第47話 矛盾
え?
もっと、食べたい……?
僕はまたしても夜中に目を覚ました。時計を見るとまたしても夜の四時だ。
また、あの夢……?夢の中に出てきた「もっと食べたい」ってなんだ?てっきり僕の欲望が夢になって出てきたのかと思っていたが、「愛されたい」「殺したい」はともかく、「食べたい」ってなんだ?寮の食事の量に不満なんてないし、そもそも僕はそんなに食べることに執着が強くない。
クロは、僕の枕元で眠っている。よく見ると、呼吸が荒い。
「クロ?」
僕はクロを揺すって起こした。
「ニャー……」
今まで聞いたことがないか細い鳴き声だ。
「クロ、どうしたの」
僕は起き上がってクロを抱きかかえた。
軽い。クロが僕のところに来て数週間経つが、ここに来たときよりも、クロ体が軽くなっている気がする。見た目も、体が細くなっているような……
「クロ!!」
クロが相当弱っている。どうしよう。水魔法でも使えば少しは元気になるだろうか。リリイなら、回復魔法は得意だしなんとかしてくれるかもしれない。こんな夜中だけど、朝まで待っていられない。
僕はクロを抱えて廊下に出て、リリイの部屋に向かおうとした。しかし、リリイの部屋の反対側にあるロビーから灯りが漏れているのに気がついた。誰かこんな時間にロビーにいるのだろうか。僕以外の生徒なら水魔法は使えるから、起きている人に頼んだほうがいいだろうと思った僕はロビーに入った。
ロビーにいたのは、リリイだった。
「リリイ!」
「キルル、どうしたの!?」
「リリイこそ、何してるの?」
「私は少し、眠れなくて」
夜のロビーはいつもより灯りが小さく、ロビーに佇むリリイを小さく上から照らしていた。白いワンピース型の部屋着を着たリリイは天使に見えた。
「リリイ、クロの様子がおかしいんだ」
「クロが?」
リリイは僕に抱えられたクロを見つめた。クロはさっきよりぐったりしている。
「こっちのソファーに寝かしてあげて」
ロビーの奥にある、柔らかいソファーにクロを寝かせる。
「クロ、どうしたの」
リリイが呼びかけると、
「ニャー」
「え? どういうこと?」
リリイがクロに問いかける。
「ニャー」
リリイが黙ってしまった。
「リリイ、どうしたの?」
「よくわからないことを言っているわ。食べたいとか食べたくないとか、大きくなりたいとか大きくなりたくないとか、矛盾したことを言っているの」
リリイが会話並にクロの言葉を解釈していることにも驚いたが、それよりもクロの言葉は一体……?
「僕にもわからない。とにかく今の苦しそうな状態をなんとかしてあげてほしいんだ。水魔法とかでどうにかできないかな」
「わかったわ」
リリイは水魔法の呪文を唱えた。少しクロの息遣いが、穏やかになったのがわかった。
「だけど、かなり衰弱しているのには変わりないわ。クロがどうしてこうなったのかがわからないと解決しないわ」
「ああ……」
僕はクロを抱き上げて部屋に戻ろうとしたが、ふと気になった。
「リリイって、どうしてクロの言葉がそこまではっきりわかるの? クロがモンスターだってことにもすぐ気づいたし、リリイはどうしてそんなにモンスターのことがわかるの?」
「え? ええと、それは……」
リリイは言葉を詰まらせた。何か言いにくい事情があるようだ。
「なんとなく、わかるだけよ。自分でも説明できないの」
「そう……」
何か隠しているのはわかったが、あまり探りすぎるのも可哀想だと思った。僕も誰にも見せたくない面はあるし、リリイにもそういうものはあるのだろう。
「そっか。クロも今は普通に寝てるみたいだし、部屋に帰るよ。ありがとう」
「ええ、私も部屋に戻るわ」
僕もリリイもロビーから出て、それぞれの部屋に戻った。
部屋に帰った僕は、リリイが伝えてくれたクロの言葉について考えた。クロはベッドの上でうずくまっている。
食べたい、食べたくない……
大きくなりたい、大きくなりたくない……
クロが大きくなったら人間以上の大きさの「ソクシオオクロネコ」になる……
「あー!!」
思わず叫んだ。僕は、クロに対してとんでもなくひどい言動をしていたことに、ようやく気がついた。
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