きっと青色の世界。
―ー現実世界―ー
目が覚めた時、初めて視界に入ったもの、それは大きな隈を作ったあの人の、歪んだ笑顔だった。
「やあ、おはよう。喜びたまえ、私に膝枕をしてもらった人間なんて、過去未来を通して、君だけよ?」
何言ってんだこいつとおもうのだけど、そういえば後頭部が何やら柔らかい。
ハッとなって俺は身を起こす。あたりを見渡すと、ぼろぼろの畳と何の家具もない6畳の部屋。いつもの、俺の部屋だった。
どうやら、ここは現実らしい。
俺は、無意識に流れる冷や汗をふき取っていた。
ぬぐう腕の震えはまだ止まっていない。
「ハハハ、どうせなら、もう少し堪能していけばよかったのに。」
思う、あの世界は・・・果たして現実だったのか、俺があの生物を攻撃したのは・・・果たして現実だったのかと・・・。
俺は、その人、もとい白衣をまとった人を見た。
「おやおや、感謝されるどころか、睨みつけられるとはね・・・、まったく、世も末だよ。」
睨みつけたつもりはないのだけど、今はそんなことはどうでもいい・・・
「・・・・。」
一拍
「あれは・・・何だったんですか?」
「あれとは?」
目を細める。
「あのファンタジーの世界・・・・・です。」
今でも鮮明に思い出せる。夢で語ってしまうには・・・あまりにもリアルすぎるあの光景。今でも棒を振り下ろした時の感触が残っていて・・・・。
「そうか・・・つまり君は、あの世界に行くことに・・・成功したのか。」
そいつは、ぽつりと呟いた。
ふぅと・・・俺は息を吐いた。
・・・そいつの言葉は、何一つ答えにはなっていない。
「もう一度聞きます、あれはいったい・・・?」
そいつは面白そうににやにやと笑いながら、
「だから言ったろ、新しい世界さ!」
ふざけるなと俺は心中つぶやくのだけれど、その人のにやにやは強まるばかりだ。
「君はあれかな?買ったばかりのゲームなのに、すぐに攻略本を買ってしまうたちなのかい?」
「?」
「ゲームってのは、だんだんと真相に近づいていくから楽しいんじゃないか。」
察する・・・・、きっとこの人は、何も答えてはくれないのだろう。
「ゲームを続けていれば、嫌でもあの世界が何なのか、君は知ることができるさ。」
だから・・・
「もうあの世界にはいかないと言ったら?」
「無理だよ。」
「どうして?」
「だって君は、寝るたびにあちらの世界に飛ばされてしまうからさ。」
「・・・。」
「言ったろ?・・・もう、逃げられないって――」
――なんだよ・・・それ――
勝手に知らぬ世界に連れていかれて、俺にはなにも選ぶ権利もない・・・
そんなのただの奴隷だ。
「違うね、君はただのモルモットさ・・・」
俺は、その人を見る。俺の思考を読んだかのような言葉は、頭を真っ白にするには十分だった。
何かを言う前に、胸ぐらをつかんでいた。数年ぶりに頭に血が上っていた。
でも、そいつはそれすら楽しそうに、俺が次にどんな行動に出るのか興味津々とばかりにこちらを凝視している。
「どうした・・・殴らないのかい?」
殴ろうとしていた・・・はずだった。
俺の脳裏に一瞬、あの時のゴブリンの顔がよぎる。
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
俺はそいつの胸ぐらを乱暴に離すのだけど、それすらも面白そうにその人はにやにやと眺めていた。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私の名前は間宮優。元科学者さ。ああ、君の自己紹介は別にいいよ、もう全て知っているからね。」
はなから言うつもりはないと心中呟く。
諦めたように、畳の上にへたりと座った。
「あの世界で、一体俺は何をすればいいんですか?」
諦めたふうにに呟くと、
「そりゃゲームだからね、クリアするのが妥当なんじゃないかい?」
「・・・。」
むごんでいると、今度はふっと笑って、
「君の好きにすればいいさ。世界には、はなから答えなんて存在しないのだから。」
なんじゃそりゃ。
「それにしても、」
そいつは呟く。
「殺風景な部屋だね。私がデコレーションしてあげようか?」
「・・・しないでください。」
「強情だなぁ。」
そいつは、くすくすと笑った。俺には何がそんなに面白いのか、まったくもって分からない。
「さて、そろそろお暇しようか。」
そいつ、もとい間宮さんはスッと立ち上がって出口へと向かう。すると、コンビニの時みたく、ふと途中で止まって、
「君は、あの世界でどうすればいいかと聞いたね。」
「・・・・。」
「できれば・・・独りぼっちの女の子を・・・救ってはくれないかい?」
ゴブリンをかばった少女、あの子は・・・青い髪をしていた。
そういうと、今度こそ俺の部屋を出ていった。
俺はしばらく、出ていったドアを呆然と眺めていた。