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30歳童貞は魔法使いとなって異世界で無双する~10年元の世界に帰れないと言われたのでひっそりと生きて行くつもりが何故かいける伝説に~  作者: まんじ(榊与一)
建国編

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第27童 ファーストキス

「どうかされたのですか?神様」


考え事をしながら食事を取っていると、空いたコップにマーサさんが酒を注いでくれる。


「ああ、いや。この紋章を見てたんですよ」


そう言って彼女に左手の甲に刻まれた紋章を見せた。

これは5大竜。

腐竜改め、エメラルドドラゴンから感謝の印として貰ったものだ。


何かのっぴきならない時、紋章の力を使えば救援に駆けつけてくれるらしい。

あんなでかいのに駆けつけられても正直困るのだが、本人がどうしてもと奨めるので一応貰っておいた。


「これは神様がエメラルドドラゴンを従えた証です!」


リピが堂々と嘘を吐き。

エッヘンと胸を張る。

相変わらず素晴らしい脳の構造だ。


「別に従えてねーよ。只の友好の証だ、アホ」


「これが伝説の5大竜の紋章……」


マーサさんが両手で俺の手を包み、紋章をまじまじと眺める。

その際彼女が屈んだため、胸元がばっちりだったので思わず見つめてしまう。

これは不慮の事故の様な物だ。

誰も俺を責められまい。


「マーサさんはエメラルドドラゴンの事を知っているんですか?ルーリは知らなかったみたいですけど」


ルーリはエメラルドドラゴンの事を知らなかったが、この様子ならマーサさんは知っていそうだ。伝説の、なんて言ってるぐらいだし。

まあ世の中知りもしない事をさも知っているかのような口ぶりで話す奴はいるが、仮にもエルフの長である彼女がそういう輩という事はないだろう。


「古い伝承ですから、若い彼女が知らないのも無理はありませんね。私もルーリから報告を聞くまで、御伽噺の類だとばかり思っていました。それぐらい古い伝承です」


エルフは長寿な生き物だ。

マーサさんは若々しく綺麗だが、こう見えて500年は生きているらしい。

正に美魔女極まれり。

全然いける。


因みにルーリは見た目通りの年齢で。

ぴちぴちの18歳だ。


「言い伝えによると、私達エルフの住む森の奥深くに眠っており。世界の危機に目覚め、残りの4竜と共に世界を救う存在と聞いております」


世界を救う存在か。

そりゃ又大きく出たな。

まあ伝承なんて物は歪曲したり、大げさに伝えられたりするもんだ。


世界を救うとかは流石に眉唾物だが。

この辺り一帯を守る守護神的な何かだったのだろう。


「そんな偉大な存在に認められるなんて、流石神様です」


マーサさんは俺の手を掴んだまま顔を近づけてくる。

吐息が顔に掛かかる距離だ。

こんなに女性と顔が近づいたのは初めて――いや二回目か?――の事で、緊張でがちがちに固まってしまう。


あれがあったら下手したら立ってたかもしれん。

無くてよかった!

いや、全然よくはないけど。


「私もまだ500とちょっと、最後にもう一花咲かせるのも悪くはないと思いませんか?」


「え、えええええ、ええ。まままま、まあ、そうですねぇ……」


これひょっとして迫られてる?

迫られてる!?


「神様が御望みになられるのでしたら、私……」


ちらっと横を見ると、すぐ横でルーリはむしゃむしゃと飯を食っていた。

特に此方の様子は気にしていない様だ。

何処までもマイペースな子だな。


マーサさんの顔がどんどんと近づいて来る。

唇と唇がもう今にも触れそうな距離だ。

俺は目を瞑って覚悟を決める。


齢30にしてのファーストキス。

レモンの味だろうか。

いや、マーサさんは色っぽいからもっと根取りとした甘い何かなのかもしれない。


さあいざ開かん!

未知の世界の扉を!


「ビーーーッチ!!!」


甲高い叫び声と共に、マーサさんが急に仰け反りひっくり返る。

声の主はリピだった。

何を思ったか、彼女がマーサさんの頭を勢いよく蹴り飛ばしたのだ。


後ちょっとで未体験ゾーン突入だったのに、ギリギリのところで妖精(あほ)に邪魔された。その抗議の意味を込めて彼女を睨みつける。


「神様!こいつはビッチです!気を付けてください!」


何に気を付けろってんだ?

ていうかなんて言葉を使いやがる。

こいつは何処でそんな汚い言葉を覚えたんだ?


「リピちゃん、食事時に暴れちゃだめよ」


騒ぐリピに静かにと注意すると、ルーリは再び食事を再開する。

里長が蹴り飛ばされた事はまったく気にしていない様だ。

ここまで無関心だと、マーサさんの事が嫌いなのではと勘ぐってしまいそうだ。


「ぎゃー!助けて神様!!」


見ると起き上がって来たマーサさんに掴まれ、リピがぐりぐりされている。

自業自得だ。

放っておく事にする。


雰囲気的にファーストキスチャレンジはもう無さそうだ。

俺はがっくりうなだれ、酒を煽る。

リピの悲鳴を肴に。

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