第95話 悲しい知らせ
二年生後期も終わりに差し掛かり、またテストの時期がやってきた。僕は今回もリリイの数学のテスト勉強に付き合っていた。僕は相変わらず白い姿のままだった。
「キルルとリリイって結構雰囲気似てるよね。キルルが白いと余計に」
僕とリリイがロビーで勉強している姿を見て、トイが言った。
「そうかな? 似てる?」
僕が聞き返すと、
「うん。こうやって見ると、二人とも『蘇生魔道士』に見えるよ」
僕とリリイはなんとなく目を見合わせた。僕とリリイは対の魔道士だから、やはり近いものがあるのかもしれない。
リリイは病的に白いし、「死」を連想させる雰囲気は持っている。普段の僕のように黒ずくめにしたら『即死魔道士』にも見えるだろう。
僕がこんなこと考えたからだろうか。リリイが黒ずくめになる機会が、悲しいことにすぐにやってきてしまった。
「リリイさん、いますか」
テストが終わり、冬休みに差し掛かろうとしたある日、校長先生がロビーに飛び込んできた。ピエロ姿じゃなくて素顔だった。髪と目は相変わらずリリイと同じだったが、着ているコートは真っ黒だった。普段と違う校長先生の姿に驚いているみんなに構うことなく、校長先生はリリイのところにやってきた。
「リリイさん、話があります。こちらへ」
校長先生はリリイをロビーの外に連れ出した。
校長先生の表情が見たことないぐらい暗くて、すごく嫌な予感がした僕は、ロビーの入口付近まで行き、校長先生とリリイの様子を伺った。
「そんな……お母様が……」
リリイの後ろ姿しか見えなかったが、リリイは明らかに動揺していた。
「リリイ! どうしたの」
僕は思わずロビーを飛び出し、リリイのそばに寄った。リリイが泣いている。
「キルル……お母様が……」
言葉が途切れたリリイの代わりに、校長先生
が言った。
「キルルくん、リザが……リリイさんのお母様が、亡くなりました」
「えっ……」
リリイのお母さんが……?
「この間あった時、元気そうでしたけど……?」
まだあれから一ヶ月も経っていない。まさか、こんなことになるなんて。
「それが、そうでもないんですよ。この間先生を訪ねて来たとき、もう長くないとリザ自身が言っていました。想像以上に早く亡くなって私も驚いていますが……」
「そんな、お母様がそんなこと?」
リリイも驚いていた。リリイのお母さんの不可解な学校訪問はそういうことだったのか。
「なにか病気だったんですか?」
僕が尋ねた。
「詳しくは先生もわかりません。病名とかは言わず、ただ、『もう長くない』の一点張りで。『蘇生魔道士』が亡くなるときは、『蘇生魔法』が効かないときなので、寿命としか言いようがありません。リリイさんには言わないよう頼まれたので、黙っていました。すみません」
寿命って、寿命で亡くなるには、リリイのお母さんは若すぎる気がする。
「リリイさんは、今すぐ故郷に帰ってください。お母様を見送ってあげてください」
リリイはまだ放心状態だったが、なんとか頷いた。
「リリイさん、先生も、お母様に会いに行っていいですか」
校長先生が言うと、リリイは頷いた。元恋人だし、同窓生だから、校長先生もそうとう辛いのだろう。声がかすれていた。
「リリイ、大丈夫? 支度できる?」
「キルルくんも、一緒に来てくれますか? 今のリリイさんには、キルルくんが側にいたほうがいいかと」
校長先生が言った。
「僕は、構いません。リリイ、僕も一緒に行っていい?」
「ええ」
リリイは弱々しく返事をすると、自室に戻って、荷物を取りに行った。冬休みの帰省を控えていたから、支度に時間はかからないだろう。
僕も荷物を取りに行こうと部屋に戻ろうとすると、校長先生が僕の手を引いた。何事かとおもったが、僕にかけてある染色魔法を解除したようだ。僕は、悲しい理由で白ずくめから黒ずくめに戻ることになった。
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