第24童 エルフの村
new・次元を切り裂く刃
風系超位魔法。
極限まで圧縮された空気は空間すら歪め崩壊させる。
速度はそれ程ではないが、その性質上、防御不能の必殺魔法となっている。
神の英知より抜粋
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「エルフの里へようこそ」
肉感的な美女から握手を求められた。
勿論一も二も無く俺はその手を両手で握る。
ここはエルフの里。
そして今俺が手を握っているのは、この里の長マーサさんだ。
握ったその手は温かく。
そして――ごつごつしていた。
うん、弓を使って生活する狩猟種族だし。
まあしょうがないよね。
「初めまして、勇人と言います」
俺は出来る限り視線が胸元へ行かない様我慢しつつ、挨拶をする。
何故なら――彼女の胸はでかかった。
たぶん軽くFはある筈。
「勇人?貴方が神様ですか!?態々お越しいただいて申し訳ない!」
俺の名前を聞いた途端、マーサさんが大仰にお辞儀しだす。
どうやら先に里に帰ったエルフから俺の話を既に聞いている様だ。
「あー。えと、その神様って言うのは止めて貰えると有難いんですが……」
「何故でしょうか?」
マーサさんは不思議そうに此方を見てくる。
普通、神がいるなんて話は胡散臭がって疑うのが常だ。
だがルーリといいマーサさんといい、さも当たり前の様に受け入れている。
エルフと言う種族は純粋なのだろうか?
もしくは妖精と同じア――いや、それは考えたくはないな。
アホは妖精だけで十分だ。
「長老、実は……」
ルーリがマーサさんへと説明してくれる。
「成程。そう言う訳ですか」
彼女は説明を聞き何度か頷くと、にっこり微笑んで俺達を村の中へと招き入れてくれる。
村は森の中にあり、自然に溶け込む形で木製の家屋が建てられていた。
中には樹の上に建てられているものまであり。
少し進んだ先にある大木――その立派な幹に複数またがる形で建てられた、お屋敷と呼んで差しさわりの無い大きな家へと俺は案内される。
「村の者を集め、簡単ではありますが歓迎会を催したいと思いますので。少々お待ちください」
「いや、歓迎会なんて別にそんな……」
嬉しいと言えば嬉しいが、態々そんな大仰な事をして貰う程の身分でもない。
遠慮しようとしたが、是非やらせてくださいとマーサさんに笑顔で言われたので素直に受けることにした。
マーサさんと一緒にルーリも部屋から出て行ってしまう。
特にやる事のない俺は所在無く周りを見渡した。
里長の家の応接室?ではあるが、飾り物は見当たらず。
自然と融和する事を善しとする、エルフの性格がよく出ている質素な内装だった。
「神様神様ー!この樹、すっごく美味しいですよ!」
部屋の壁の一部が巨木の幹になっており、リピはそこから樹の生命力を貪っている。
妖精が植物の生命力を糧にすると聞くと神秘的なイメージを連想するが、幹に張り付くその姿は樹から樹液を啜るセミにしか見えない。
幻滅も良い所だ。
「でも安心してください!やっぱり神様の魔力の方が美味しいですから!」
何をどう安心しろと?
魔力とはいえ自分の一部を食べられて味がいいとか言われても、何一つ嬉しくはない。
そんなくだらないやり取りを椅子――木の台に草が敷かれた物――に座りリピと続けていると、ルーリが戻ってきた。
歓迎の準備が出来たらしいので、彼女に案内されて下に連れて行かれる。
里長の家の前はちょっとした広場になっていて、そこにエルフ達がずらりと輪を作って並んでいる。総勢五-六十名程度といった所だろうか。パッと見た感じ、全員その顔立ちは整っており美男美女揃いだった。
「ようこそ御出で下さいました!」
俺は上座?と言えばいいのだろうか。
果物や肉がどっさりと置かれた席に案内され、酒の入ったコップを手渡される。
両サイドには際どいビキニ姿の美女2人が座り、思わず視線が泳いでしまう。
「それでは、神様の御訪問に乾杯!」
辺りから乾杯と、それに続く様にようこそ神様の声が響き渡った。
俺はそれを聞いて頬を引きつらせる。
「私達は思うのです。貴方様こそ神の遣わした御使いであると」
どうやら俺の眼差しに気づき、マーサさんが語り出す。
俺は神様みたいな大仰な呼び方を止めて欲しいのだ。
理由とか正直どうでもいいから。
「我らの森がおかしくなり、そこに世界樹が現れた。正にこれは神の御意志としか言いようがありません!」
まあやばい時に目の前に救いの手が差し伸ばされたら、その幸運を神様がくれた物と勘違いしてしまってもおかしくはないのかもしれない。
しかもそれに神の力が関わっているとなれば猶更だ。
だが俺が霊樹を成長させたのは、別に神様に命じられてやった訳ではなく本当にただの偶然でしかない。その辺りもちゃんとルーリには説明していたし、ルーリもマーサさんに説明しているのだが……
「我らにとって神の御使いは神も同然!よって勇人様は、我らにとって神様となるわけです!」
妖精と同じような事を言ってやがる。
ちらりとルーリの方を見ると、ニコニコ笑顔で此方を見ていた。
考えたくはなかったが、やはりエルフも妖精同様言葉の通じない奴らだったらしい。
「ご安心ください!邪な者は決して神様に近寄らせません!神様は我らエルフが全力を挙げてお守りいたします!」
守る気があるなら秘匿する方向で守れよ。
「良かったですね!神様!」
リピが俺の肩をポンポンと叩き、親指を立ててウィンクする。
自らのまいた種とはいえ、とんでもない連中に関わってしまった事に俺は大きく溜息を吐いた。
無駄に目立って暗殺でもされたら、お前らの前に化けて出て来てやるからな。
覚えてろよ。




