第26話 合同帰省の旅
合同帰省の日を迎えた。合同帰省のメンバーは、全員北地方出身で、特殊クラスからはポールトーマス、カランド、僕の三名。一般クラスからは十名集まった。全員一年生で、レベルは下は10から上は15までいる。
北出身と言っても、みんな出身の町はバラバラだ。なので、北地方の中で一番王都から近い街であるノースリタシティまでみんなで帰省し、そこからは各々自分の故郷に帰る形だ。ノースリタシティまでは歩いて三日ぐらいの距離で、僕たちぐらいの小魔道士としてはちょうどいい修行コースだろう。
僕たち合同帰省組は、王都の北の門に集まっていた。リーダーのポールトーマスが人数を確認したあと、説明する。
「みんな、予定通り、ここからノースリタシティまで向かう。割と歩きやすい道のりとはいえ、モンスターは確実に出るし、油断しないでくれ。それぞれ得意な魔法は違うから、助けあうようにな。それと、一般魔法クラスの生徒は、制服の色で得意な魔法がわかるから、いいとして……カランド、キルル、こっちに」
ポールトーマスに手招きされ、カランドと僕はみんなの前に出た。
「特殊クラスの魔道士の魔法について説明する。僕、ポールトーマスは複合魔道士だ。一般魔法を混ぜた魔法が使える。彼はカランド。音楽魔道士だ音楽を使ってモンスターを眠らせたり挑発したりできる。一般魔法もそこそこ使える。それから、彼がキルル。即死魔道士だ。名の通りモンスターを即死させられる。一般魔法は使えない。即死魔法は使える回数が限られてるから、手を焼きそうなモンスターが出たときの切り札として考えてくれ」
一般魔法クラスの面々が感心した顔で僕を見る。僕は一般魔法の授業ほとんどを受けていないから、一般魔法クラスの生徒とはほとんど面識がない。なのでまじまじ見られると緊張した。
「よし、天気がいいうちに出発しよう」
ポールトーマスの指示で一行は王都を出た。
王都の近くは、王都に出入りする市民や商人、見回りをする戦士などもいるし、割と人通りがあるし、道もそこそこ舗装されている。ポールトーマスを先頭に、一般魔法クラスの生徒が続き、最後尾にカランドと僕が並んで歩いた。最初は遠足みたいな感じで、爽やかな草原を歩いていた。僕は、横にいたカランドといろいろ話した。カランドは、午前はうちの学校、午後は音楽学校に行っているからかなり忙しく、近況を話す機会があまりなかった。
「カランドは、学校二つも行ってて大変じゃない?」
「大変だけど、音楽学校には適性検査を受ける前から入る予定だったからね。音楽魔道士の適性が見つかったのが想定外だったんだ」
「そうだったの」
「ああ。僕は魔法には元々興味なくて、音楽さえできれば、と思ってたけど、今はこれで良かったと思うんだ。僕より上手くバイオリンが引ける人間はいくらでもいるけど、音楽魔道士は僕だけだもの。あと、ワープマンも戦士学校兼任だしね。あの忙しさと比べたらましだよ」
「え!? ワープマンって戦士学校行ってるの!?」
初耳だ。ワープマンっていつも素早く行動し過ぎてて、プライベートを聞き出す暇もなかった。
「そうなんだよ。すごいよね。ワープマンって風魔法でもレベル100行けるから、魔法使いの素質もかなりのものなのに、元々格闘技に興味あって戦士志望なんだって。将来は瞬間移動魔法も加えて闇討ちできる格闘家を目指すらしいよ」
「なんか、すごいね……」
「うん。キルルは、一般魔法の授業なしだと、わりと時間空かない? その時間何してるの?」
「え?」
僕は、ホームルームのあと、一般教養の授業を一、二時間ほど受けて、そのあと魔導書を読んで、即死魔法を二、三回使ったらもう一日が終わってしまう。休日はだいたいスーと遊んでいる。僕なりに今まで頑張っていたつもりだけど、カランドやワープマンと比べると、僕の一日はずいぶん空虚な気がしてきた。
「キルル?」
「あ、いや、即死魔法は使える回数少ないから、もう少し回数を増やしたくて研究しているんだけど、なかなか上手くいかなくて……」
「なるほど」
ふと、地面が揺れた。舗装された石畳が割れて、地面の底からモンスターが現れた。棘のあるツタに、毒々しい花の頭がついている。
「火魔法隊準備。他のクラスは下がって」
ポールトーマスがすぐに振り向いて指示した。僕とカランドは、後ろに下がり、モンスターから離れた。赤い制服の火魔法クラスの生徒二人と、ポールトーマスの三人で、火魔法の呪文を唱える。化け花のモンスターは、火魔法の炎にあっけなく焼かれ、地面に崩れ落ち灰になった。
「水魔法クラス、消火して」
ポールトーマスの指示に従い、水魔法クラスの生徒二人が水魔法で周りに飛んだ炎を消す。
「よし、土魔法で道路を舗装し直そう」
土魔法の生徒が道路の石畳を作り直した。カランドも土魔法が得意なので参加していた。
「全員無事だな。先に進もう」
あっという間にモンスターが退治され、全員元の隊列に戻り歩きだした。
その後も、何匹かモンスターが出たが、皆一般魔法であっけなく倒され、僕の出番はなかった。みんな、僕が子供のころから憧れていた魔法使いそのもので、かっこよくて羨ましい。僕もその一員のはずなのだが、いかんせん出番がない。
せめて、夜野営する際に役に立とうと思ったのだが、薪は草魔法で用意され、火は火魔法で起こされ、風魔法で火を大きくして、夕飯の肉が焼かれていく。てきぱきと野営が行われ、水魔法で沈火された。そのあと、カランドが音楽魔法で、僕たちの周辺に眠りの魔法をかけ、モンスターが夜出てこないようにした。
こんな感じで、僕は全く出番のない一日だった。
「僕、役に立ってないね……」
僕は寝る直前、思わずつぶやいた。
「キルル、僕たちの目的は無事ノースリタシティに着くことなんだぞ。一般魔法で片付けられるモンスターだけ出てきてくれる方が旅はやりやすいんだから。そんなことで悩まなくていいんだよ。歯がゆいのはわかるけど、いざというときのために魔力は温存しとくんだぞ」
ポールトーマスはこう言ってくれたが、僕はやるせなかった。
「キルル、お前はネルを見習え。あいつなら魔法使わなかったらラッキーとしか思わないぞ」
「たしかに……ねえ、なんで、ポールトーマスはネルとそんなに上手くいくのさ」
「え? そんなこと聞かれても……もう寝ろ!」
はぐらかされてしまった。僕は、満天の星空を見上げながらしばらく考え込んでいたが、いつの間にか眠ってしまった。
読んでくださってありがとうございます!




