第94話 真夜中の遭遇
僕の頭の中ってそんなに変かな。殺したいやつが20人以上いるっておかしいのかな。犬や猫はどうして殺しちゃいけないのかわからないのって僕だけかな。
僕は、即死魔法が大好きだ。ずっといじめられてきて無力感でいっぱいだった僕にとって、即死魔法ははじめて得た力であり希望だった。
僕の即死魔法の素質が、僕の感覚を狂わせていたとしても、僕は即死魔法を嫌いになんてなれない。
僕は、部屋で読んでいた本を閉じた。学生の主人公が、王都で起きた殺人事件の真相を追うミステリー小説だった。小説に出てきた殺人犯は、主人公にとって、理解不能な人物だったようで、ただひたすら心のない悪魔のように描写されていた。
小説なんて、どれもそんな感じだった。小説の主人公達は、殺人犯の心の中を理解できないまま進んでいく。主人公達にとって、ただ恐ろしく、憎むべき存在として殺人犯は存在している。
僕の人生の主人公は当然だけど僕だ。主人公の僕が、殺人をする場合、どんな心がまえで生きていけばいいかを、小説は教えてくれなかった。
自分が、「周りにとって理解不能の存在」かもしれない。「得体のしれない悪魔」ってもしかしたら自分かもしれない。そんな事態になったとき、どうすればいいのかなんて、誰も教えてくれないのだ。
僕は、孤独になるかもしれないという不安と同時に、すでに孤独を感じていた。僕には今のところ、クラスメイトやスーやアレンがそばにいる。仲良くしてくれている。まだ孤立はしていなかった。だけど、同じ考えの人間はそばにいない。それだけでもう孤独を感じる。
僕は、寮の部屋を出て、王都の街中に出た。
もう真夜中だった。まだ染色魔法は解けていなくて、白い姿のまま夜の王都を徘徊した。
真夜中でも、王都の街道は街灯に照らされ、十分に明るかった。ぼんやり歩いていた僕の腕を、誰かが掴んだ。
びっくりして振り向くと、女の子が立っていた。僕の服の袖を掴んで、こちらを見ている。
その女の子の目は、くり抜かれたように真っ暗だった。ぎょっとしたが、よく見ると、目の部分はくり抜かれているのではなく、白目の部分がない、真っ黒な眼球であることに気がついた。その女の子の口から、小指並に細い舌が出てきた。その舌の先は二つに別れ、蛇のようだった。その舌を見て、僕はようやくその女の子が人間ではないことに気がついた。人型モンスターだ。
そのモンスターはリリイ並に色が白く、髪もきちんとリボンで二つに結っていて、フリルの服も着ていた。ただもう秋なのに半袖で少し寒そうではあった。
目さえつむればリリイそっくりのかわいい子かもしれないと、僕はそのモンスターを見つめた。真っ黒な眼球と目を合わせたとき、そのモンスターは嬉しそうに笑った。
「おい! 何をしている!」
当然男の怒鳴り声が聞こえて、女の子のモンスターの顔が燃え上がった。火魔法だ。モンスターは苦しそうに呻きながら顔の炎をはらいつつ、地面に崩れ落ちた。男がモンスターの近くにやってきた。モンスターに火を放ったのはこの男だろう。
「うちのが邪魔して悪いね。ほら、帰るぞ」
男は僕にそう言ったあと、女の子のモンスターの腕を強引に持ち上げ起こした。モンスターの顔は半分焼けたままだ。
「あの、この子は……」
「ああ、俺のペットだ。脱走してしまってな。迷惑かけてすまない」
そのモンスターはよく見ると首輪をつけていた。男はその首輪に紐をつけ、かなり強引にそのモンスターを引っ張ってその場を去っていった。
男はモンスターをペットと言ったけど、多分恋人も兼ねているんだと察した。扱いが乱暴で少し可哀想に感じた。
男とそのモンスターの後ろ姿を見つめていると、モンスターが振り向いた。片方の目は焼けてしまって、一つだけ残った目で僕を見つめていた。その目はとても、悲しげだった。
僕はなぜか、クロを思い出した。去年のちょうど今ごろ拾った僕のペット。あの女の子のモンスターは、肌は白いのに、なぜかクロに重なって見えた。
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