第34話 ショウのバトルロワイヤル
――ショウ。あんな「笑わせ魔法」なんてくだらない魔法だけなんて、お母さん承知しませんよ! 一般魔法も一般教養もちゃんとやりなさい!――
わけのわからない数学の解説が、私の耳を通り過ぎてゆく。私、笑わせ魔道士ショウは、もうすでに数学の授業についていけなくなっていた。元々、数学なんて苦手なの。適性検査で「笑わせ魔法」の適性が見つかり、ここ国立魔道士養成学校に通うことになった私は、「笑わせ魔法」をレベル100にすれば卒業できる。一般教養や一般魔法はやってもやらなくてもよい。ただ、一般教養と一般魔法の講義を受けて一定数単位を取れば高校卒業資格がもらえるけどね。余計なことはしたくない性分の私は、笑わせ魔法だけやるつもりだった。しかし、私のお母さんはそれを許さず、「高校卒業資格は絶対取ってこい」とうるさい。理由は、「『笑わせ魔法』なんてくだらないから」ですって。ひどいよね。まあたしかに、他のクラスメイトの特殊魔法と比べたらなんか間が抜けた感じはするけども。結局怖いお母さんに逆らえず、仕方なく数学の講義を受けているというわけ。
「ショウ! ショウ!」
「はい!?」
数学の先生が私を呼んでいた。
「ショウ、またよそ見していますね。前に来てこの問題を解きなさい」
「ええー!?」
前の黒板には、意味不明の文字列が並んでいる。もうどこがわからないのかわからない。ちょっとヒントをもらったら解けるとかいう次元じゃない。困ったな。今まで、わからない問題はキャサリンに助けてもらっていた。キャサリンとはよく一緒に授業を受けていたのだけど、なぜかキャサリンは最近一般教養の授業をさぼっている。
私は仕方なく前に出て黒板に
「ふとんがふっとんだ」
と書いた。教室が笑いで湧き上がる。元々好きなダジャレで笑ってもらえるなんて、「笑わせ魔法」って最高だわあ。
「あははははは…………って、ショウ! 変なタイミングで笑わせ魔法を使わないで! 立ってなさい!」
「はーーい」
先生に怒られた私は、仕方なく、いや、ラッキーと思いつつ教室を出た。今日はこのあと授業ないし、「王都新喜劇」でも見に行こうっと。
「笑わせ魔道士ショウさん、ちょっといいですか」
「はい?」
学校の廊下で、見知らぬ一般魔法クラスの女の子に話しかけられた。少しぽっちゃりでメガネをかけた青い制服の女の子だ。水魔法クラスの子か。
「私は、文化祭実行委員のエリーゼです。今度文化祭で行われるバトルロワイヤルの予想のため、取材してるのです」
「え? こないだ文化祭実行委員の予想が掲示板に貼られていたじゃない。取材はもう終わってるんじゃないの?」
「あら、案外鋭いわね。あなた。実は、文化祭実行委員じゃなくて、私個人として取材しているの。他の文化祭実行委員はあなたは弱いと予想してたけど、私はそうは思わないわ。条件次第ではあなたが優勝すると思ってるの」
「ゆ、優勝!? 私が!?」
「ええ、笑わせ魔法の使いようによっては……」
エリーゼは、私に耳打ちした。なるほど、たしかにやりようによっては優勝できるかも。
優勝すれば、お母さんも「笑わせ魔法」を認めてくれるかも……
「よーし! せっかくだから優勝狙ってみる!」
「いいわね。やっぱりみんなやる気がないとバトルロワイヤルは面白くないわ。……ところで、前から疑問だったんだけど、あなたのその制服は一体?」
「え?」
私は一般魔法クラスの制服の色違いの制服を来ている。紫色だ。
「制服に憧れてたんだけど、特殊クラス制服ないっていうから、自分用に作ったのよ。一般魔法クラスと同じ色だとまずいと思って、自分の髪の色と合わせて紫色にしたの!」
「あなた、結構変わり者よね……」
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