きっと水色の感情。
この世界は・・・残酷だ。
あるのは、仲間の死だけ。
他には・・・・・何も・・・存在しない・・・・
・・・・・そう・・・・思っていた・・・・。
・・・・君に・・・・・出会うまでは・・・・。
そして私は・・・・
恋に落ちることになる。
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―ー画面の中―ー
眠りについたその夜、少年が認識できたもの、それはやはり
――始める――
――リセット――
この二つの概念だけでした。
少年は今日も始めるの選択肢を選びます。
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そこにあったのは、ゴ
ブ
リ
ンの死
体
でした。
それも、一体ではありません・・・。
その死体の数メートル先にはゴブリンの死体があって、さらにその先にも死体がある。
そんな死体の道が・・・無垢な青空の下で草原の上に広がっていたのです。
「・・・・。」
死体の道は、森の方へと続いています。
その光景は、少年の過去にあったとある出来事を思い出させます。
―廊下―
「・・・。」
―階段―
「・・・。」
―教室―
「・・・。」
―トイレ―
至る所に散らばっていた学友の死体。
日本刀で切られた刀傷の残る死体。
あの日も確か・・・今日のような・・・無垢な青空が広がっていました。
少年は、ゆっくりと歩みを進めます。
心臓が・・・ゆっくり・・・と・・・否・・・早鐘を打っています。
少年は、その道の先の結果は・・・知りたくはありませんでした。
―あの日―
その道の先にいたのは・・・
血の涙を流していた・・・
あの人。
おぞましいほどの吐き気が少年を襲います。
ゴブリンたちの死体が一体ずつ、光の粒子となって消えていきます。
それはつまり、ゴブリンたちは、ほんのわずか前に事が起きたのだという事実を示しているように思えました。
「・・・。」
普通であるならば、駆け足で現場に駆け付けるべきところ・・・
少年の足は・・・なかなか前へとは進みません。
「・・・。」
もしかすると、あの青髪の少女もまた・・・ゴブリンと同じ状態になっているかもしれません・・・
「・・・。」
ただ、少年の頭の中にあったのは、青髪の少女ではなく・・・黒髪の先輩。
―壊れてしまった・・・少年が恋焦がれてた人―
黒髪の先輩は、少年に助けを求めているように思えました。
でも、
少年は、彼女を・・・救ってあげることはできませんでした・・・。
あの日、少年は・・・見ていることしか・・・できなかった。
(先輩・・・。)
思い出す・・・あの血を涙を流しながら・・・
壊れ切ってしまった・・・あの日の彼女の表情。
―私が壊れる時が来たら・・・・君が私を殺してくれる?―
叶えることのできなかった・・・あの人の願い事。
―気づくと―
少年は、駆け出していました。
―まるで―
あの日の約束事を・・・いまさら・・・かなえようとしているみたいに・・・
少年は・・・無我夢中で・・・走っていました。
森の中にも・・・ゴブリンの死体が・・・転がっています。
何体も・・・何体もの死体を超えたその先・・・
そこには・・・
怒りに目を真っ赤に染めた・・・
青髪の少女。
彼女は・・・
生き残りのゴブリンたちをかばうように彼らを抱きとめています。
そして、
その怒りの視線の先には、
一人の冒険者。
彼は、無慈悲に・・・・・・・剣を持ち上げた・・・・。
―それはつまり―
友
達
に
な
ろ
う
と
い
っ
て
笑
い
か
け
て
き
た
少
女
を
失
お
う
と
し
て
い
る
・
・
・
・
と
い
う
こ
と
。
だから・・・・
それは無意識の内でした。
少年は、とっさに手を伸ばして・・・
そして・・・・
「うがぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」
切られると思っていた少女は驚いて目を見開きます。
ゴブリンをかばおうとしていた彼女は、既に死を覚悟していた・・・ですが、
目に飛び込んできたのは、醜悪に顔を歪めた冒険者と、きらめく剣。
そして、それを自らの腕の犠牲と共に食い止めた・・・一人の少年。
「な・・・んで・・・?」
冒険者の振り落とした剣は、少年の腕の7割以上のところに食い込んでいて、少年の左手は、大量の血と共に、関節の動きを無視して、だらりと垂れ下がっておりました。
「いやっ!!!そんなの・・・・」
少女は、悲痛に叫びます。そして、そんな少女に舌たる血の赤。
それは、少女をかばって左手を失った・・・・少年の左手の血。
「ぐっ・・・ぐあぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
少年は、少女をかばうように冒険者の前に立つと、己に再度刃が突き立てられることも考えず、冒険者に捨て身のタックル!
案の定、少年の腹に深々と剣が・・・・突き刺さります。
「いっいでぇぇぇぇえ」
よろけた冒険者を押し倒して、その上にマウントを取ります。
「おワいだぁぁあああああああああああああああああ!!!」
少年は冒険者の懐から、ナイフを抜き取ると、
そのまま、冒険者の頭に・・・・
――ぐちゃり――
深々と突き刺さったそれは、まぎれもない致命傷。
憎悪に歪んだ冒険者が光の粒子となって消えていきます。
そして、少女の方を向き直る少年。
血に染まったその顔は、
君が無事でよかったとでもいうように・・・
優しい感情をともしていました・・・。
そして・・・
―ドサリッ―
少年は、あおむけになって倒れました。
痛みがありますが、もう少年は、何も言葉を発しようとはしません。弱弱しい呼吸と、焦点を結ばぬ瞳だけ。
「イヤッ・・・・イヤだ・・・。」
そんな少年の額に落ちる・・・大粒の涙。
「嫌だ・・・・死んでしまうなんて…イヤダっ」
少年に覆いかぶさるように、必死にその大きすぎる傷口に自らの手を当てます。
自らの死を受け入れていた少女はしかし、その男の子の死を受け入れることはできなったようです。
「ぉねがひ・・・しぁなあいで・・・・」
しかし、大きすぎる傷口に自らの手を当てたって・・・応急処置ににも何にもなりません。
少年の意識は、必死に手当てをする女の子を見ながら・・・だんだんと白色に染まっていきました。
―・・・・・・・・どおして俺は・・・・・・・?―
意識を失う間際・・・少年の頭には、そんな疑問が、浮かんでおりました。
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意識を失った少年の思考に映ったのは・・・
やはり、あの女性。
常に一人でいた・・・孤独な女性。
夕暮れ時、二人で過ごした時間が、おぼろげながら、少年の脳裏に映ります。
あの時・・・・そう、あの時だけが、
少年にとって・・・
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―数刻後―
少年は生きておりました。
目を覚ました少年に飛び込んできたものは、気を失う前同様大粒の涙を流して少年を見つめている青髪の少女でした。
「よがっだ・・・。」
喪服のような黒いワンピースを着た、どこか浮世離れした印象を与える少女ですが、両目に涙をいっぱい貯めたその表情は・・・ただの一人の女の子。
少年が眠っている間、少女は、ずっと少年の手を握り続けておりました。
「いぎでいて・・・・本当に・・・良かった・・・。」
次の瞬間には、何もかも忘れて少年を抱きしめています。
「良かった・・・・・本当に良かった・・・・。」
大きな樹の下、簡素な木箱の上に作られたベッドの上で眠っていた少年は、ぼんやりと思いだします。
この世界で目が覚めた瞬間、青髪の少女が殺されそうになっていて・・・だから・・・
(俺・・・生きているんだ。)
そして、目の前には両腕を広げて自分を抱きしめる女の子。
死にそうになっていたことよりも、その子の甘い匂いと、女性の肌は柔らかいんだなぁなんて、どうでもよいことを、少年は頭の片隅で思います。
初めて、少年は目の前のその子が・・・一人の女の子なんだと・・・認識させられたのでした。三年前、彼のとのなりにいた女生徒とは違う香りをまとった青髪の少女。
ただ、あの慌てっぷりからして、恐らく彼を助けたのは、別の誰か。
―と、―
視界の隅に、包帯をわっせと運ぶゴブリン達の姿。
(そっか・・・俺は、彼らに助けられたんだな・・・)
「ありがと。」
ゴブリンは、きょとんとした顔で、しばし少年を見つめておりましたが、わっせと作業を再開しました。
気付くと、また二人きり。
少年は、泣き止まない女の子の頭を撫でようとして・・・・そして気づきます。
(左腕が・・・・ない・・・。)
ぼぉっと、なくなってしまった肘から先を見ます。
彼の腕は、肘から先が完全に消失しておりました。
だから、
左手の代わりに、右手で少女の頭を撫でたのでした。
少女が泣き止むまで、その頭をなで続けていたのでした。
-to be continued-