表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/138

第47話 矛盾

 え?

 もっと、食べたい……?

  

 僕はまたしても夜中に目を覚ました。時計を見るとまたしても夜の四時だ。

 また、あの夢……?夢の中に出てきた「もっと食べたい」ってなんだ?てっきり僕の欲望が夢になって出てきたのかと思っていたが、「愛されたい」「殺したい」はともかく、「食べたい」ってなんだ?寮の食事の量に不満なんてないし、そもそも僕はそんなに食べることに執着が強くない。

 クロは、僕の枕元で眠っている。よく見ると、呼吸が荒い。

「クロ?」

 僕はクロを揺すって起こした。

「ニャー……」

 今まで聞いたことがないか細い鳴き声だ。

「クロ、どうしたの」

 僕は起き上がってクロを抱きかかえた。

 軽い。クロが僕のところに来て数週間経つが、ここに来たときよりも、クロ体が軽くなっている気がする。見た目も、体が細くなっているような……

「クロ!!」

 クロが相当弱っている。どうしよう。水魔法でも使えば少しは元気になるだろうか。リリイなら、回復魔法は得意だしなんとかしてくれるかもしれない。こんな夜中だけど、朝まで待っていられない。

 僕はクロを抱えて廊下に出て、リリイの部屋に向かおうとした。しかし、リリイの部屋の反対側にあるロビーから灯りが漏れているのに気がついた。誰かこんな時間にロビーにいるのだろうか。僕以外の生徒なら水魔法は使えるから、起きている人に頼んだほうがいいだろうと思った僕はロビーに入った。


 ロビーにいたのは、リリイだった。

「リリイ!」

「キルル、どうしたの!?」

「リリイこそ、何してるの?」

「私は少し、眠れなくて」

 夜のロビーはいつもより灯りが小さく、ロビーに佇むリリイを小さく上から照らしていた。白いワンピース型の部屋着を着たリリイは天使に見えた。

「リリイ、クロの様子がおかしいんだ」

「クロが?」

 リリイは僕に抱えられたクロを見つめた。クロはさっきよりぐったりしている。

「こっちのソファーに寝かしてあげて」

 ロビーの奥にある、柔らかいソファーにクロを寝かせる。

「クロ、どうしたの」

 リリイが呼びかけると、

「ニャー」

「え? どういうこと?」

 リリイがクロに問いかける。

「ニャー」

 リリイが黙ってしまった。

「リリイ、どうしたの?」 

「よくわからないことを言っているわ。食べたいとか食べたくないとか、大きくなりたいとか大きくなりたくないとか、矛盾したことを言っているの」

 リリイが会話並にクロの言葉を解釈していることにも驚いたが、それよりもクロの言葉は一体……?

「僕にもわからない。とにかく今の苦しそうな状態をなんとかしてあげてほしいんだ。水魔法とかでどうにかできないかな」

「わかったわ」

 リリイは水魔法の呪文を唱えた。少しクロの息遣いが、穏やかになったのがわかった。

「だけど、かなり衰弱しているのには変わりないわ。クロがどうしてこうなったのかがわからないと解決しないわ」

「ああ……」

 僕はクロを抱き上げて部屋に戻ろうとしたが、ふと気になった。

「リリイって、どうしてクロの言葉がそこまではっきりわかるの? クロがモンスターだってことにもすぐ気づいたし、リリイはどうしてそんなにモンスターのことがわかるの?」

「え? ええと、それは……」

 リリイは言葉を詰まらせた。何か言いにくい事情があるようだ。

「なんとなく、わかるだけよ。自分でも説明できないの」 

「そう……」

 何か隠しているのはわかったが、あまり探りすぎるのも可哀想だと思った。僕も誰にも見せたくない面はあるし、リリイにもそういうものはあるのだろう。

「そっか。クロも今は普通に寝てるみたいだし、部屋に帰るよ。ありがとう」

「ええ、私も部屋に戻るわ」

 僕もリリイもロビーから出て、それぞれの部屋に戻った。


 部屋に帰った僕は、リリイが伝えてくれたクロの言葉について考えた。クロはベッドの上でうずくまっている。


 食べたい、食べたくない……


 大きくなりたい、大きくなりたくない……


 クロが大きくなったら人間以上の大きさの「ソクシオオクロネコ」になる……


「あー!!」

 思わず叫んだ。僕は、クロに対してとんでもなくひどい言動をしていたことに、ようやく気がついた。

 

 


読んでくださってありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ