第58話 接触
スーの部屋は、始めて遊びに来た時と比べるとだいぶこざっぱりした印象がある。前はもっと、スプラッタ系の小説や画集が本棚にあったし、本は横積みだったり、少し埃っぽかったりして雑然としていた。今は、悪趣味さが伺える本は見えるところにはなく、本は教科書を中心に本棚に並び、埃もなく、窓も綺麗だ。
「ねえ、やっぱりスーの彼女ってここに遊びに来たりするの?」
僕が尋ねると、
「え? うん、まあね」
と照れた感じで答えた。やはり彼女の目を気にした感じの部屋なんだなと認識した。
「それよりもさ、この間僕の学校に入学してきた子の中に、僕と同じ魔力ゼロの子がいるよ」
「へえ! ……その子、こないだ飛び降りた子じゃないよね?」
僕がそう言うと、スーは急に神妙そうな顔をした。
「うん、さすがに本人聞く勇気がないんだけど、もしかしたらそうじゃないかと思ってるんだ。ちょっと前まで入院してたとか言って一週間遅れで入学してるし、キルルさ、あの飛び降りのとき見てたなら、その子の顔見たらわかるんじゃない?」
「うーん、遠目だったからその子の顔までは覚えて無いけど、雰囲気でわかるかもしれないな。その子に会えないかな?」
「僕の学校に遊びに来たらいいよ。僕の学校制服ないし、よその学校の人が遊びに来てもそんなに違和感ないから」
「わかった、今度遊びにいくよ。僕平日も割と暇してるし」
そんな理由で、スーの学校に遊びに行った。さすがにロッドとマントは身につけていると悪目立ちするので部屋に置いてきた。
スーの学校は、煉瓦建ての壁にとんがり屋根の、洒落た校舎の学校だった。都会の中にある私服校だから、生徒は思いの外洒落た雰囲気をしている。
「ちょっと、なにキルルが緊張してるの。キルルの方がすごい学校にいるのにさ」
「う、うん、みんな結構お洒落だね」
「みんなそのぐらいしかやることないだけだよ」
「そ、そういうもの?」
「そういうもんだよ。あの子、呼び出してあるんだ。こっちだよ」
スーは魔力ゼロという共通項から、その子とすでにそこそこ親しくなっているようだ。スーは僕を食堂に案内した。食堂は僕の学校とそんなに雰囲気は変わらない。まだ昼食の時間ではないので人はほとんどいなかった。
「あっ! 待って!」
スーが急に呼び止めた。
「あの子に自己紹介するとき、キルルが『即死魔道士』だってことは言わないで」
「え?」
「いや、もしあの子が飛び降りの子だったら、『即死魔道士』と引き合わせたらまずいよ。『自分を殺してくれ』って言いかねないよ」
「あっ……たしかに、そうかも。まあ、特殊魔道士は基本的には学校外では特殊魔道士だって名乗らない決まりだから、そうするよ」
「うん。あの子、まだ来てないな」
僕達は食堂に入り席に着こうとしたとき、
「あっ、こっちこっち!」
スーは食堂の入口に立っていた少年を呼んだ。
一目見てわかった。飛び降りたのはあの子だ。
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