は闇の中へと溶け落ちていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「すまんのう」


聞こえた声に目を開けると、視界を巨大な顔に占領される。


「どわああ!」


思わず飛び起き叫び声を上げた。


「わしじゃよ、わ・し」


「か……神様…」


「すまんのう、ワシとした事が送る世界を間違えてしまった。お主には迷惑をかける」


「あ……ああ、別にいいですよ。こうして迎えに来てくれたわけだし」


見た事もない草原に送られた時はどうしようかと思ったが、たった1日の事だ。ちゃんと帰れるなら問題ない。

それに間違えず元いた場所に返されていた場合、試しの魔法できっと大惨事を引き起こしていた事だろう。そう考えると、今の状況は正に怪我の功名と言えた。


「それなんじゃがのう。実はお主を元の場所に返すには色々手続きが必要でのう」


「え!?神様なのに手続きが必要なんですか?」


「神とはいえ好き放題はできんのじゃ。いや、神だからこそと言うべきか。全ての頂点に立つからこそ、神は自らを律せねばならん」


まあ確かにそれはその通りかも知れない。

神様が気分次第でやりたい放題してたら、世界は滅茶苦茶になってしまうだろう。


「それで手続きに少々時間がかかってしまうのだ。悪いのう」


どうやら暫くこのよく分からない世界で過ごさなければならない様だ。

正直さっさと帰りたい所だが、此処で騒いで神様の御機嫌を損ねるのも余り宜しくないだろう。

下手をしたら一生異世界での生活を強いられかねない。

しょうがないのでここは下手に出ておくとしよう。


「お気になさらずに、それでどれぐらいかかりそうなんですか?出来るだけ早く帰らせて貰えると有難いんですが」


「ああ、そんなにはかからんよ。長くかかっても精々10年程度の事じゃ」


「は?」


え?今なんつったの?

10年!?

10日じゃなくて?


「えっと、10年ってのは……冗談ですよね?」


きっと小粋なゴッドジョークに違いない。

でないと10年に精々なんて形容詞付けないだろうし。


「ん?別に冗談などは言っておらんよ?」


「じゃ、じゃあ……本当に10年もかかるって事ですか」


「まあ10年なぞあっと言う間じゃよ」


「いやいやいや!10年ですよ!?懲役で考えたら結構な重罪に当て嵌まる年月ですよ!?」


しかも訳のわからない世界での10年だ。

確実に刑務所暮らしよりきついだろ!?

俺が一体何したってんだ!?


「な、なんとかしてくださいよ神様!神様のミスなんですから、この際手続きとか無視してお願いしますよ!」


「すまんのう。頑張ってくれ。陰ながら応援しておるよ」


「いや陰ながらの応援とか要らないんで!早く元に戻してくださいよ!!」


「頑張るんじゃぞ」


どうやら人の話を聞く気は更々無いらしい。

「さらばじゃ」と神様が告げると、その姿が蜃気楼の様に薄れてゆき消えてしまう。それと同時に俺の意識も途切れた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はっ!?夢か……」


夢だったと気づき、良かったと呟こうとした俺の視界にある物が飛び込んできた。


「嘘……だろ……」


思わず声が漏れる。

何故なら、俺の目に映るシェルターの天井に“10年頑張って”と、そうハッキリと文字が刻まれていたからだ。


つまり夢ではなかった。

そういう訳だ。


「ふ……ふっざけんなああぁぁ!!」


爽やかな草原の朝。

静謐を突き破り、俺の魂の叫びが響き渡るのだった。

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