きっと緑色の髪の毛
―現実世界―
「いやぁ、現代社会において、スマホを持っていない人間というものを、ボクは初めて見たよ。」
手に持っているスマホから、少女の声が聞こえる。
「別に、生きていけますから。」
「ふぅん、・・・まあ、そんなものなのかもね。」
朝、宅配が届いたかと思うと、そこには一台のスマホが同封されていた。
―かと思うと、―
そこからは、突然子供の声が聞こえてきたのだった。
「スマホ代は、ボクの方が持つから、安心して使ってくれたまえ。」
別に要らないのだけどと思うのだけど、結局そんな言葉は出てこない。
「それで、君の体の手がかりを探すって言っていましたけど…。」
スマホから、声が返ってくる。
「ああ、そうなんだよ。ボクの掴んだ情報だと、この先の喫茶店に、その手掛かりがあるはずなんだけど・・・」
と、その前に…
「なぁ、その敬語…どうにか、なんないのかい?」
「ボク達はねぇ、敬語で話すような間柄じゃあないと思うんだよ。もっと気楽に接してもらえないかなぁ?」
じゃあ、俺たちの関係は、一体何なんだと思うのだが、いちいち口に出したりしない。
ただ、このフレンドリィすぎるやり取りがどこかあの白衣の人を思い出させて、
「善処します。」
言葉少なに、そう言わせた。
「キミも強情だなぁ。」
やはりどことなく子供のような声が、スマホ越しに聞こえてくる。
そうしているうちに…
たどり着いたのは、“クロの店”と書かれた俺の行きつけの喫茶店だった。
「・・・ここ?」
「ああ……、」、
コアは、そこで一区切り切って、
「この中で働いている人物が、その手掛かりを知っているはずだ。」
俺は、ドアを開いた。
―カランコロンッ―
「いらっしゃいませー。」
いつものように、どこかエルフを彷彿させる店員さんの声が聞こえてきて、俺たちは席へと案内されるのだけど、コアの指示で、俺は別の席へと向かっていた。
そこには、テーブルにぐでーッとうつ伏せになっている銀髪ツインテールの女の子がいた。
俺たちの存在に気づくと、少女がゆっくりと体を起こす。
「・・・・誰?」
眠たそうな声で、眠たそうな眼をした女の子が、寝ぼけたようなセリフを吐く。
「AD4121という機械を、ボクたちは、探しているんだけど、君は何かをしているんだろ?」
きっと、いきなり言われたら、何のことかチンプンカンプンなことを言ったはずなのに、その少女は、その言葉を聞いた瞬間、妖しく目を細めた。
「・・・・それは、この世界では・・・・オーパーツ・・・・君たちの・・・・知るべきものでは・・・・ない。」
スマホから、返答の声。
「君の言い草だと、そのオーパーツは、実在するもののように、聞こえるのだけど?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・しまった。」
ハッとしたように、悪魔は呟く。
「どうしよう・・・・クロ?」
気付くと、いつの間にか、この店の店員であるところのメイドさんが、その場に立っている。
キレイなサラサラとした緑色のストレートヘアー。非現実的なほどにきれいな肌。
右目の下には、結と彫られたタトゥー。
まるで、漫画の中の登場人物みたいなそのメイドが口を開く。
「桜田修二様と、コア様ですね。マスターから、お二人のことは、お伺いしております。」
メイドさんは、ニコニコと笑いながら、そう言う。
「マスター?それは、誰のことだい?」
「お答えできません。ただ、コア様がそのようなものを探しているという事実は、存じ上げております。」
「ふ~ん。」
どことなく面白くなさそうに、コアがそう言う。
「お二人に、その者のありかをお伝えすることはできます。ただ、恐らくそこにあるのは、あなたたちの望むではありません。」
「まるで君は、ボクたちのことを何でも知っているかのように言うね?」
「・・・・。」
メイドさんは、ニコニコと笑ったまま、沈黙した。
ふぅとスマホからため息が漏れたかと思うと、
「ボクは、たとえ無駄話になったとしても、それを確かめずにはいられない・・・・。」
その声は、切実だった。
「お願いだ、ボクにそのもののありかを教えていただけないかい?」
メイドは、ジッと声の聞こえるスマホを見つめている。
それは、何かを見定めているかのように見えた。
―そして、―
「かしこまりました。貴方の望んでいる体は、現在、とある組織が有しています。」
「組織?」
「はい。それもただの組織ではなく。いわゆる犯罪組織が所有しています。」
「どうして、そんな組織が・・・。」
「詳細は分かりませんが、どうやら、どこかの研究組織に、高額で売りつけようとしているようですね。」
「・・・・。」