第42話 クロ
「ソクシクロネコモドキは捕獲されました」
というポスターが学校の掲示板に貼られ、ソクシクロネコモドキ騒動は表向き終了した。
ソクシクロネコモドキのクロは、僕の部屋でこっそり飼われていた。知っているのは校長先生とコール先生だけだ。
「ただいまー。クロー」
僕が部屋に帰るとクロは嬉しそうに僕の足元にすり寄ってくる。
「ごはんだよ」
「ニャーオ」
爪に猛毒がある上、将来的に人間並に大きくなってしまうモンスターのクロだが、今のところ普通のペットとして大人しく過ごしている。
僕は部屋にいる時間はクロと戯れて過ごした。僕は今までペットは飼ったことがなく、クロが人生初のペットだった。
「クロ、今日のご飯はスペシャルだよー」
僕は籠をクロの前に出した。籠の中には生きたネズミが三匹いる。
「たまにはその爪使って殺したりしたいだろう?」
「ニャーオ」
「爪のキャップ外してあげるよ。僕のことは殺さないでね? ネズミを殺すんだよ」
「ニャーオ」
僕はクロの前足の爪のキャップを外して、ネズミ一匹を部屋に放った。ネズミが広い部屋を素早く走り回る。
クロは普段の大人しい雰囲気から一変し、素早くネズミを追いかけ回して紫の爪でネズミを貫いた。ネズミは毒に苦しみしばらくの間チューチュー鳴いてのたうち回ったあと、こと切れた。ネズミは苦しみすぎて目玉が飛び出ていた。
「クロの殺し方はひどいねえ」
「ニャー」
クロは僕を見つめた。僕に言われたくないようだ。
「僕は一瞬で殺せるから、相手は苦しまないよ」
僕は籠に残っているネズミを一匹取り出し即死魔法の呪文を唱えた。ネズミは一瞬で絶命した。苦しむ間もなく穏やかだ。
「ほら、眠ってるみたいでかわいいでしょ」
クロにネズミの死骸を差し出す。クロは大人しくネズミの死骸を見つめる。
「ニャー」
「どっちも一緒だと思ってるね」
「ニャーオ」
「ふふ。お食べ」
ネズミの死骸を床に落とすとクロはそれをムシャムシャと食べだした。残る一匹のネズミも喜んで殺して食べてしまった。
「もう終わりね。爪のキャップつけるからおいで」
「ニャーオ」
大人しく爪にキャップをはめられたクロは、
モンスターから黒猫の顔に戻った。僕も即死魔道士からただの少年に戻る。
ベッドに転がり、クロと戯れる。クロは僕の胸の上でゴロゴロしている。
「今日レベル27になったんだ。レベル100までは長いね」
「ニャーオ」
僕はクロに学校でのことを話す。最近の日課だ。
「もうすぐ一般教養のテストなんだ。勉強しなきゃいけないけど憂鬱だよー」
「ニャーオ」
「本当は即死魔法だけやってたいよ。だけど母さんが勉強も頑張れってさ」
「ニャーオ」
僕は寝転びながらも国語の教科書をしぶしぶ開いた。
「はあ。モンスターを律儀に倒してないで目についた動物をひたすら殺したらもっとレベル上がるし勉強する時間取れるんだけどなあ……」
「ニャーオ」
クロは良い話相手だった。今までスーにも両親にも校長先生にもクラスメイトにもリリイにもなんとなく伏せてきた気持ちを、クロになら話せた。
いじめられて来たこと、いじめっ子をいずれ殺すこと、即死魔法のレベルを早く上げたいこと、もっと殺したいこと……クロにはいろいろ話した。クロには心を見せることができた。
もしかしたら、僕の一番の友達になれるのはクロかもしれない。クロはメスだから恋人にも……いや、やっぱり恋人はリリイがいいや、なんて考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。
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