第64話 ダンジョン
遠足の日、僕たち特殊クラスの面々は、王都の南門の前に整列していた。
「今日は絶好の遠足日和ですねえ」
雲ひとつない空を見上げて校長先生が言った。ピエロの校長先生は青空の下が恐ろしく似合わないなと思った。
「全員揃ってますね。じゃあ、出発しますよ」
僕たちは校長先生に導かれ歩き出した。最初は舗装された道を歩いていた。
「道中でモンスターが現れたら皆さんで倒してくださいね。先生は手出ししません」
「はーい」
ちょこちょこ現れるモンスターをみんなが手分けして倒していく。去年の夏休みの合同帰省のようにポールトーマスが上手く指揮をとっていた。僕は一日に使える魔法の回数が限られているため、ここでは魔法は使わないように言われた。今はまだ遠足の序盤であり、目的地がわからない段階だからだ。
「王都から南に向かってるけど、この先って何があるの?」
南地方出身のリリイに聞いた。
「この先だと……近くに小さな村があるぐらいだけど……」
荷物は日帰り遠足の量でよいと言われていたし、そんなに遠くには行かないはずだ。恐ろしいモンスターが出るような森などもこのあたりにはない。だとするとどこに行くんだろう。
道から少しそれたところに、小さな小屋があった。看板から見て宿のようだ。
「皆さん、目的地はあの宿です」
と校長先生は言った。
「宿泊地が宿じゃなくて、目的地が宿……?」
ポールトーマスを始め、皆が怪訝に思った。今日は泊りがけの遠足ではないはずだけど……。
宿についた。その宿は、かなりボロい建物で、人が住んでいるとはとても思えないところだった。窓は割れていたし、建物は蔦で覆われている。
「ドアが開きませんね」
ドアも蔦に覆われ、開きそうにない。
「先生、ここ中に人いるんですか?」
トイが聞くと、校長先生は、
「いますよ」
と答えたが、このドアから宿主はどうやって出入りしているのだろうか。
「蔦、枯らしましょうか」
僕が聞くと、校長先生ではなく生徒同士で決めろと言われたので、ポールトーマスが指示した。
「キルル、頼むよ。あまり魔力使いすぎないでね」
「わかった」
僕は即死魔法を狭い範囲で発動した。ドアの周りの蔦が枯れて茶色く変色する。みんなで枯れた蔦をどかして、ようやくドアが開いた。
ドアを開くと、中は真っ暗で何もない空間だった。明らかに普通の宿じゃない。みんな身構えて警戒した。
「おおー! みんな、よく来なすった!」
暗闇から突然おじいさんが現れた。真っ白なあごひげを地面まで伸ばした、二百歳ぐらいに見えるおじいさんだった。枯れ木なのかロッドなのかよくわからない枝を手に持っている。
いきなりのおじいさんの登場に皆びっくりはしたが、おじいさんはものすごくにこにこしていたため、警戒が薄れてしまう。
「校長先生、お久しぶりです」
そう言ったのは、校長先生だった。
「ほほ、もうわしは校長先生じゃないぞ」
おじいさんはにこにこしたまま答えた。
「皆さん、この方は、先代の校長先生ですよ」
校長先生が僕たちに向けて紹介した。
「ええー! じゃあ、このおじいさんも特殊魔道士ですか?」
「ほほ、ご名答。わしは『地形変更魔道士ツチカベ』じゃ。みんなはどんな魔法を使うんじゃ? ダンジョンを作ってやるから、その力、わしに見せておくれ」
おじいさんは手に持った枝をかざした。
突然、何もなかった部屋に、地下に続く階段が現れた。
「ほれ、ダンジョンができたぞ。みんなおいで」
みんなで階段を下った。階段も、周りの壁も冷たく、降りる度に温度が下がっていくのを感じた。
階段を下った先の部屋には、大きな怪獣のようなモンスターが唸っていた。今まで見たことない大きさだ。
「ほほ、急に地形を変えたから地底モンスターが怒ってしもうた。みんな退治しておくれ。わしは年だから倒せん」
おじいさん、いや先代の校長先生はそう言った。さっき下ってきた階段はもうなかった。つまりもう出口がない。
「先代の校長先生、出口がないですが!?」
ポールトーマスが聞くと
「ほほ、力を見せとくれと言ったろう。出口も自分たちで探すんじゃな。がんばれよー」
先代の校長先生はにこにこして言った。
「相変わらずスパルタですねえ」
校長先生が先代の校長先生に向かって言った。
「お前が生温いんじゃ。自分がスパルタ教育できないからって、隠居のわしを頼るな」
「老人なんて、頼られなくなったら張り合いなくなってすぐ死にますよ」
「だまらっしゃい」
先代の校長先生は校長先生を吹き飛ばした。
校長先生は、壁にぶつかって倒れ、動かなくなった。
「ほうら、もう先生はあてにならんぞ」
先代の校長先生は僕たちに言った。
「え? 校長先生死んでませんよね?」
トイが聞くと、
「多分な。まあ死んだらこいつはそれまでってことじゃ。お前らもな。ほら、怪獣が来るぞ」
振り返ると、怪獣は僕たちに今まさに襲いかかろうとしていた。
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