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第33話 バトルロワイヤル予想

「リリイ! 良かった! 無事学校に戻ってきてくれて!」

 学校に着くとショウが校門で待っていた。

「心配かけて、ごめんなさい」

「戻ってきてくれたらいいんだよ。それで、いきなりなんだけどリリイにお願いがあるの」

「何かしら?」

 ショウはリリイを校庭へ連れて行った。僕もなんとなく着いて行った。

 校庭の片隅に、白い子猫の死骸があった。特に外傷もなく綺麗な死骸だ。

「この子、生き返せない? 夏休みの終わり頃から校庭に遊びに来てた子なの」

「ちょっと待ってね」

 リリイが蘇生魔法の呪文を唱える。だが、子猫の亡骸には変化かない。

「この子、いつごろ亡くなったのかしら」

「二日前よ。三日前まで元気だったのに」

「それだと……時間が経ちすぎているわ。ごめんなさい。この子はもう生き返らないわ」

「そう……残念」

 ショウはぽろぽろ泣き出した。

「蘇生魔法は死後どのぐらい有効なの?」

 僕が聞いた。

「死後丸一日が限度よ。私がちゃんと学校に来ていれば間に合ったのよね。本当にごめんなさい」

 リリイも泣き出した。

「この子は土に還してあげましょう」

 リリイが土魔法の呪文を唱えると、子猫の下の土が盛り下がり、子猫の上に新しく土が降り注ぎ、小さな土の山ができた。あっという間に子猫の墓の完成だ。

「リリイ、ありがとう」

「教室に戻りましょう」

「うう……悲しいね。こんな時こそ笑わせ魔法で……『猫がねこ』……」

「ま、待って、こんなときに無理に笑っても……」

 リリイが止めた。

「そう?じゃあやめとこう」

 僕も、そしてリリイも密かに思っていたのだが、この期に及んで猫のダジャレの呪文で笑っちゃダメだろう……

 ショウは優しいんだけどちょっとズレていると思う。

 僕も優しさについてはあまり人のこと言えないけど……


 僕は、この夜この墓を掘り返して子猫の死骸を回収した。今まで猫を殺すのは人道的なことを考えて踏みとどまって来たのだ。せめてこの亡骸を剥製にしたかった。さすがにリリイとショウの前で「剥製にしたいから亡骸をくれ」とは言えなかった。


 学校に戻ってきたら、リリイに王都を案内しようと目論んでいたのだが、学校に帰ってきてからというもの、それどころじゃない事態が多発した。リリイは授業の遅れを取り戻すのに大忙しになってしまった上、一般魔法クラスの人に話しかけられまくっている。そう、今度行われるバトルロワイヤルのため、一般魔法クラスの生徒が特殊クラス生徒の能力について調べ回っているのだ。今回は勝負で勝てなくても優勝者を予想するだけでも賞金が出るとのことで、多くの生徒が張り切りだしたのだ。


「即死魔道士キルルさん。ちょっといいですか」 

「はい?」

 一般教養の授業が終わったときに、一般魔法クラスの生徒が話しかけてきた。青色の制服なので水魔法クラスだろう。少しぽっちゃりしたメガネをかけた女の子だった。

「私、今年の文化祭実行委員のエリーゼです。今度行われるバトルロワイヤル攻略用に、特殊クラスの能力についての特集記事を書く予定なので、少し即死魔法について伺いたいのですが、いいですか?」

 僕にも取材が来たようだ。僕は、このバトルロワイヤルの概要を聞いたとき、勝負にも予想にもさほど乗り気ではなかった。今の僕の即死魔法じゃ他の生徒にダメージを与えられないし、一般魔法も使えないから圧倒的に不利だ。あっけなく負けてしまうだろう。そして、誰が優勝するかに僕はあまり関心がなく、このバトルロワイヤルについては諦めモードだった。だから、このエリーゼの取材も適当に答えておいた。


 後日、文化祭実行委員が書いたバトルロワイヤル優勝者独自予想記事が学校の掲示版に貼られていた。一応僕も読んだ。


「今年のバトルロワイヤルは特殊クラスの人数が多く波乱必死!なので、文化祭実行委員が独自取材の末、特殊魔道士の能力を調査しました!勝負及び予想に役立ててください。そして文化祭実行委員が独断でバトルロワイヤル優勝者も予想しました!


特殊クラスの生徒の能力及び結果予想


退化魔道士ネルレベル18✕ 戦闘意欲がなく去年もすぐに脱落しているため期待度低め。


クイズ作成魔道士トイレベル25○ 前回優勝者なので今年も優勝候補。また勝負事好きな点も有利。しかし今年は予想に賭けている可能性も。実行委員二位予想。

 

複合魔道士ポールトーマスレベル18△ 能力が全体的に高く思わぬ複合魔法を使う可能性があるため要注意。


音楽魔道士カランドレベル16△ 音楽で様々な効能をもつ魔法が使えるため行動が読みにくい。こちらも要注意。


即死魔道士キルルレベル18✕ 強そうな肩書きだが、まだレベル的に人は殺せず、一般魔法も使えないため案外弱いか。


瞬間移動魔道士ワープマンレベル20◎ 瞬間移動魔法と風魔法と格闘技が使えるためかなり強いと思われる。実行委員一位予想。


簡略魔道士リャレベル16○ 魔法の発動時間が最も早くかなり有利か。ただし魔法の威力が低いのが難点。実行委員三位予想。


笑わせ魔道士ショウレベル15✕ 笑わせることしかできない上、一般魔法も得意ではなく、非力な女子なので戦闘は不向きと思われる。


変身魔道士キャサリンレベル22△ 一般クラスの生徒に紛れ込む可能性が高く行動が読めない。油断禁物。


蘇生魔道士リリイレベル26△ 魔力、レベルともに学年トップで魔道士としては一番強いものの、争いが苦手な性格が不利になる可能性あり」


 妥当な予想記事だと感じたが、僕はこの記事を読んで複雑な気持ちになった。

 子供の頃からずっと弱い立場にいたけれど、即死魔道士になれて弱い立場を返上できると思った。だけど、他の特殊魔道士と戦ったら、僕は弱いだろう。しかもそのことをちょっと取材した一般魔法クラスの生徒にまで見抜かれて、少し悔しくなった。


 本音を言えば、「バトルロワイヤル優勝」の称号が欲しい。僕は何かで一番になったことなんてないから。

 

 このバトルロワイヤル、本当に本当に僕には勝ち目がないのだろうか……?

 僕は、バトルロワイヤルの概要と、クラスメイトの能力を今一度見直し、どこか勝てる手はないか真剣に考え出した。


 バトルロワイヤルの細かいルールは、当日ルーレットで決まり、ルール発表の一時間後バトルスタートらしい。このバトル、ルール次第では誰にでも勝機がある。例えば、相手を殺したら勝ちなのか、転ばせたら勝ちなのか、何か持ち物を奪ったら勝ちなのかでも勝者が変わるし、バトルの場所が校内か校庭なのかでも変わってくる。


 バトルロワイヤルで特に強いであろうワープマン、トイ、リャに勝つ方法がないかも、僕は考えた。


 考えた結果、ルールなどの条件に恵まれれば僕にも勝ち目があるという結論が出た。予想の方には参加しなかった。勝負の方は特殊クラスは強制参加だったが予想は任意参加だし、自分には投票できない。


 僕はバトルロワイヤルの勝者になる方に賭ける。


 


 

 





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