第87話 演劇後日談
(以下、校内新聞に掲載された特殊クラスの演劇を鑑賞した生徒の感想)
「魔法がかかっているときのキャサリンが綺麗だった・水魔法クラス二年Lさん」
「魔王キルルが怖かったです・特殊クラス一年Pさん」
「魔王キルルが怖かった。演技というより素かと思った・火魔法クラス二年Tさん」
「見ていて楽しかったけどストーリーが怖かったです・特殊クラス一年Sさん」
「今思うとあのダジャレでなぜ笑ってしまったのかわからない・土魔法クラス三年Kさん」
「枯れた木々が息を吹き返す演出に感動いたしました。あれは蘇生魔法ですか?・特殊クラス一年Mさん」
いろいろな意見が出たが、全体的には好評だったようで、特殊クラスの演劇が最優秀賞を取った。賞金も出て、クラスのみんなで山分けとなった。それはいいのだが、僕に対する評判を見たときは複雑な気持ちになったのは言うまでもない。演劇のときの僕は断じて素ではない。
ただ、魔王もいじめられていた設定だったため、台詞を言うときに少し情念がこもってしまった感はあるけれど……
それと、特殊クラスの一年生は三人しかいないので、この感想文、全く匿名になっていない。そのためか特殊クラスの一年生はロビーを訪れるときしばらく怯えていた。少し可哀想ではある。
「魔王キルル、おはよう」
僕が教室に入るとみんなそう呼んでくる。
「魔王じゃないってば」
僕が少し不機嫌に言うと、ポールトーマスがフォローに入った。
「演劇の練習の名残が抜けないんだよ。ごめんごめん」
特殊クラスのみんなは「演劇の練習の名残」
だったため、魔王呼びはわりとすぐ収まった。しかし……
「あっ『魔王だ』」
「『魔王キルル』だ!」
一般教養の授業に出るため校内を移動していると、一般クラスの生徒にそう呼ばれるようになってしまった。加えて僕は、去年のバトルロワイヤルも優勝しているため、一般魔法クラスの生徒からは近寄り難い存在のようで、全く話しかけられない。
舐められるよりかはマシだけど、こう恐れられるのも少し辛い。
それに比べリリイは一般クラスの生徒から大変人気がある。リリイは火水土風草すべてレベル100になる素質があるから、すべての一般魔法の生徒を凌駕する存在だ。尊敬され、一目置かれるのは当然である。先日の演劇の女王様役も評判がよかったようで、人気に拍車がかかっていた。
しかし、リリイはというと、一般クラスの生徒に話しかけられてもやりづらそうにしている。
「リリイ、最近大変そうだね……」
ロビーでリリイに話しかけると、リリイは元気がなさそうに返事をした。
僕はリリイが人見知りだから、話しかけられるのに疲れているのだと思っていたが、そうではなかった。
「リリイに話しかけて来る人って、妬みが入っている人が多いから」
そう言ったのは、キャサリンだった。
「妬み?」
キャサリンは、こっそり教えてくれた。
「たまに、いたずら半分でリリイに似せた姿に変身して校内を歩くときがあるんだけど、リリイを妬みの目で見てるやつは多いわ。才能がありすぎるのも大変ね」
「キャサリン、リリイの姿に変身できるの!? み、見たい!」
「そこに食いつくのね。完璧にそっくりにはならないわよ。レベル100までいけばそっくりになるかもだけど……」
「今の段階でいいから見せて!」
キャサリンが呪文を唱えると、目の前にリリイに似た女の子がいた。少しリリイ本人より目つきが鋭く、雰囲気は違うが、肌の白さは同じだ。
「完璧じゃないけど、よく似てるね! すごい」
「ありがとう。ところでリリイとはどうなってるの? まだ付き合ってはいないの?」
「付き合ってなんかないよ」
「なんで? 仲良さそうなのに」
「なんでって言われても……『付き合って』なんて言えないよ」
そんなこと、いつどのタイミングで言えばいいんだろう。
「そう。だけど、リリイもそこそこ男子に人気があるわよ。他の人に取られても知らないわよ」
キャサリンは鋭い目つきのリリイの姿でそう言った。
リリイが、他の人と……想像すると、苦しい。
やっぱり、頑張って言おうかな……
好きだって……
読んでくださってありがとうございます!




