第56話 適性
「え!? あの飛び降りを目撃したの!?」
僕は久しぶりにスーの家に遊びに来ていた。スーも王都で先日飛び降りがあったことは噂で知ってはいたようだが、さすがに目撃したという話には驚いていた。
「ああ。それよりも、飛び降りた子の動機だよ」
僕は飛び降り事件の新聞記事を見せた。
「適性検査で魔法の素質がなかったから……?」
スーは複雑そうな顔で新聞記事を読んでいた。
「そうか、僕も魔法の素質ゼロで、聞いたときはショックだったけど、流石に死のうとは思わなかったな。だけどこういう子もいるんだね……」
「うん……」
スーは実際に魔法の素質なしと言い渡され、それでもこのように元気に過ごしているわけだが、僕がもし素質なしの立場だったらどうだったろう。スー以上に絶望していたのは間違いない。もしかしたら、僕も飛び降りていたかも……
「魔法の素質が全くない子って、あんまりいないんだっけ」
僕がつぶやくと、
「ああ、僕が行っている学校は、魔法も戦士も向いてない子が多いけど、魔法向いてないって言ってもレベル10ぐらいまではいける子がほとんどだよ。僕みたいにゼロの子ってほんとにめったにいない。統計のデータを見せてもらったことあるんだけど、素質ゼロは毎年数人なんだよ」
「そうなんだ。なんだか、珍しさでいうと特殊魔道士並だね……」
適性検査って、僕みたいに適性を見出だせてもらえた人間にとってはいいけど、なにも見つからなかった人間にとっては、すごく酷だと思う。
「ねえ、スーは今の学校出たあと何するの?」
「え? なに急に?」
「ちょっと、気になって」
「んー、まだ何も決めてないよ。そもそも学校卒業できるかどうかも怪しいし。なんとか二年生になったけどもう少しで留年するところだったよ」
「そっか、だけどスーならなにかいい仕事が見つかるよ」
「え? そうかな?」
「うん。スーなら大丈夫だよ」
スーは不思議そうな顔をしていたが、僕はそう思う。スーは魔法の素質がなかろうが学校の成績が悪かろうが、どこかあっけらかんとしていて、妙な強さを感じる。きっと将来もなんとかなるだろう。
そう考えると、僕は弱い。即死魔法というたった一本の素質を支えになんとか立っているという感じだ。僕はまだ一本支えがあったからましな方で、飛び降りた子には何もなかったのだろう。飛び降りたあの子は生きながらえて、今何を思っているのだろうか。
そんなことを考えながら、僕は国立魔道士養成学校の二年生になった。即死魔法はレベル35になっていた。
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