第88話 もう少し……
リリイに告白しようと考えたものの、そんなにすぐに行動に移せるわけなくて、それができるならとっくに告白しているわけで……結局彼女持ちのスーに相談に行った。
「おー! とうとうリリイちゃんに告白するんだ?」
スーは楽しそうに反応した。面白がっているというより、心底応援してくれているような感じだ。
「スー、彼女いるよね? 何をどうしたら付き合えるの?」
「どうって、付き合ってって言ってきたの向こうだしなあ」
「そうなんだ!?」
「うん、だけど中学のときの彼女は自分から告白したよ」
その言葉があまりに衝撃的だった。
「『中学の彼女』ってなに!?」
「いや、そこにびっくりするの?」
スーはきょとんとしていた。中学の時に彼女がいたことなんてスーにとってはとるに足らないことなんだろう。だけど僕にとってはそうじゃない。
「びっくりするよ! 僕、中学は男子しかいなかったし、好きな女の子すらいなかったよ!」
「そうだったの。じゃあリリイちゃんが初恋なのかあ」
スーはにんまりしながら僕を見つめる。
「なにさ、なんだか大人ぶっちゃって。どうせ僕は何も知らないよ」
「そんなに拗ねなくても。別に彼女がいりゃ大人ってわけじゃないしさ」
それって、「彼女がいるやつの余裕」からくる発言でしかないと思った。拗ねなくてもと言われても、ちょっと拗ねてしまう。
「だけど、キルルのそういう顔を見ていると、少し安心するよ」
そんな台詞、前トイにも言われたことがあったなあ。
「それで、『中学の彼女』には、どうやって告白したの?」
「ああ、もともと気があって、二人でどっか遊びに行ったりしてたし、仲良かったからね。告白しても大丈夫かなって」
「僕も、リリイと二人で遊びに行くぐらいなら、一応できるけど……告白しても大丈夫なのかは、正直わからないや……」
リリイって、僕のことどう思ってるんだろう?さっぱりわからない。嫌われてはいないだろうけど、正直それしかわからない。
「ていうかさ、キルルとリリイちゃんも、学校の寮の一人部屋なんでしょ? その気になればいつでも部屋に行き来できるなんて、恋愛し放題じゃん。環境的に言えば余裕じゃない?」
「え? いや、リリイにあの剥製だらけの部屋は見せられないというか……」
僕は部屋を二分割していて、片方が剥製部屋で、もう一つが、来客用で、その来客用にはリリイが来たことがあると伝えた。
「そこまで仲良くてなんで告白しないのさ!……と言いたいところだけど、結局、そこだよね」
「そこって?」
「キルルは、リリイちゃんに、自分のこと、見せられないでしょ。だからだよ」
「え……」
「告白して、リリイちゃんがオッケーしてくれたところで、キルルは自分を見せられないから、続くかどうか、難しいよ。キルルも本当はそこをわかってるから、告白しないんだよ」
言葉が出なかった。本当にその通りだった。剥製に囲まれたベッドで眠りにつくとき、リリイが横にいたらな、と思うことはある。けれど、その思いは剥製と目が合うなりかき消えていくのを感じていた。
「……キルルがもう少し、悪いやつだったらなあ……」
スーが呟いた言葉の意味がわからなくて、僕は首をかしげた。
「キルルが、もう少し悪いやつだったら、リリイちゃんの目を完全に欺いて、上手いこと付き合えるんだろうね。キルルって、そこまで悪くないのが、辛いところだね」
スーは渋い顔で言っていた。
「アレンはどう? キルルの所に来たりしてる?」
スーは急に話を変えた。これ以上、リリイとの恋愛の話をしても、仕方ないと感じたのかもしれない。
「いや、ここ最近、アレンは来てないよ。死ぬのは、諦めてくれたかな?」
「うーん、アレンの様子を見る限り、そんな変化は感じないけどね……」
スーはまた渋い顔をした。
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