第3話 説明
前回までのあらすじ
15歳のキルルは、国が行う魔法の適性検査の結果、「即死魔道士」の素質を発見される・・・
僕には、才能があった!
即死魔法という聞いたことがない魔法だったし、診断士の説明を聞く限りおっかない魔法だ。だけどそれでもよかった。才能ゼロじゃないならなんでもいい。魔法が使えるようになるんだ!
才能がないかもしれないという恐怖から開放された僕は胸を高鳴らせ宿の部屋に向かう。両親揃っていた。
「キルル、どうしたの。そんなに慌てて。適性検査は終わった?」
母さんは僕の様子でただごとじゃないことを察したようだ。
「終わったよ。僕には、即死魔法っていう特殊魔法の才能があるから、両親連れて説明を聞きに来いだって! だから、母さん、父さん、来て!」
「特殊魔法!?」
両親は声を揃えて驚き顔を見合わせた。
僕は両親を連れて診断士の部屋に入った。すると、診断士は僕たちをさらに奥の部屋に案内した。その部屋はさっき診断が行われた部屋と同じような雰囲気の暗い部屋だったが、わりと広く、真ん中に大きな机があった。机の前には僕と両親が三人並んで座れるように椅子が三脚横に並んでいた。僕を真ん中に、両親は両横に並んで座る。診断士は僕たちの正面の椅子には座らず、部屋の隅に立っている。
僕たちの前に一脚だけある正面の椅子には、誰も座っていなかった。
と思っていた。しかし、唐突にピエロが現れて座った。
「うわあああ!」
僕も両親も度肝を抜かれた。暗い部屋に白塗り顔のピエロは怖すぎた。
「驚いてくれましたか。はじめまして。わたくし、国立魔道士養成学校の校長でございます」
この状況で驚かす意味がわからなかったが、ピエロ、いや校長は話を続ける。
「まず、ご両親様、このような才能ある子を、よく産んでくださいました。ありがとうございます」
「は、はい……」
母さんはぼんやり返事した。まだ状況についていけていないようだ。
「息子のキルルさんは、特殊魔道士の一種、即死魔道士としての素質があります。即死魔道士の素質があるのはこの国では現在彼ただ一人です。唯一無二の存在です。彼には、将来、国所属の即死魔道士になってもらいます。というか、彼はそれ以外才能ゼロなのでそれしか道がないのですが」
「あの、即死魔道士とはなんですか」
父さんが尋ねた。
「はい。名の通り、相手を即死させる魔法を使う魔道士です」
「と、いうことは、その、うちの息子は即死魔法を使っていろいろなものを殺す仕事に就くことになると……?」
「そうです」
「そんな、そんなの悪い言い方をすれば殺戮兵器ではありませんか。さすがにそれは……」
父さんが戸惑っている。
「心配いりません。即死魔道士の主な仕事は急所や弱点がわからないモンスターの退治ですよ。そんな頻繁に出番があるわけではありませんし、ましてや人間を殺すようなことは、絶対ないとは言えませんが、どうしても彼の力が必要にならない限りありません。そして、即死魔法は心身の消耗も大きいので大量殺戮は不可能です。親御さんが心配なさっているほどおっかない仕事ではありませんよ」
「そうですか……」
父さんは微妙な顔をしている。なんせ校長はピエロの格好なので話に裏がありそうな雰囲気がしてしょうがない。何を説明されても納得しきれないだろう。なんで校長はピエロ姿なんだろう……
校長の話はさらに続く。
「そして、キルルさんは来月からわたくしが校長を務める国立魔道士養成学校特殊クラスに強制入学となります」
「強制、ですか」
僕は呟いた。
「はい、うちの国立魔道士養成学校は、適性検査でレベル100まで上がる、大きな才能ある魔道士の卵しか入れない学校です。火魔法や水魔法などの一般魔法のレベル100まで上がる素質がある者も入学してきますが、これは任意なのです。しかし、特殊魔道士だけは国王令により強制入学となります。もちろん、学費、寮費、経費は全て無料です」
「まあ、ただで学校へ通わせていただけるのですか、これはありがたいですわ」
母さんが言うと、校長は頷き、
「はい、18歳までの三年間、我が校が責任を持って教育させていただきます。特殊魔法だけでなく、一般教養もきっちりカリキュラムに入っております。こちらに入学に関する書類があるのでご記入を……」
「キルル、大丈夫かい、いきなり特殊な学校で寮生活なんて……」
母さんが僕に尋ねた。
「少し不安だけど、何も才能ないって言われて町に帰るよりかはずっといいよ。大丈夫」
「そう。キルルがそう言うなら、いいわ」
僕の国立魔道士養成学校特殊クラスへの入学手続きが始まった。母さんと父さんがいろいろ相談しながら書類に記入する。
「まだ他の地方の子たちの適性検査が終わっていないので、その子たちの適性検査が終わり、入学者が全員揃った来月から授業が始まります。ですが、キルルさんには明日から養成学校の寮に入ってもらいます」
「明日からですか、また急ですね」
母さんが言う。
「はい、特殊魔道士の素質があるものは目の届くところにいていただきたいのでね。それに、入学までの間、宿にいては宿代がかさむでしょう。是非寮費無料のうちの寮に来てください。授業が始まる来月までは特にやることはありませんから、昼間は王都を観光するなり、学内の学生と交流するなり、ご両親に会ってもよいです。好きに過ごしてくれて構いません。明日宿に迎えに参ります。キルルさん、これから養成学校卒業まで、ご両親とは暮らせなくなります。会うことができなくなるわけではないですが。なので、今日は両親とゆっくりすごしてください。それでは、失礼します」
校長は消えていなくなった。
その夜は宿で両親と過ごし、寮に行くため荷造りをした。
「キルルに才能が見つかったのは嬉しいけど、王都の学園の寮に入れることになるなんて、少し寂しいわ」
母さんがこう言うのは当然で、魔法学校なんて国中にある。僕が住んでいた町にもある。僕に魔法の才能が見つかったところで町の学校に行くことしか想定していなかっただろう。だけど、僕は地元の町を離れられるのが嬉しかった。両親と離れるのは寂しいけど、いじめっ子たちからは逃れられる。学校生活が上手くいったことがない僕は、養成学校生活もやや不安でではあったが、少なくとも能無し扱いはされないはず。なにより、魔法を習得することへ楽しみな気持ちの方が勝っていた。
朝になると校長が宿の部屋を訪ねてきた。今回はちゃんと宿屋をノックして入ってきた。ちゃんとノックして入ってきてもピエロ姿の校長はおっかない雰囲気がするから不思議だ。
「すみません。ご両親といえども国立魔道士養成学校は立ち入ることができないので、今からキルルくんだけ連れていきます。キルルくん、これから卒業まで両親と暮らすことはできません。ちゃんと挨拶しておきましょう」
「は、はい。父さん、母さん、行ってきます。今まで育ててくれて、ありがとう」
「キルル、元気でね。父さんも母さんもしばらくは王都にいるわ。昼間は会いに来るのよ」
「うん。わかったよ」
「では、行きましょう」
その瞬間、僕と校長は部屋から姿を消していた。
気がつけば僕は、校長と共に大きな学校の校門の前に立っていた。
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次回は学校案内です。