無能の烙印
特定の才能を持つことを前提として求められる家系に生まれながらその才能を持ち合わせなかったことは、自らの人生を歪める原因の一つであっただろう。
周囲に居る才を持つ者にはその苦しみが理解できず、才の無い自分はその事実を受け入れられるだけの余裕を持つことが出来ない。
互いの常識が噛み合わないという現実は相互理解を阻む壁となって立ちはだかり、それによって交流の切っ掛けを失った両者はお互いの価値観をぶつけ合い、傷付け合うしかなくなってしまう。
理解に至れない理屈の押し付けとは、言葉の暴力に等しいのだから。
立ち向かうには圧倒的な物量差がある中で、対立を回避するための手段とは大きく分けて二通りしかなく、一つはすなわち己の心を曲げてでも相手の常識に従うことだ。
すなわち、それが出来ない者であるならばもう一つの道を選ぶしかない。
距離を置き、関わらないこと。
逃避と受け止められても仕方の無い選択肢を、自ら道を違える意味合いも内包する道を、自ら率先して選ぶ男がいた。
「行くのか」
「はい。能力を持たない俺がここに居続けた所で、何を得ることも、何を成すことも出来ないと判断しました」
「お前の苦悩を分かってやれない側であることを差し置いてでも言わせてくれ。他所に宛もなく飛び出すことを黙認する訳にはいかない」
「気遣いは感謝します。しかしこの場に留まって何者にもなれずに潰れて終わるくらいなら、いっそ環境を変えて新たな可能性を模索する道に賭けてみたいのです」
「そこに希望を見出だすための選択だと、そう言うんだな」
「後ろ指を差されようと俺は俺の道を、まっすぐ前を見て進みます。逃げるように見えるなら、それは単に進む方向が違うだけです」
「ならば私との道はもう交わることはないという事か」
「それは分かりません。俺に言えるのは、俺自身が進まない限り俺の道が生まれることはないという事実だけです」
「ならば誓え。お前の選んだ道のその先で、未来という結果を掴んでみせることを」
「誓いますよ。これが俺の道なんだって、そうはっきりと言えるようになる日が来ることを」




