第31話 リリイとの旅
ああ、馬車の中にリリイと二人きりとか!
新婚旅行か!?
いや、落ち着け、僕。
「キルル、ごめんなさいね。私に付き合って馬車に乗せちゃって。授業遅れちゃうのに」
「いや、いいんだ。僕は一般魔法使えなくて
取ってる授業少ないから、大丈夫だよ」
「そう。ありがとう。本当は、馬車で一人は心細いから、キルルがいてくれて嬉しい」
う、嬉しい。こんな言葉でこんなに舞い上がってるのに、万が一両思いになんかなったら僕浮かれて死ぬんじゃないかと思う。
しばらくは、夏休みどうしていたかという話をしていたのだが、次第にリリイの口数が減ってきた。顔がうつむき、口に手を当てている。
「リリイ、どうしたの」
「少し、酔ったみたい……」
そういえば少し前からでこぼこした道を通っていて、馬車の揺れが大きくなっていた。ワープマンの瞬間移動魔法と相性が悪かったことといい、揺れに弱い体質なのだろう。瞬間移動魔法も馬車も苦手というのは気の毒だ。リリイが学校に戻りたくないと言ったのは、移動が憂鬱なのもあったのかもしれない。
「水魔法とかって、こういうとき効かないの?」
「今、呪文唱えるのは……うう」
僕は、馬に乗っている戦士に頼んで一旦馬車を止めてもらった。
「少し休もう」
リリイは馬車の座席に横になった。
「一応酔い止めの薬草飲んでたんだけど……」
「そっか。大丈夫だよ。すぐ良くなるよ」
手を握ったり背中をさすったりしてあげたかったが、勝手に身体を触っていいものか悩む。
リリイの心配をしつつも、僕は苦しそうに歪むリリイの顔に見惚れていた。僕は心配だけをしている体で、リリイの前にしゃがみ、顔を眺めていた。元々白い肌がさらに青白くなっている。リリイが苦しんでいるところ申し訳ないけどゾクゾクする。
しばらくすると、リリイが呪文を唱えた。水魔法を使ったようで、顔色が途端に良くなった。リリイが体を起こす。
「少し楽になったわ。こんな道端で止まっているのはまずいし、出発しましょう」
「うん、道がでこぼこしているのはあと少しらしいし、もうちょっとの辛抱だよ」
馬車が出発した。僕はリリイと向かいの席に座り直した。リリイは、さっきよりはましそうではあるが、自分の大きな荷物にもたれかかりぐったりしている。眠ってはいないようだが、目は閉じていた。
青白い肌と色の薄い唇。ぐったりと目をつむるリリイは死体のようですごく綺麗だった。もうずっと眺めていられる。でこぼこした道を抜けると、馬車の揺れは少なくなり、リリイは本当に眠ってしまった。僕はただただリリイの寝顔を眺めていた。
その夜はそのまま馬車の中で眠ることになった。宿屋がある村まであと一日かかる。
「今日は眠ってばかりでごめんなさいね。退屈したでしょう」
と、夜寝る前にリリイは言ったが、僕はこの上なく楽しい一日だった。……なんて言えない。
夜中、急に馬車が揺れて、僕は目を覚ました。馬車の外に出ると、馬車が数匹の野犬に囲まれていた。馬車を操縦していた戦士が応戦してくれていたが、
「僕がやります」
僕が即死魔法を唱えると、野犬はバタバタと倒れた。馬車の周りにいた野犬は四匹いたようだが、すべて死んだようだ。
「なんだ今のは、一撃だったな」
戦士が驚いている。
「即死魔法です」
「即死魔法? 変わった魔法だな。なんにせよ助かったよ」
「いえ」
僕はまだ修行中の身だから、魔法を使う機会があればあるほど嬉しい。
馬車に戻ると、リリイと目があった。リリイもさっきの揺れで目を覚ましたようだ。リリイに、即死魔法を使うところを見られてしまって、少し気まずい気持ちになった。
「こ、殺すほどじゃなかったかな?」
「いえ、野犬は仕方ないわ。放っておいたらこっちが殺さねかねないもの。ありがとう」
僕はホッとした。こないだの旅といい、即死魔法が実際の役に立っているのは嬉しい。
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