第48話 成長
そうだ、僕は……
「ソクシクロネコモドキ」のクロがまだ子供で、大きくなったら人間以上の大きさになり、「ソクシオオクロネコ」になる、と知ったとき、言ってしまった。クロの前で。
――そんなに大きいと可愛くないなあ。思わず殺してしまいそう――
クロは僕の言葉はよく理解している。こんな言葉を聞いたら、成長が恐怖でしかないだろう。
しかも、僕は、鍵付きの首輪までつけて、クロの成長を無意識に止めていたんだ。
「クロ!!」
眠りかけていたクロに呼びかけた。
「クロ、僕がクロが大きくなっているのを嫌がってると思って、ろくに食べずにいただろう!」
「ニャア」
クロは、か細く鳴いた。だめだ。僕じゃ何を言っているのかわからない。
クロにつけていた南京錠の首輪を外した。
「クロ、クロだったら大きくなってもいいからさ、遠慮せずに食べなよ!」
「ニャア」
クロは力なく返事をした。
次の日の朝、僕はいつもよりかなり多めのご飯をあげたが、クロは今までより少ない量しか食べなかった。
「クロ、食べなよ」
「ニャア」
「食べ物が気に入らない?」
クロは首を降った。
リリイに相談しようかと思ったが、「殺してしまいそう」発言を言うのがはばかられた僕は、リリイのところへは行かなかった。
そう、僕はここでも保身を取ってしまったのだ。
終わりの時が近づいていた。クロは、この「終わり」が来ることに多分だいぶ前から気づいていただろう。
ホームルームが終わった後、僕はいつものようにモンスター退治に向かうことにした。弱っているクロは部屋に置いていこうとしたが、ついてくると言って聞かなかった。首輪とリードをつけて、一緒に外に出た。
学校から出て、王都の外の草原に行った。モンスターを見つけると、クロが騒ぎだした。
「クロ、弱っているんだからやめたほうがいいよ」
「ニャー! ニャー!」
「しょうがないな」
クロを地面に降ろす。爪のキャップを外すなり、クロは走り出した。モンスターがいるところとは反対の方向へ。
「クロ! どこへ行くの!」
「ニャー」
クロは僕を振り返って鳴いた。僕のところからいなくなるつもりだ。表情でわかった。だけど南京錠の首輪をつけて逃げ出しても、いつか体に首輪のサイズが合わなくなり死ぬだろう。
「クロ、戻っておいで」
クロは、僕に背を向けて走り出した。
「クロ……」
僕は即死魔法を使ってクロを殺した。
「ごめんね。モンスターの君を野生に返すわけにはいかないんだ」
クロは、多分気づいていたのだろう。僕の元に来た以上、どの道「死」が待っていることに。
大きくなれば死、こうやって逃げ出しても死なのだから……
「大きくなってもいいから」という僕の言葉を、信じ切れなかったのだろう。僕自身、クロが不気味なほど大きくなったとき、心が追いつくかどうかわからなかった。
「せめて、部屋の一番いい場所に置いてあげなくちゃ……」
僕は冷たくなったクロを部屋に持ち帰った。
次の日は、後期の終業式だった。終業式がおわると冬休みだ。
「皆さん、後期もとても頑張りましたね。校長先生嬉しいです」
校長先生はホームルームで皆を褒めた。
僕はレベル30になっていたから、特殊クラスの生徒としては二年生に進級できることが決まった。一般教養の単位も落とすことなく取れていた。
「キルル、どこ行ってたの、リリイが探してたよ」
夕方、ロビーでポールトーマスに聞かれた。
「少し、出かけてて」
コール先生にクロの死を報告したところだった。クロは、コール先生に調べられたあと、僕の部屋の剥製になる予定だ。
「リリイ、もう帰省しちゃったかな」
「ああ」
「キルル、どうしたの、リリイとしばらく会えないっていうのに、話もしないなんて、君らしくない」
「いや、いろいろあって」
僕はロビーを後にした。リリイにクロの死をまだ知らせたくなかった。殺したのに気づかれるのが、怖かったと言うべきか……
魔法のレベルはちゃんと上げた。単位も取った。
だけど、僕は……
成長しているのか?
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