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第21話 何を殺すか

 ーー無益な殺生はいけませんよ。決して焦らず、皆を困らせているモンスターや動物だけ殺すようにしなさいねーー


 僕は、このところ、この母さんの言葉を守っていた。王都に紛れ込んだ小型のモンスターや、畑を荒らしたカラスなどを殺すことで即死魔法のレベルを上げていた。


 しかし、これだと、思うように殺す対象が見つからず、魔法が使えずじまいの日が出てきて、損している気がしてならない。もっとレベルを上げたい。いや、もう率直に言うともっと殺したかった。数もそうだが、もっと綺麗なものを殺したい。雑草より綺麗な花を枯らせる方が楽しかったように、わけのわからない毛玉のモンスターよりかわいい猫を殺したい。カラスよりも大事に飼われた色鮮やかな小鳥を殺したい。害のあるモンスターや害獣の醜さと殺しがいのなさときたら。剥製にする価値もないし。僕は何気にストレスを感じていた。


 とはいえ、この考え方がさすがにまずいのはわかっていた。道徳的にまずいというのは15年生きていれば、なんとなくわかっている。


「あの、校長先生、時間があるときに、少し話を聞いてもらえないでしょうか」

 僕は、ホームルームのあと、校長先生に話しかけた。

「このあと授業を受ける予定はありますか?」

「このあとは、ありません」

 今日は数学の授業の予定があるが、一時間後だ。

「じゃあ今ここで聞きますよ」

 特殊クラスの他の生徒は一般魔法の授業に行ってしまったので、教室はちょうど校長先生と二人きりになった。僕は自分の席に座り、校長先生は椅子を持ってきて僕の正面に座った。


「さて、キルルさん。お話とはなんですか?」

「あの、先生、『即死魔道士』の僕は、どこまで殺すのが許されているんですか?」

「何を殺したいんですか?」

「え、ええと……」 

「人道的なことは気にしなくていいですから、仰ってください。そんなことを聞くってことはなにか、まずいものが殺したいんでしょう」

 僕は素直に話すことにした。

「ええと、犬とか猫とか小鳥とか……飼われてるのは飼い主に悪いので、せめて野良を、と思うんですが、あんまりよくないですよね」

「人道的にはね。ただ、即死魔道士が何を殺そうが処罰はしません。飼い猫だろうと飼い犬だろうと人だろうと。法律の殺人罪も適用外です」

「そうなんですか」

 スーの依頼殺人も問題ないということか。

「はい。この学校はあなた達をレベル100の魔道士にすることを目的としていますし、そのためには手段を選ばない方針ですしね。ここの生徒も先生も、殺したかったらお好きに」

「いや、校長先生、さすがに校長先生がその考えはまずくないですか」

「ふふ。キルルさん、その分別があるなら大丈夫ですよ。何を殺すかはあなたの判断に任せます。そして、わたくしが、これは殺されたら困る、と判断したものは蘇生魔道士リリイさんを使って蘇生するまでです」


「こないだ、わたくしが『旧即死魔道士』と同級生だったという話しはしましたよね?」

「はい」 

「同級生には『旧蘇生魔道士』もいまして、『旧即死魔道士』はその『旧蘇生魔道士』のこと、好きだったんですね」

 僕と同じか。『即死魔道士』って、『蘇生魔道士』に惹かれやすいんだろうか。

「だけど、『旧蘇生魔道士』は在学中、わたくしと付き合っていました。わたくしは『旧即死魔道士』の恋敵だったんです」

「ええ!?」

 昔いろいろあったってそのことか!

「だから、『旧即死魔道士』が即死魔法で人を殺せるようになった途端、真っ先にわたくしを殺したんですよ」

「ええええ!?」

「当時彼女だった『旧蘇生魔道士』が蘇生してくれたから助かりましたけどね。当時の校長先生はわたくしに言いましたよ。『殺される方が悪い。殺されるような間抜けはこの学校にいらない。蘇生してもらえてよかったな』と」

「ええええ……」

 この学校って思いの外シビアなんだなあ。

「あの、校長先生と『旧蘇生魔道士』さんはその後どうしたんですか?」

「いろいろあって、別れてしまいました。別れた経緯はなかなかアレな内容なんで、キルルさんが大人になったときにでも」

 『即死魔道士』に殺されただけでも結構ヘビーだけど、この上さらにヘビーなことがあったのか……よっぽどのことだろうから、今は聞かないでおこう。

「あ、あの、『旧即死魔道士』さんと、『旧蘇生魔道士』さんは、その後は……」

「あの二人は、結局付き合いませんでしたね。『旧即死魔道士』は、あまりにも残虐性を表に出しすぎましたね。『旧蘇生魔道士』には好かれず仕舞いでした」

「……」

「キルルさんは、上手くいくといいですねえ」

「!」

 気づかれてる……

「話は、これでいいですか?」

「あ、はい」

「それじゃ。また困ったらいつでも話してください」

 校長先生は姿を消した。


 僕は未だにリリイと挨拶と少しの会話しかできずにいた。嫌われてはいないだろうけど、恋愛なんてできるんだろうか。


 結局、何を殺すかは僕が決めないといけないようだ。今のストレスとどう付き合っていくかも。僕はいろいろ考えた末、『迷っているうちは殺さない』ことにした。犬でも猫でも殺した後リリイに蘇生してもらうこともできるけど、リリイの僕に対する好感度は間違いなく下がるのでまずい。少しでもはばかられるものは殺さないことに決めた。だから、野良の犬と猫は殺さなかった。


 入学して三ヶ月、僕はレベル8になった。悪くないペースだったが、見境なく殺していればレベル9になっていただろうと思うと、少し悔しい気持ちもある。

 


読んでくださってありがとうございます!

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