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第99話 最強

 学校に戻った後、残り半月の冬休みを利用して、僕は一旦故郷の町に帰省した。いじめっ子たちの現在の所在を探るためだ。いじめっ子たちも中学卒業後は、それぞれ別の学校に進学していたが、冬休みは帰省しているため、だいたいの動向は掴めた。魔法の素質が低い者は地元の学校に通い、魔法の素質がやや高いものは北地方の一番大きな町のノースリタシティの魔法学校に在席しているようだ。その他の進路を選んだ者や、現在の動向が掴めないやつも若干名いたが、別に問題ない。今どこでなにをしているかわからないやつでもレベル100になったら殺せるのだから。


 レベル80になるのは、今までの僕のペースでいくと三年生の夏ぐらいだろう。18歳になるかならないかぐらいだ。人を何人殺せばレベルが上がるのかはわからないから、レベル100になるのはいつかわからないけれど。

 レベル80になったら、死刑囚を二人殺して、それからスーをいじめていた三人組のいじめっ子を殺そうと計画を立てていた。それから故郷でいじめっ子たちを殺すつもりだった。

 ところが、である。

「あのさ、キルル、もう僕をいじめたやつは、殺さなくていいから」

 故郷から王都に戻ってきて、スーの部屋で遊んでいたある日、スーが殺人依頼を取り下げてきたのだ。


「なんで?」

「キルルに殺人の依頼するのが辛いんだよ。それに、今は僕は僕で楽しく過ごしてるから、もうあいつらのことはいいよ。嫌いなのは変わりないけど、殺してくれなくていい」

「僕に殺人を依頼するのが辛いって、どういうこと? 死刑の執行はもう引き受けてるし、どのみち人は殺すから気にしなくていいのに」

 スーが僕を見つめる目は暗かった。

「キルルとは、もう二年の付き合いがあるんだよ。大事な友達なんだよ。『もう人を殺してくれ』なんて頼めないよ。例えレベル上げに繋がるとしても言えないよ」

 正直言うと、スーの言い分は僕には理解できなかった。だけど、殺さないでと言われたのを殺すわけにもいかない。

「あと、キルル、お願いがあるんだ」

「なに?」

「アレンを、殺さないでやって。お願い。アレンが『殺してくれ』と言ったとしても殺さないで。キルルもアレンも大事な友達なんだよ! 『友達が友達を殺す』なんて、そんなの耐えられないよ!」

 スーはぼろぼろ泣いていた。

「殺人依頼を取り下げたのはこのこともあるんだ。『いじめっ子は殺して欲しいけどアレンは殺さないで欲しい』という都合のいいことを言いたくなくて」

「そうか、わかったよ」

 僕はそう返事をした。

「スー、アレンは今王都にいる?」

「アレンは、里帰り中だけど、もうすぐ冬休み終わるし、近いうちに帰ってくると思うよ」


 この会話をした翌日にアレンは王都に帰って来ていた。僕はアレン二人で話したいことがあったので、寮のアレンの部屋を訪ねた。アレンの部屋は簡素で、味気なかった。

「キルルさん、こんにちは。僕の部屋まで来て話なんて、何の用でしょうか」

「アレン、君、まだ死にたい?」

「はい」

 アレンは淡々と答えた。あの飛び降りから一年経っても気持ちは変わらないようだ。僕は前々から考えていたことをアレンに話すことにした。

「アレン、君に頼みがあるんだ。半年後ぐらいに、昔僕をいじめてたクラスメイト全員殺す予定なんだけど、その時に一緒に来てくれない?」

「僕がですか? またどうして?」

「『即死魔法』は失敗すると僕が死ぬ可能性があるんだ。低い確率だけど。だから、失敗したときに、『蘇生魔道士』に連絡を入れてくれる人が必要なんだよ。その役を君に頼みたくて」

「なるほど」

「それと、このときに僕についてきたら、僕に殺される人間を目の当たりにするわけで、それを見ても死にたい気持ちが変わらなかったら、君を殺そうと思う」

 僕の言葉を聞いて、アレンは珍しく歯を見せて笑った。

「キルルさん、やっぱりあなた悪魔ですね。いろいろ理由つけてるけど、殺人の目撃者を始末したいだけでしょう」

「君ねえ。せっかく殺すって言ってるのに、なんでいつも憎まれ口叩くの」

「思ったことを言っているだけですが? キルルさんが僕を殺しやすいように嫌われるような発言を意図的にしてる部分もありますけど」

「そうだったの? じゃあ本当のところはどう思ってるの?」

「……キルルさん、あなたは僕の憧れです」

「え?」

「間違いなく、最強の魔道士ですよ。その悪魔のような、殺すことへの抵抗のない心も含めて。僕はその強さが欲しかったです。誰がなんと言おうと、キルルさんは素晴らしい魔道士ですよ。僕は好きです。あなたのこと。殺される前に、言っておきます。覚えておいてください。将来はキルルさんは強すぎて恐れられるでしょうし、こんなこと言う人、あまりいなくなると思うんで」

 最強の魔道士……そう言ってもらえて嬉しかった。アレンはやっぱり僕に似ている。

 僕も、強い魔法が欲しかった。「即死魔法」は恐ろしい魔法だ。だけど、魔法が使えないよりずっといい。僕はこれで、即死魔道士でいい。この先に何があっても、それだけは変わらない自信があった。強さに憧れる気持ちに、理由なんてないのだ。









 

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