第5話 同級生
二人の少年は、僕と校長先生の姿を見るなり、駆け寄ってきた。二人とも興味深そうに僕を見ている。
「その人も、僕たちの同級生ですか」
少年のうちの一人が聞いた。背が高く、眼鏡を
かけている。
「ええ。即死魔道士のキルルさんです。仲良くしてあげてくださいね」
校長先生が僕を二人に紹介した。僕は軽く会釈した。やはり、同級生という存在は緊張する。
「即死魔道士、と言いますと?」
眼鏡の少年が続けて尋ねた。
「名の通り、相手を即死させる魔法が使える魔道士です」
「ええ……それはすごい」
もう一人の少年が言った。この少年は緑色の髪でとても穏やかそうな顔をしている。
それにしても、同世代の子に「すごい」なんて初めて言われた。やっぱりここではいきなり無能扱いは免れそうだ。僕は少しホッとした。
「キルルさん、こちらは複合魔道士のポールトーマスくんです」
「ポールトーマスです。よろしく」
「複合魔道士というのは、二種類以上の魔法を組み合わせて新しい魔法を生み出す魔道士です」
複合魔道士ポールトーマスは会釈した。眼鏡をかけている方の少年だ。背が高く、賢そうで年上に見える。髪は黒で、左目が黄色、右目が青色のオッドアイだ。深緑のローブを着ている。すでに優秀な魔道士の雰囲気がする。
「こちらは、音楽魔道士のカランドさんです」
「よろしくね」
「音楽魔道士は、音楽を奏でることで相手を眠らせたり、騒音でダメージを与える魔法を使います」
音楽魔道士カランドは、髪が緑色の方だ。仕立ての良さそうなスーツを着ていて、音符のブローチを胸元につけていた。いかにも音楽家という感じだった。
挨拶が終わりかけたころ、ロビーの扉が派手に開く音がした。
「おおおお!? もう三人もいる? もしかしてこれが当たり年ってやつですかせんせー!」
と言う声がした。扉の方を見ると、ピエロ姿の校長先生並みにカラフルな服を着た少年が立っていた。顔は校長先生のような白塗りではないが、蛇のような鋭い目つきをしている。
「トイさん、久しぶりですね。はい、今年は第一週だけで特殊魔道士が三人見つかりました。おそらく当たり年ですね」
「まじですかー! 今年はやる気出るかもしれない!」
少年は僕たちの方へ駆け寄ってきて、自ら自己紹介した。
「俺はクイズ作成魔道士のトイ! よろしく!」
「え!?」
想像以上にトリッキーな魔道士の名前に僕たち三人はポカンとなった。僕も正直なんじゃそりゃと!?思った。
「クイズ作成魔道士っていうのは、魔法でクイズとかパズルを作成できる魔道士だよ!」
クイズ作成魔道士トイは自分で説明した。
「トイさんは、実は去年入学した生徒でみんなより一個年上なんですが、単位が足りないのでみんなと同級生になります。ようするに留年組です」
校長先生が説明した。
「だってさー。去年特殊魔道士俺一人だったんだよ!?学校生活面白くなさすぎて・・・サボっちゃったんだよねー。だけど三人増えるなら今年こそは真面目にやろっかなあ」
「そうしてください。あなた一般魔法の素質も抜群にあるんですよ。やる気になれば校内トップ取れるんですから。頑張ってくださいよ」
「はーい! みんな、よろしく!」
「よろしく」
僕たち三人はトイに挨拶した。
「あと、もう一人! そこにいる留年組!」
校長先生はロビーの机の下を覗いた。
机の下には、パーカーを着た女の子が床に寝ていた。
「彼女は退化魔道士ネルです。退化魔道士は相手を若返らせたり、モンスターを退化して弱らせる魔法が使える魔道士です。彼女は一昨年入学してるんですが、彼女の代も彼女一人しか特殊魔道士がいなくて、去年もトイくん一人しか入って来なかったのでモチベーション上がらず、二留です……もっとも、彼女の場合は同級生が増えたといってモチベーションが上がるかどうか謎ですが……」
校長先生が手を焼いているのは明らかだった。
校長先生の言葉が聞こえたのか、退化魔道士ネルは、ぼんやり目を覚ました。
「お、おお?なんかにぎやか……よろしく……」
一言だけ言って、退化魔道士ネルはまた眠ってしまった。よろしくと返す間もなかった。
「皆さん、留年組とも仲良くしてあげてください……今年は、特殊魔道士が北地方だけで三人も見つかっているので特殊クラスはにぎやかになるかもしれません。特殊魔道士はどういうわけか、たくさん現れる年と少ない年の差が激しいんですよ」
ロビーの壁には、特殊魔道士の名簿が貼ってあった。
特殊魔道士名簿(判明順)
1退化魔道士ネル 二年留年 女 南出身
2クイズ作成魔道士トイ 留年 男 王都出身
3複合魔道士ポールトーマス 男 北出身
4音楽魔道士カランド 男 北出身
5即死魔道士キルル 男 北出身
まだ、こんな変わった魔道士が続々現れるかもしれないのか。みんな人柄は悪くなさそうだけど、ちょっと大変かもしれない……僕はそう思った。いじめられるよりかは、ましだろうけども。
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